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第29話 真犯人との最後の時間

 アンファングのリビルドの特別室の前に、ローゼとコルネリアの姿はあった。

 手にはイフリートから手渡されたアンファングリビルド特別室へのパス。


 ローゼは覚悟を決めていたが、コルネリアはまだ信じられないといった顔をしている。


 傷の絶えない身体のまま立ちつくしていたが、ローゼはコルネリアからパスを受け取ると特別室の扉を開いた。


 もう後戻りは出来ない。


 彼女は相変わらず窓の外を見下ろしていた。扉が閉まる音でローゼ達の存在を知る。


「あら、あなたたちどうしたの? ……そんな大ケガして。今リビルドの救護班を呼ぶわ」


 受話器に手を伸ばす彼女を制す。


「必要ない」


 ローゼは普段の力強さとはまた別の声で彼女の申し出を拒絶する。


「でも、凄い怪我よ?」


 あくまでもいつもの、ローゼ達の知る彼女のままなのが悔しかった。


「レナーテさん……」


 コルネリアには信じられなかった。ローゼの推理が。

 ただこういう時のローゼの推理は外れない。


「フェリクスはどこですか?」


 ローゼはここにいるものだと決めてかかって問い詰める。


「まだ見つからないの、いったいどこに――」


 まだ演技を続けるレナーテに苛々した。


「フェリクスを返せ!」

「ローゼ、どうしたの? ネリアちゃんどういう――」

「とぼけないで下さい、フェリクスはここにいるんですよね?」


 コルネリアにまで同じことを言われたレナーテは、アロイスみたいには手懐けられないのねと呟いてから表情を一転させた。

 命を軽く扱うような、そんな笑顔。


「なぁに? ばれてたの。何? 情報源はアロイス? まったく口が軽いんだから」


 いつものおっかないところもあるけど優しく二人を迎えてくれていたレナーテはもういない。

 雰囲気が変わるとせっかく綺麗な色の桜の髪もくすんで見える。顔も老けて見えた。


「違う。アロイスは何も話していない。……アロイスは死んだ。アタシはあんたが怪しいと途中から考えていた」


 一息整えるとローゼは自分の考えを吐露した。


「あんただけなんだ、アタシたちの動向も知っていて、アロイスやルドルフやヘルマンさんと通じていたのは。それにアロイスをヘルマンさんに推薦出来たのもレナーテさん、あんただけなんだ!」

「それだけで、犯人扱い? 心外だわ~」


 デスクの引き出しを開け、煙草を取り出すと火をつけ、吸い始めるレナーテ。

 煙草を嗜むところなんて一度も見たことがなかった。

 コルネリアは目の前の知ってるはずの人間が違うものに変わっていく様が怖くて仕方がなかった。


「あんたが犯人だと考えると色々符号が繋がってくんだよ。まず、ヘルマンさんからの依頼を受けられるようアロイスをけしかける。あの時のフェリクス誘拐から始まってたんだ、今回の作戦は」

「そう、それで?」

「なんらかの方法でフェリクスがヘルマンさんの家族だと知ったあんたは、あんな誘拐を企て、おっちゃんにわざとアタシたちに助けさせるようにあのアイテムを渡し、万が一にでも死なれたら困るあんたがコルネリアのバージョンアップを試みた。計算通りに進み、あんたは笑ってたはずだ」


 ローゼは荒くなる呼吸を再び整え、続きを語り始める。


「アロイスの襲撃を受けたヘルマンさんから依頼を受けたあんたは、ヌルのリビルドならフェリクスの知り合いがいるとかなんとか言って、アタシ達にも依頼が来るように仕向けた。多分、それはフェリクス誘拐を知るアタシ達ならやりやすいと考えてのことだろ? 結果ヘルマンさんの警護の仕事をルドルフのおっちゃんに根回ししていたあんたの思う通りに事が運んだ。違うか?」

「……そうよ。でも計算外ね。あなたがこんなに頭が回るだなんて」


 特別室長の机の椅子を回転させる。そこに縛りつけられたフェリクスの姿が見えた。


「「フェリクス!!」」

「せめて、最期に言葉ぐらい交わしたいわよね」


 優しい笑顔を浮かべたかと思うと、ローゼとコルネリアの胸を次々撃ち抜いた。

 煙草を吸ったのは銃を取り出す為のフェイクだったのか。


 口に咥えたままだった煙草をフェリクスの腕に押しつけて火を消すと床に捨てた。

 そうしてからフェリクスの口を塞ぐガムテープを剥がした。


「――ろ、ロージィ!! コルネリア!! レナーテさん!!?」

「ごめんね、あなたのお友達は死んじゃったわ」


 歪んだ顔をフェリクスに近づけた。悪魔の口づけをするかのように囁く。今度はあなたよ、と。

 でもフェリクスは怯まない。二人が死んだとは信じない。


「あげたお守りを床に叩き付けて!! ローゼ、コルネリア!!!」


 フェリクスが何度も同じ言葉を繰り返す。繰り返せば繰り返す程二人が立ち上がれると信じるように。

 レナーテの言葉には耳も貸さない。死んだなんて言われても信じてやらない。


 何度目かのフェリクスの言葉に、息も絶え絶えな状態ではあるものの二人が首からチョーカーを手に取り、弱々しくも叩き付ける。

 チョーカーの鈴は砕けて霧散した。

 紅色と蒼色の霧がそれぞれの体を包み込んでいく。


 すると、二人の胸の傷は治癒していき、虫の息だった二人に変化が現れた。


 ローゼとコルネリアが煌びやかに光る。その光に片目を焼かれるレナーテ。

 ローゼはチャンスとばかりに何とか立ち上がり、二丁拳銃を構える。


「私に実弾は効かないわ」


 と片目を押さえながら魔法で防御壁を展開する。


 実弾が効かないと言われようが、それでも壁を維持している方の腕を狙い撃つ。

 ガラスにヒビが入るように透明な防御壁は容易く壊れた。

 そのまま弾丸は突き抜けレナーテの腕が撃ち抜かれる。


「どうして!?」


 ローゼの銃から撃たれる弾丸は魔力を帯びていた。

 そう考えたレナーテは防御壁を魔法用に組み替える。


 コルネリアはプリズムの魔法を使った!

 大きな歪な塊と具現化し、レナーテの体全体に打撃ダメージを与えた。またも壁は破られた。


「どう……してよ! あなたたちめちゃくちゃじゃないのよ!!」


 ほとんど悲鳴声のレナーテ。

 その声に応えたのはフェリクスだった。


「僕のお守りが効いたんだよ。ローゼには魔力を、コルネリアには打撃力を」

「格闘バカのローゼは魔力ゼロじゃないの? 魔法バカのコルネリアは攻撃力ゼロなんじゃないの? どうしてどうしてよ!」


 ローゼとコルネリアそれぞれに銃を乱射し、魔法を乱発する。

 魔力の籠もった弾丸で魔法を打ち消す、打撃防御で弾丸を受けとめる。


「どうして、どうして効かないのよ! 私だって昔はビルダーだったんだからっ!!」


 二人はダメージを負いすぎているのが目に見えてわかる。肉弾戦に持ち込めば勝てると踏んだレナーテがコルネリアをまず標的にする。


 外から扉をノックする音が聞こえ、一瞬レナーテは動きを止めた。

 瞬間!


「コルネリア! もう一度プリズムの魔法だ!」

「もう準備オッケーだよ!」


 と、ローゼが翔びレナーテを羽交い締めにして動きを封じ、コルネリアのプリズムの打撃攻撃がレナーテに直撃!


「う、そ……でしょ……」


 何とかローゼ達はレナーテを打ち倒した。

 ローゼとレナーテが倒れる音が床に響く。


「何かあったんですか! レナーテさん!」


 パスを使って扉が開く音がする。


 レナーテの悲鳴を聞いて駆けつけたリビルドの人達が目の前の光景を見て困惑した。

 服も切れ切れになり燃え尽きたように倒れるレナーテ。

 血を流し肩には穴まで開いている状態で床に突っ伏すローゼ。

 ワンピースがずたぼろになるほど困憊状態のコルネリア。

 椅子に縛られているフェリクス。


 唯一、話が出来そうなフェリクスにリビルド員は聞かずにいられなかった。


「フェリクス! どうなってんだこれは……」

「レナーテさんが、犯人です。またローゼとコルネリアは僕を助けてくれたんです、間違えないで下さい」

「フェリ……クスを……頼む」


 近くに来たリビルド員のズボンの裾を掴み懇願するローゼ。

 訝しげに思いながらも「当たり前だ」とリビルド員が答え、フェリクスに縛られたロープを解いている姿が見えた。


「ロージィ、コルネリア! 死なないで! 早く僕なんかより、早く二人を!!」


 二人はフェリクスの声を遠くに感じながら、意識が途切れた。

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