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番外編 第11話 熊のような男 2

 故郷の村があった国から遠く離れたある村で、俺は奇妙な女と出会うことになる。


「あなた、ビルダーにならない?」


 桜色の髪が長く目を惹く女だった。様々な地に行ったがこんな髪色の人間は見たことがなかった。凝視してしまっていたのだろう、女はオーバーに胸の前で手を開いて振りながら「あやしいものじゃないの!」と弁解していた。勧誘したことを不審に思っていると解釈されたみたいだ。


「レナーテ、その癖は治らないのか?」


 取り立てて特徴のない、強いて言うなら人の良さそうな男がレナーテと呼ばれた女を諫めていた。


「連れが変なことを言って悪かったね。でもレナーテが惚れ込むのもわかるよ、あんた強そうだ」

「そうでしょそうでしょ! そうだ、良かったら一杯おごらせて? そんな熊みたいな体格で下戸ってことはないでしょう?」

「……」

「うん、決まりね」


 すまないが、付き合ってもらえないかと男は言い、俺は女の誘いに乗ることにした。普段の俺なら絶対にあり得ないことだ。まだ故郷の村のことを引きずっているというのか、俺は。


「あんた名前は?」

「……アロイス、と呼んでくれ」


 店に入るなり、女が矢継ぎ早に注文し、席に着くのと同時に村の名産らしいフルーツを使ったワインが振る舞われた。


「まずはかんぱーい」


 グラスを掲げたのは女だけ。なによーとむくれていた。俺はどうしてここにいるんだろう。そう考えた時、


「あなたは私に出会ってビルダーになる為にこの村にいるのよ」


 正解かはわからないが胸の内の答えをいわれ面食らった。何でも屋をやってきたつもりだが、ビルダーの仕事だけはしたことがない。リビルドとかいうところに所属するのが何だか気が乗らなかったこともあるが、ビルダーが苦手、いや嫌いだった。ビルダーに近い仕事はしたことはあると思うが、俺がビルダーになるというのはあまり現実味がなかった。


 運ばれてきた名前もわからない料理を食べる。うまいのかまずいのか、泥水を啜って生きるような生活ばかり続けてきたからか感想を持たなかった。ただ食べなければ死ぬ。だから食べる。何だ俺は、死にたくないのか? ずっと死に場所を探しているとばかり思っていたというのに。


「もしもーし、答えてくれないと勝手に手続きしちゃうわよ。ねえ、ルドルフ」

「確かにそういうことも出来なくはないけど、本人の意志を尊重しないとだめだよ」

「俺は……。いや、二人はビルダーなのか?」

「私もルドルフもビルダーよ。ゆくゆくは一国一城の主になる予定だけれどね」

「どういうことだ?」

「リビルドのマスターを目指してるんだよ。今は実戦経験を積んでいる最中といったところだね」


 リビルドのマスター? ビルダーに疎い俺にはよくわからない話だったが、たまには暇潰しに付き合ってみるのもいいのかもしれないと思い始めていた。酒に媚薬でも入っていたのかと、自分の考え方に釈然としなかったが、口はもう動いていた。


「ビルダーになってやってもいい」

「本当!」


 興奮のあまりか立ち上がった女、レナーテは椅子を豪快に倒し、大きな音が響いた。他の客がレナーテを見ていた。またレナーテが何かやってるよ、という陰口を意にも介さず話を続ける。


「今ね、三人一組のリクエストを受けようとしていたところだったから、あなたみたいに強そうな人が加わってくれると心強いわ。報酬はなんと一千万ティア! かなり破格だと思わない?」


 そのぐらいの報酬なら何度も手にしたことがある。特に思うところはなかったが話を合わせておいた。それだけの額なら相当やっかいじゃないのか、といった風に。


「そうなのよ、そこなのよ。理由はわからないけど二人で何とかできるって言ってもだめで、どうしても三人で来てくれっていうのよ」


「そこは疑問でね。調べても怪しいことがない。一つもだ」

「それは……奇妙だな」

「一人の人間を捜して欲しいとか何とか。それだけで一千万ティアってのも変よね~」


 レナーテはからからと笑っていた。笑い上戸のようだ。依頼の内容におおよその見当がついていたが口には出さなかった。あの同僚を身代わりに使えばいいだろうと算段していた。


 そうして俺はしばらくこの二人とパーティというものを組み、ビルダーとして働いた。

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