第4話 いつもの日常
決して広いともいえず小綺麗なだけの部屋。
一つしかない窓からは朝日が差していた。
閉じていたはずのカーテンが開いている為、ソファに横たわるローゼの顔を照らしていた。
部屋には一人用のベッドとソファがそれぞれ一つ、生活に困らない程度の家具類があった。
今日はローゼがソファで寝る番だった。
二人でそうやって交代しながらこの宿を根城にしている。
目映さからか目を覚ます。
寝床としていたソファに座り直し、腕を伸ばそうとした時、身支度を終えたコルネリアと目が合った。
コルネリアはとっくに起きていたらしく、ローゼが起きるのをまだかまだかと待ち構えていた。
「ローゼ遅いよ。ほら早く魔法屋見に行こ?」
「うーん……着替えは……ジャケット羽織るだけでも良いけどさ……、あ、朝飯ぐらい食わせてくれよぉ……」
寝ぼけ眼で寝癖のついたショートボブ、いつもの姿からは想像がつかないほど力ない話し方をするローゼにお構いなしにこう言ってのける。
「朝食は屋台で食べれば良いよ。さ、起きて準備して♪」
「ふぁ~い……」
機嫌が良いのは良いことだけど毎回こうなのは困るなぁと思うが、何だかんだいってもそんなコルネリアに付き合うローゼだった。
支度を済ませ外に出ると、からっとした風が吹くさわやかな晴れ模様。まだ街は眠りから覚め始めたところ。
走り出しそうなコルネリアの後をあくびを噛み締めながらついていく。
「おはようネリアちゃん、ローゼ。今日は早いね~」
「おはようございます! はい、今日はお買い物日和かなと思って」
「わはは、違いないね。後で寄ってかないかい? 南の果物が良作らしくて、おいしいのがあるよ」
「それならうちの野菜も良いのが入ってるよ。ネリアちゃん、どうだい?」
「ちょっとちょっと、客をとらないでくれるかい!」
「ふふ、どちらも素敵です。今日はお料理日和でもあるかもしれないですね」
コルネリア達の会話と開店準備に勤しむ人達を見ているとローゼの調子もあがってきた。
「コルネリア、早く飯食おうぜ。野菜と果物はあとにしてさ」
「ローゼは黙っててくれないか」
「あはは、悪ぃ」
そういって話を切り上げ、ローゼ達は店屋のおばさん達に手を振る。
「帰りにでも寄ってくれよ!」と声がするが、いつものことなので笑顔を返すだけにした。
今の時間でも開いている屋台はどこかにないかと、拾い歩きをしているとあまり見かけた覚えのない屋台があった。
「あ、タコヤキなんて売ってる。珍しいなぁ」
「知らないお店だね。他の街から流れてきたのかな」
「そうだなー。おいしそうな香りがするんだけど、初めての店だし悩むな。コルネリアはこの店当たりだと思う?」
「どうだろうね、私は試してみても良いと思うけど」
「よしっ。他の屋台はまだやってなさそうだし、アタシも何でも良いから腹を満たせればいいや。兄ちゃん、タコヤキ二つ!」
「あいよ!」
頭に布を巻いた威勢の良い青年は、熱された黒い鉄板にくり抜かれた丸い穴にある球状の塊を器用に転がす。
もうほとんど出来上がっていたらしく長い竹串で一刺しすると、リズミカルに次々と箱に入れていく。
かけられたソースの香りが食欲をそそった。
二人は屋台で買ったタコヤキを手に、噴水の近くまで移動しベンチに座った。
膝の上にさっき買った朝食を広げると、手慣れた様子で竹串でタコヤキを刺して口に頬張る。
「あつっ」
「そんながっついて食べるからだよ、猫舌なのに」
「アタシはコルネリアみたいに熱いものとか平気じゃないの」
さらりと食べるコルネリア、おっかなびっくり手を出すローゼ。
普段の様子とは反対に見える。
段々と人も増え、大きな噴水――冬には色とりどりのライトアップされるヌルのシンボル――のある公園に陣取った二人は、早足で急ぐ人々の姿を見ながら、タコヤキを食べる。
「甘辛いソースがおいしい~。お肉が入ってるのもありかも」
「うわ、これタコどころか具が一切ないんだけど」
「私のにはそういうのなかったけどなぁ」
早々に食べ終えたコルネリアが口もとのソースをハンカチで拭きながら続ける。
「やっぱりあやしかったね」
「そう思ってたなら、なんであの屋台にしたんだよ!」
ローゼのそういう姿が見たかったからとは口に出さないコルネリアだった。