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番外編 第10話 熊のような男 1

 どうしてこんなところまで来てしまったのだろう。場所という意味ではない。そういう意味でなら仕事上色々な国や街を渡り歩いてきた。とてつもなく豊かな国から反対のどん底ともいえる国まで。国に属さない街もあった。


 様々な場所を旅して来たが居心地が良いと感じた場所はない。だから流れているのか。どこに腰を落ち着けるわけでもなく、どこの常連になるわけでもなく。仕事柄多人数で組んで行うこともあった。だが、心を許していたとは思えない。


 どうしてこんなところまで来てしまったのだろう。生まれ育った村を守れるだけの力が欲しかっただけなのに、どうしてその村を今焼き尽くしているのだろう。


 農業が盛んな村で採れ立ての野菜を食べるのが至福の時だった。たまに上物の肉が貿易で手に入った時は村総勢で祭りになったりした。良い村だった。今ではあちこち炎が燻り面影がない。


 そういう仕事だ、そう言われてしまえばそれだけかもしれない。碌な訓練も受けていない傭兵もどきなんてものは、上に良いように使われるだけの存在なのだきっと。


 同僚がこの村が俺の故郷と知らず話していたことを思い出す。


「ここにはな、天然の資源が眠っていて、それをここの馬鹿どもは『この村を荒らさないでくれ』の一点張り。強突張りな馬鹿どもは、これっぽっちも渡さない気でいるんだってさ。そんな資源なんか知らないって喚いてるが、知らないわけないよな! こんなにも言霊を帯びた土地だってのに」


 何歳まで居たのかはもう忘れてしまったが、天然資源の話も言霊を帯びた土地というのも聞いたことがなかった。言霊を内包する村ならクリスタルが大量に見つかりそうなものだ。本当に村の人達は知らなかったのか、同僚のいうように欲が張っているだけなのか。俺にはわからない。どこでもあるような村で特筆すべき事項は見当たらない。たまにはぐれたモンスターが村にやってきて農作物を荒らす、それが大事件だと騒がれる、のどかで平和な村だった。


 見る影はない。畑も家も人も区別なく焼かれている。独特の匂いが充満していく。それはつまり、人が焼かれて死んでいるということだ。人が焼ける匂いの区別がつくようになって長い。


 焼死体はかろうじて人間の形を保っているだけだ。衣服すら残らない。表情もわからない。家族もかつての友人ももう判別がつかない。どんな表情であれ、わからなくて済むのは唯一の幸福なのかもしれない。


 依頼主がここに目をつけたのは随分と前だったと聞く。依頼主の飼う情報屋から金になる土地を見つけたと吉報を聞き、確認に魔法士らをスパイとして潜らせたという。村人と一緒に燃やされてしまったが。


 当初はお金で解決しようと交渉していたらしい。この大金と引き替えに村を明け渡せと。代わりの居住区はこちらが用意するからと。何度話しても話は平行線。それこそ同僚の言うように「この村を荒らさないでくれ、資源なんか知らない」と。


 数日前から始まった強行突入の理由は単純だった。依頼主のボスが「いつまで手こずってるんだ」と痺れを切らしたらしく、俺の依頼主の命が危なくなったからだ。殺されない為に殺す。一人が生きる為に村を殲滅させる。手段が狂っているのかすらわからない。正しいと判断することも出来ないが、もう自分には壊すことしか残ってないのだから思考する必要なんてなかった。


 生き残りの一人が俺に向けて斧を振り下ろそうとして止まった。村人が俺を見て名前を呼ぶ。


「フォルカー、お前……!」


 まだ俺は生きていた。持っていた剣で一息に首をはねた。血飛沫が顔にかかる。上手く切ったつもりが失敗だ。顔がないのだからもうそいつが誰なのかはわからない。ただ少し親父に似ていた気がした。


 結局、依頼主はボスに捨てられ――あの村に資源などなかったらしくまた流れることになった。処刑役に抜擢されたのが自分だというのも滑稽だ。ボスは死に様を見届けたいと拷問部屋に依頼主を連れ出し、俺の前に転がした。逃げようとする背中を一刺し。あとは時間の問題だ。ボスが愉快そうに笑う。うるさいとボスの頭を銃で撃ち抜く。――正確には組織にいられなくなって流れることになった。

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