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第27話 取り戻す為の闘い 2

 二階フロアにはコンテナは一つもなく広々としている。

 一つの窓から入る光がスポットライトのようだった。

 だからすぐに目についた。光の中には人影が見える。


 ローゼは二丁拳銃を慎重に構えながらも、コルネリアを庇うように担いだままでいた。


「マテューはやられたのね」


 人影が喋る。

 相手の出方を油断なくはかる。

 さっきのように知らずに操られていたなんてのは嫌だからだ。


「あんたもアロイスの仲間か」

「なんですって? 愛しのアロイス様を呼び捨てに!」

「なっ!」


 いきなり感情の高ぶりを見せたかと思えば、それなりの距離があったはずだというのに詰められていた!

 ヤバいと動物的な勘が警鐘を鳴らす、一丁の銃を相手に投げつけ、もう一丁の銃を発砲する。


 そうすることで出来た隙にコルネリアを横に放り投げる。

 このままじゃ二人ともやられてしまうと思った咄嗟の判断だった。


 相手は怯むどころか攻撃魔法を仕掛けてきていた。銃で防ごうとするが弾かれる。

 手が焼ける、落とした銃を一丁だけでも拾おうとするが、女はローゼの左脇腹の傷を正確に魔法で焼いた。包帯が焦げて消えていく。


「あああっ……!!」

「効くでしょう? うらやましいわ、アロイス様につけられた傷。なんて憎らしい」


 ローゼの返事なんか待ってなんかいない。何度も何度も同じ場所を焼いて妬いて灼いた。


「ぐっ……」


 根性で立ち続けるローゼ。このままじゃ勝機がない。

 武器は投げつけたまま拾い損ねている。とりあえず今は痛みに耐えるしかできない。

 マテューとの戦いで体力も気力も奪われたままのローゼ。投げつけてしまってからただ撃つだけでもよかったと思った。


「あら、効かないの? じゃあ、あっちのお嬢ちゃんはどうかしら……」


 矛先が変わった。


 反射的に駆け出し、相手に無防備に背を向けた状態なのも構わずコルネリアに飛びかかり覆い被さる。重さと衝撃にコルネリアが小さく呻いた。


「ぐあぁぁぁああぁぁああああああっ!!」


 それまでの体を焼く攻撃とは違い、熱した杭のようなものがローゼの肩を貫いた。

 これは抜かない方が良さそうだなと頭を過ぎったのを最後に、ローゼの意識はそこで途絶えた。


 コルネリアは誰かの悲鳴と重みで目が覚めた。


 ロージィ……?

 もうねぼけたりして……よだれが顔にかかってるよ、ほら赤いよだれが……赤い?


「ローゼっっっ!!」


 一気に覚醒した。自分の顔を濡らすのは血だと、ローゼの血なんだと!

 よく見るとあちこち血塗れで焦げた匂いもしていて……


「……よくも……、よくもローゼを!! あなたのことは全く知りませんが許しません」

「お目覚め? お友達はおいしく調理しておいてあげたわ。お気に召したかしら?」

「あなたはもの凄くまずそうですから、調理のしがいはなさそうですね」

「くっ」


 詠唱力を高める。

 コルネリアの潜在能力はリビルドのテストでは判定できなかった。本人はまだまだだななんて落ち込んでいたが、実際はその結果はとんでもない力が眠っていることを意味していた。

 元々素質はあったのだ。ただ実戦経験などが少なく伸びることが今までなかっただけで。


「アロイス様に一番お似合いなのはこの私、ジルケ」

「………………」


 無言を貫き力を高めていく。

 コルネリアが風を纏う。

 いや、風が纏わされている。

 あまりの力に金色の髪はぶわっと膨らみ、スカートもばたばたとはためいている。


(何度もプリズムを使ってわかったことがある。この魔法は本当に凄いということ。だから試したことはないけれど、消費の激しい三段階目の魔力を使えば“一撃で仕留められるはず”)


「なあに、なにも喋らないなんてつまんない女。私の敵じゃないわね」

「……あなたみたいな人、アロイスさんは嫌いだと思います」

「なんで……すって……!!!」

「だってケバくておばさん臭ひどくて、私までゲテモノになっちゃいそう」

「言うわね、お嬢ちゃん!! 私の一番の魔法で消してあげる!」


 ジルケも精神を集中させ始めたようで黙り込む。

 とてつもなく強大な魔力を肌にピリピリと感じる。強すぎる。

 ローゼの傷を見てもわかっていたことだった。


 今のコルネリアには魔法を具現化させて杭状にして貫くなんてことはできない。そんなことは出来ないけれど、コルネリアにしか出来ないこともある。


 ローゼの拳銃を拾いに走る。宝玉に指三本で触れ短剣に変えた。


「消えなさい!!」


 大きな大きな半透明の球体がジルケの頭上にある。

 具現化し視覚化されるジルケの魔法。喰らうが最期。

 コルネリア目掛けてそれは飛んできた。速度は桁違い。避ける時間など与えない。

 

 一瞬で勝敗は決した。


「あははははは」


 ジルケは笑おうとして笑ったわけではなかった。人間本当に恐怖した時は笑うしかないというやつなのだろう。


 自分が放った魔法が自分に向かって返ってきているのだ。そんなバカな。あの小娘にそんな魔力なんて!


「自分で説明するのもバカな話ですけど、私魔法マニアで、珍しい魔法から役に立たない魔法までなんでも欲しくなっちゃうんです。だからこそ出会えるレアな魔法があって。これがそう、プリズム。アインタウゼントに私の影響で蓄積された魔力を解放して、リーベの魔力にプラスして、ただ魔法を術者に反射させる壁を作ったんですけれど。……あ、もう聞こえてませんね」


 くすっとローゼですら見たことのない笑みをコルネリアは浮かべた。


 コルネリアの言う通り、ジルケはあっけなく自身の魔法でやられていた。

 コルネリアは一切の手加減をしなかった。すれば倒れていたのはコルネリア達だっただろう。

 生きてはいそうだがもう魔法使いとして再起することはないと思われた。


 コルネリアは魔力を使い、ジルケが気絶していることを確認すると、しばしの余韻に浸っていた。


 ローゼには気づかれていないと思っているようだが、コルネリアは強すぎる魔力に溺れて力を使う快楽に飲み込まれてしまう時があった。

 最近はコントロールも上手くなりそういったことはなかったのだが。


「ふふっ……魔法ってやっぱりすごい。もっと使いたかったのに」


 ジルケの倒れる姿を見続けながら、あんな魔法やこんな魔法を試すのも悪くないかもしれないと夢想した。

 自分にも魔法を具現化させる力があれば良いのに。あんな風に出来てしまう魔法の力が。


 ジルケの観察を続ける視界に黒いものがちらと見えた。


 あれは、何?

 もの?

 それとも人なの?


 ヒ……ト?


「そうだローゼが危ない!」


 コルネリアは正気に戻り、走ってローゼの元へと急いだ。


「ロージィ! ロージィっ!」


 我に返ったコルネリアは覚えている限りの治癒魔法をかけようとする。

 杭は同系統の魔法をぶつけることで相殺し消滅させられるが、まだこの時点でのコルネリアには不可能だった。


 止血だけを施し、あとは体力を回復させなければとコルネリアは焦る。

 このままじゃ死なせてしまう。


「ロージィ……!」


 もう一度名前を祈るように呼ぶと、命を注いででも回復をと考え詠唱し始めようとした時――コルネリアの腕を掴む手があった。


「え?」

「……大丈夫。安心しろ」


 掴んだ手を離しぐしゃぐしゃとコルネリアの頭を撫でた。


「ロージィ……ごめんね」

「アタシこそ、いや、ありがとうな。治癒はあとでいい」


 バッグから緊急用の鎮痛剤と栄養剤を取り出し、水もなしに嚥下する。

 即効性があるが強力な副作用があとから来る為に、あまり使用されない緊急時用の薬だった。

 コルネリアは咎めることが出来なかった。


「行こうぜ、フェリクスが待ってる」

「……わかった。あ、ローゼこれ忘れてるよ」


 短剣の形をしたアインタウゼントを手渡す。


「わりぃ、さんきゅー」


 ローゼの気持ちが痛いほどわかるコルネリアだからこそ理解した。

 だからローゼが戦えない時は自分が戦おうとコルネリアは決意する。

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