番外編 第12話 酷い女
「ねぇ? ねぇ、どうしてビルダーをやめるのかしら?」
私は言った。何度も聞いた。答えが返ってこなくても聞いた。どうしてだかわからない。今日も三人で難易度の高いリクエストをクリアし、祝宴をあげた。
部屋に戻り彼と一緒のベッドにいる時だった。彼は唐突に「ビルダー遊びは終わりだ」と言った。どういう意味かと聞き返した。もしかしてリビルドのマスターになりたくなったのかしらって。違った。アロイスにはビルダーでは物足りないのだ。
酒を飲んで上機嫌な時、たまに昔話を聞くことがあった。彼は自分の村を守る為に強くあろうとしたと。結果村を滅ぼすことに荷担してしまったこと、今まで数多くの人間を殺めてきていたこと。
私は正直いって酷い女なのだろう。
“罪のない人間ですら殺せるこの人ならアンダーマインなんて何の情も湧くことなく簡単に殺せるだろう”
“過去の経験はビルダーとして生かせる”
そうとしか捉えなかったのだから。彼はまだ機械的に腰を動かしていた。
アロイスにとってのレナーテは一体何なのだろう。心の支えになれている自信はない。だけれど、アロイスは私を主人のように思っている節がある。上下関係。一番しっくりくる言葉だった。
「もうビルダーをやめることに反対しないわ、でも籍を残しておいてくれると助かるの。ねぇ? 私のために働かない?」
もう一人の欲深な私が罪深い考えを彼に飲ませようとする。アロイスは私の言葉を聞いて、動きを止めた。
「どういうことだ?」
「私はどうしてもリビルドのトップになりたいの。ビルダーもその為の足がかりでしかないわ。だから」
「邪魔な人物を俺に殺せと言いたいのか」
「アロイスのそういうところが大好きよ」
彼の首に手を回し、自分の体へと近づける。耳もとで私は囁く。「きっとあなたの足りないものは満たされるわ」と。
「レナーテ聞いたか! 俺たち同様、リビルドマスターを目指していたベンノが殺されたって!」
ルドルフがリビルド内で私の姿を見つけるなりニュースを伝え、顔面を蒼白にしているのが内心面白かった。だってそれは私達の仕業なのだから。
「え! そうなの? 私にも優しくしてくれるいい人だったのに……」
しおらしく泣くふりをする私の肩を抱いて、気を落とさないようにと気遣ってくれるルドルフ。ちょっと待っててといいホットミルクをもらってきてくれた。
「これでも飲んで芯から温まるといいよ」
「ありがとう、ルドルフ」
本当はあまり好きじゃないホットミルクをちびちび飲む。傷心したふりを続けながら見ると想像していた以上にリビルド内は騒ぎになっていた。
死体は体を斜めに斬られていたはずだ。顔がなければ誰だか判断できず、私の思惑が外れてしまう。アロイスは私の言う通りに動いてくれたらしかった。この場にアロイスはいない。まだやってもらうことがあったからだ。
どこかからか次の候補はレナーテじゃないかと心配する声が聞こえてきた。はっとする私。怖さからじゃない、嬉しさが滲み出そうになったのだ。ルドルフや他の仲間が心配し、
「レナーテにはアロイスとルドルフがいるし大丈夫だよ」
「それにしてもアロイスはどこにいるんだ、こんな時に」
といった叱咤まで。
笑いを堪えるのが必死で震えた。また良い方向に誤解される。そうだ、もっと早くから実行していれば、私ももっと若い内からリビルドマスターになれたはずなのに。
いや、そんなことはない。アロイスと出会えたからこその作戦。そう、これはアロイスからの恩返しなんだ。私とルドルフがアロイスを勧誘したことに対する正当な対価。
だからこれからもアロイスに気を遣う必要なんてない。アロイスは私の物。アロイスが私の為に動くのは当然。もし万が一作戦の首謀者が私だと感づかれることがあればアロイスを盾に、悲劇のヒロインを演じよう。
「ルドルフ、今いいか? 悪い知らせだ……」
「あ、いや、でも今は」
「もう私は大丈夫だから、私にも聞かせて?」
「レナーテ。わかった。……ここの特別室室長でもあるリビルドマスターも遺体で発見されたらしい。背中から一突きだそうだ」
「そんなオスヴァルトさんまで! ……レナーテ大丈夫か?」
ルドルフの方がよっぽどまいった顔をしているのに私を心配してくれている。
「大丈夫よ……。それより変ね、リビルドマスター候補とリビルドマスターが殺されるなんて。もしかしてこのリビルドに恨みを持つ者の犯行?」
「ああ、そうかもしれない。レナーテもルドルフも気をつけろよ。お前らリビルドマスターになるのが夢なんだろ?」
「私は大丈夫よ。ルドルフもいるし、アロイスもいるんだから。ね、ルドルフ」
「命に代えてもレナーテだけは守るよ」
私はこの言葉を聞いて、ルドルフを殺すことを止めにした。どうせルドルフはヌルとかいう田舎町でリビルドマスターがやりたいといっていたし、私の敵になることはないだろう。もし同じリビルドのトップになるとしてもルドルフは私に譲るに違いない。ルドルフは私のことを愛しているのだから。