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第5話 魔法屋

 昨日の腕相撲大会をした路地裏に入ったわけでもないのに、人通りが途絶える場所。

 大通りに面しているにも関わらず、どう見ても怪しいとしか思えない雑居ビルの五階の一室。


 そこにコルネリアが贔屓にしている魔法屋と呼ばれる店がある。


 魔法は炎や風などを発生させる言霊の総称であり、魔法使いや魔導士、賢者といった呼ばれ方をする所以になる。


 反対に武器などを具現化させたり変化させるものは同じ言霊でも魔法とは呼ばれない。


 コルネリアは魔法という言葉が好きだった。

 だから密かに魔導士レベルに到達しても魔法師メイジと名乗り続けたいと思っていた。


 昔、ギルドだった頃の名残のある七階建ての年季の入ったと表現するには薄汚れ過ぎているビル。

 他に並ぶ建物より奥まった位置に建てられているのも、近寄りがたい雰囲気を演出していた。


 魔法使い御用達どころか魔法協会にも認められている凄いビルだったりするとローゼは説明されたことがある。


 せっかく魔法協会から賞賛を受けた証の認定プレートも埃を被っていては台無しだが気にする者はいない。

 そんなものがなくても取り扱い品目数とクオリティの高さを見れば店の価値は一目瞭然だからだ。


 階段を上る途中、コルネリアはずっと上機嫌でこんな魔法はどうかな、ああいう魔法も必要だよねと熱く語っていた。

 まぁ、あれば便利そうだねとしか答えようのないローゼは、ただ楽しそうなコルネリアの話を聞くに徹するのだった。


「あら、ネリアちゃんいらっしゃい。ローゼちゃんは今日は武器屋じゃないの?」


 ヌルの魔法屋の名物、一部では名の知れた元ビルダー。

 おばさんといって差し支えない年頃の女性、ザシャ。


 今は定食屋にでも居そうなエプロン姿だが、ビルダーだった頃は相当凄腕だったらしい。

 未だにうちのパーティに入ってくれないかとスカウトが来るというのだから。


 ビルダーとしての腕だけじゃなく魔法屋としても素晴らしいのは、こんなボロビルの一室に似合わない、尋常じゃない品揃えに質の良い呪文書を見れば魔法に強くないローゼでも垣間見ることが出来る。


 雑多な雰囲気はシュタットの街並みを思い出させた。

 魔法屋や武器屋に武具類を取り揃えた店や書物で溢れ返った店に洋服やアクセサリーを取り扱う店、とにかく何でも一通り揃うようなところだった。

 近くでアンダーマインを捕獲した時は、リビルドに直行する前に立ち寄りたくなってしまうほど楽しい場所だった。


 コルネリアは目移りしながらもザシャに、

「今日はこのぐらいの予算でひとつ欲しいです」と、両手を開いて見せる。


「あらあら、何か報酬の良いリクエストでもあったのかい? 珍しいこともあるもんさね」


 あれでもないこれでもない、どこに置いたんだったか、とコルネリアが示す予算内でコルネリア好みの魔法を探している。時間がかかりそうだった。


「やっぱりちょっとアタシは武器屋行ってくる。あとでリビルドで合流しよ。じゃあな」


 退屈になったローゼはコルネリアを残して武器屋へと向かった。


 これもまたいつものことなので特に気にしたような様子もなく、コルネリアはどんな魔法と出会えるのかわくわくしていた。

 キラキラとした眼差しでザシャの姿を見守っている。


「そうだわ。ネリアちゃんならこれを使いこなせるんじゃないかしらねぇ。プリズムって魔法なんだけど、知ってるかい」

「プリズム? 聞いたことないです」


 更に目を輝かせ食い付くコルネリア。

 説明を受ける前から興味津々で手に入れられるなら欲しいと貪欲に感じていた。


「光の反射で攻撃をしたり、相手の攻撃を防御したり、惑わせたり、上手く使いこなせると万能な魔法なんだよ。使い手を選ぶ魔法だから今まで誰にも見せたことがなかったんさね」

「す、すごいですね。でも……そんな魔法だと相当高いんじゃないですか? それに私が使えるとは……」


 欲しいし試したい、けど説明を聞いた限り手が出そうにないと悔しそうに目を伏せる。

 金額も問題だが、自分の実力で使える魔法なのだろうかと。


「ネリアちゃんにならさっきの予算内で売ってあげるよ。いつも贔屓にしてもらってるからねぇ。おばさんの勘だけど実力云々で使える魔法じゃないと思うんだよ。ネリアちゃんのセンスなら実戦で使っていくうちにコツをつかめるよ」


 ぽんっと自分の胸をたたいておどけてみせるこの地域随一の魔法屋ザシャ。


 お世辞じゃなく本心から出た言葉だと思った。

 ザシャは金儲けより魔法の為の使い手を探して引き合わせるのが仕事だと思っている人だ。

 そんなザシャがコルネリアにだけ見せてくれた魔法。


 ちょっと悩んだ末にこう結論した。


「おばさまのご好意に甘えさせて頂きます! ありがとうございます!!」


 魔法を覚えること自体は魔法のセンスさえあれば比較的簡単だ。

 しかしそれは、ローゼのように魔力ゼロの魔法センスのない者にとっては縁遠いことを指す。


 コルネリアの右手に装備するリーベなら――中指の根本に銀のリングがあり銀白色の合皮と繋がり、手の甲を覆い真ん中には特殊な宝石――紅の宝玉部分に呪文書を吸収しインストールさせるだけ。


 あとは勝手に体が覚え魔力がどのくらい必要かどうかもわかる。

 そうして覚えた魔法は数知れず。

 リクエストの依頼を受けて尋ねた先で見つけた、得体の知れない魔法まで買ってしまうコルネリアなのだから。


 ザシャにコネクトでお金を払い、手渡された見慣れない装飾の呪文書の重みを両手で確かめる。

 会得する前からこの魔法との相性が良さそうな気持ちがした。


 リーベの宝玉に呪文書を当てる。

 すうっと透明になっていき、完全にリーベに吸収された。


「試しに使ってみなよ」


 これは何段階まであるのかはまだわからないが、必要な魔力が変動するタイプの魔法らしい。色々なことに使えると言っていたザシャの言葉をリフレインする。


 言われるままに少しだけ魔力を溜める為に詠唱し試みる。


 煌々とコルネリアの目の前に一瞬だけ光の壁が出来た。加減がわからず力が入ってしまったのかコルネリアは肩で息をしていた。


「はぁはぁ……。良い魔法ですね」

「そうだろ。ネリアちゃんなら気に入ってくれると思ったよ。ところで今回もローゼちゃんに自慢するのかい?」

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