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第30話 真相と喪失

 捕まったレナーテはすべてを自供した。

 始まりはフェリクスがあの大企業の創始者の孫だと知ったことからだった。


 たまにいなくなるフェリクスを面白半分でアロイスに尾行させていたら、とんでもない大物が釣れた、という感じだったという。


 ヘルマンの経営するホテルにフェリクスが作業用のつなぎ姿のまま入っていく。

 どう見ても場違いだった。

 ヘルマングループのホテルの中ではあまり大したことがないホテルの部類に入るのかもしれないが、一般的な感覚ではとても十代の少年が入れるような気安いホテルではなかった。


 ボーイらしき人物がVIPを案内するような場所へと連れて行く。

 いなくなったのを見計らい移動するとエレベーターがあった。


 中に入ることは何とか出来たが鍵がなければ動かないタイプだ。

 長居すると見つかった時に厄介だとアロイスはレナーテの元へと帰った。

 報告を聞いたレナーテはヘルマンの親族か何かに違いないと思った。


 確信に変える為、アロイスに命じ、フェリクスを誘拐させた。

 案の定、ヘルマンが動いた。

 ただそれだけの事実を確認する為だけに誘拐を実行した。


 アロイスはレナーテからの資金で野宿していたビルダーくずれのアンダーマインを買った。

 アロイスは計画を伝え行動を促す。

 何者かと聞かれても「ただの情報屋だ」と嘘を突き通すことで。


 レナーテに念を押されていたにも関わらず殺さないように伝えるのを忘れたとアロイスがレナーテに話すと、すぐさまルドルフに連絡を取った。

 あのアイテムをネリアちゃんにあげなさいと。

 まだ早すぎると答えるルドルフに、フェリクスくんの命がかかってるのよと誘拐の情報を流し脅した。


 過去の殺人についても証言しているという。アロイスを使っての暗殺。

 レナーテがリビルドマスターになる為に殺した人数はそう少なくはない。

 リビルドマスターになってからも自分を脅かす者は殺したり脅したり、遠くへ異動させたりした。


 その為かアンファングのリビルドマスターはしばらく不在になるという。

 後任がいないのだ。

 マスターになるだけの実力のあるものはアンファングにはレナーテしかいなかった。

 それもまたレナーテの計画の賜ということになるかもしれないが。


 今回事件を起こしたことについてはこう証言したという。


「フェリクスを人質にすることであのヘルマングループを操れるようになれたら、私世界のトップに立ったのと同じだと思うの! この数年それだけを夢見て生きてきたわ」と。



 フェリクスから廃倉庫の話を聞き、駆けつけたビルダー達はアロイスを捜した。

 しかし、アロイスの姿は見当たらなかったとのこと。

 大量の血溜まりから血痕が続いていたので、今現在も後を辿り捜索中だという。

 ローゼ達には知らせない方がいいと、アロイスのことは秘密裏に話は進んでいた。


 ヘルマンは自身の入院する室内にベッドを二つ持ってこさせ、ローゼとコルネリアを同室にし入院させた。費用も全額負担した。

 年頃の女の子を年老いているとはいえ自分みたいな男と一緒の部屋にすることに抵抗がなかったとは言い切れないのだが、ヘルマンは自分と大事な家族を守ってくれた二人を目が届く範囲にいさせたかったのだ。


 ヘルマンは謝罪の一つとして、ローゼを撃ったリーンハルト達に護衛をさせた。言葉でただ謝るぐらいなら成果を上げてみせろと怒鳴って。


 フェリクスはヘルマンの見舞いに来ることが出来た。

 今回の一件でアンファングとヌルのリビルドには大企業創始者ヘルマンの孫だと気づかれてしまったからだ。

 もうヘルマンと会うことはないのかと危惧していたフェリクスに、リビルドのみんなは


「こっちのリビルドの過失で依頼主を怪我させたんだから、お前が退院するまで見舞いに行ってこい。あくまでもリビルドの一員としてな」


 と言ってくれたのだった。


 どちらのリビルドもフェリクスがヘルマンの孫だといっても「悪い冗談はよせよ」といった感じで忘れてくれているふりをしてくれた。

 今まで通り、ただのフェリクスとして扱ってくれるということらしい。

 好意に素直に甘え、ヘルマンとローゼ達の見舞いに行くフェリクスだった。

 もしかするとこのことも見込んでのローゼ達の同室希望だったのかもしれない。




 二人が目を覚ました時、誰もいなかった。


 ヘルマンは見舞いに来たフェリクスと病院の中庭を散歩でもしているのだろう。


 ローゼもコルネリアもどちらもショックが大きすぎて言葉を出せなかった。

 涙も流せなかった。


 一緒にリクエストをと思ったアロイスが敵だったこと、ずっと信頼を寄せていたレナーテが首謀者だったこと。


 何を信じていいのかわからなくなりそうだった……。


 どたどたどたと病院らしからぬ音が廊下から響く。自分達には関係ないと思っていたら、賑やかにガラガラガラと扉がひかれた。


「ローゼ! ネリアちゃん! 大丈夫かい!?」


 病院の廊下を走り、病室の扉を遠慮なく開け、大きな声を出すのは……ヌルにいるはずのルドルフだった。


「おっちゃん……」

「ルドルフさん……」


 どうしてここに? と思うが口に出す気力がわかなかった。


「ローゼもネリアちゃんも生きてて良かった。二人に何かあったらどうしようかと……、生きていてくれて本当ありがとう。私がレナーテの思惑に気づかず紹介したリクエストのせいでこんな目に……怒ってくれて構わない。でもその前に二人の無事を喜ばせてくれ!」


 言いながら答えも待たず、ローゼ、次にコルネリアと抱きしめるルドルフ。

 二人は、やっと泣けた。

 帰る場所が、待っている人がいることに泣いた。


 ルドルフは二人の父のようにベッドの間に膝をつき温かく二人の手を握り続けた。

 二人が泣きやむのを見届けると再びルドルフが口を開いた。


「二人とも歩くくらいならもうできるだろう?」

「ああ」

「多分、大丈夫です」


 何の話をされるのかわからず畏まる二人。


「お医者さんを無理矢理言葉でねじ伏せて、今日だけ外出許可をもらったんだよ」

「ルドルフさんらしくない行動ですね」


 コルネリアが不思議そうに首をかしげる。ちりんと鈴が鳴った。


「ああ、それだけは外したくなさそうに触れていたからつけたままだよ。首には怪我もないようだったしね」


 ローゼも自分の首に手を伸ばしてみると確かにフェリクスからもらったチョーカーが身につけたままになっていた。

 あの時確かに砕け散ってしまったはずの鈴もちゃんとそこについていた。


「さあ、着替えて。私は病室の外で待っているから」


 返事も聞かず退出するルドルフ。


「どうする?」

「アタシ考えらんないから、おっちゃんの言うとおりにしとくよ」

「じゃあ、私も」


 ベッドの横に丁寧に畳まれているいつもの服に着替える。

 念の為に武器も装備しておく。

 まだアロイスかレナーテが襲ってきそうな気がして怖いのだ。


 アインタウゼント、リーベ、それぞれを身につけたローゼとコルネリアは「やっぱりこの格好じゃないと落ちつかないね」と言い合っていた。


「お待たせしました」そう言おうとしてコルネリアは言葉に詰まった。


 ルドルフだけじゃなくフェリクスやヘルマンがいた。


「おかえり、ローゼ。おかえり、コルネリア」

「うむ、思ったより元気そうじゃな」


 何を言っていいのか、何をすればいいのかわからず黙り込むローゼ達を見て、三人は苦笑いした。


「二人を責める気なんてないよ」


 フェリクスが代表してそう言うが、ローゼ達は顔をあげられなかった。


「ともかく、わし達と一緒に来てもらうぞ」


 ヘルマンを先頭に歩き出す。結局何も口を開けないまま廊下を歩き、駐車場に着き、言われるがまま車に乗った。

 ずっと無言だった。どこへ向かっているのかすら聞けなかった。


 ドン! っと大きな音が外から響く。

 敵襲かと短剣アインタウゼントの柄を握りしめたところでフェリクスに止められた。


「ロージィ違うよ、空を見て。ほら、大きな花火」

「花火……」


 まだ花火には早い茜色をした空を見事な火の花が咲いていた。

 次々と上がる鮮やかな色の花。

 ローゼ達は車の窓からぼうっと見ていた。


「着いたよ」


 運転をしていたリーンハルトが声をかける。ローゼはびくっとした。


「この間は悪かった。疑ってすまない」


 車を降り、車中のローゼがいる側のドアを開け謝るリーンハルト。このまま何も答えずにいるとずっとこの姿勢のままいられそうな気がした。


「いや、気にしてないよ。謝らないでくれ……」


 消え入るような声で言ったが通じたらしい。手を取り降りられるように補助するリーンハルト。

 ローゼが車から降りると今度はコルネリアがいる側のドアを開けに行き、謝った。


「あの状況では私たちが犯人だと思われても仕方がなかったと思います。なので謝らないで下さい……」

「ありがとう」


 コルネリアは自分で降りられますと辞退した。真ん中に座っていたフェリクスとルドルフに助手席にいたヘルマンが同時に言った。


「おかえりなさい」

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