第23話 作戦会議
ヘルマンが気絶したのを亡くなったと勘違いしたローゼ達とガードのリーンハルト達。
それでも望みをかけてリーンハルト達が病院に連れていくとまだ息があることが判明し、治療を受けた。
ガード達も冷静ではいられなくなっていたようだ。まさかあの部屋で主が危険にさらされるとは思ってもいなかったと話してくれた。
ヘルマンからも聞いたが、余程強力な守護魔法が使われた部屋なのだろうと感じさせられた。
そして驚異の回復力で目覚め、ライナーからローゼ達についての話を聞いたヘルマンは、医者に外出許可を無理矢理出させ、アンファングのリビルドに来た。
だが、ヘルマンが来た時にはアロイスはすでに去った後だった。
“うちのガードがローゼ達を犯人だと決めつけてしまった”
車椅子をリーンハルトに押してもらい伝えに来てみれば、アロイスの企みでリビルドでもローゼ達は犯人だという話が浮上していた。
事実と反する会話に激怒し真実を怒鳴るヘルマン。
「二人はわしの為に一生懸命戦って守ってくれた! わしがあの子を守る為にでしゃばったばかりに、二人が犯人扱いされるのには我慢ならん! どうかわしの話を信じてくれないか!」
頭を深く深く下げて、話を聞いてくれるまでは帰らないという意志を通した。
「そんな頭なんて下げないでください。事情はわかりましたし、私達もローゼとネリアちゃんを疑ったりはしませんよ」
レナーテがリビルドを代表するマスターとしてそう答えた。
「ヘルマンさんと同じで私もアロイスの過去を知る人物なんです。だから鵜呑みにしたりはしません」
そういったやり取りがあったことを知るローゼとコルネリア。
ヘルマンやレナーテを始めとするアンファングのリビルドの人達に感謝の気持ちがわく。
リビルドの人達を信じきることが出来ず逃げてしまったことを少し恥じる。
二人も新たな事実と事件をヘルマン達に伝えた。
「なにっ!? フェリクスが攫われたじゃと! それにわし達を襲ってきた仮面の男がアロイスとは……」
拳を握りしめるヘルマン。その手に優しく手を重ねるライナー。
「ヘルマンさんはフェリクスをご存じなのですか? ……いえ、何でもありません。早く見つけられるようリビルドも動きます」
レナーテが力強くそう言ってくれたのがコルネリアには頼もしかった。
「二人が話してくれたことを元にリビルド会議をします。手が空いている人も空いてない人も集まって」
レナーテがリビルドの人間を集め、これからについて話し合おうとしている。
ヘルマンは病院に戻って治療を続けるよう、特にレナーテとコルネリアに強く言われた為、病院に戻って行った。
フェリクスのことを頼むとローゼ達にだけ一言残して。
受付から場所を会議室に移り、協議を始めるリビルドに集った人達。ローゼとコルネリアは端の方で壁にもたれ話を聞いていた。
アロイスは昔からビルダーだったわけではない。ビルダーのような街の便利屋といった印象とは程遠く、殺人や強盗、誘拐に傭兵などといったことをしていたらしい。
――つまり便利屋以上にどんな仕事でも構わず引き受けていたようだ。
そういった過去を持つビルダーがいないわけではないが、レナーテが注意すべきねと、反対意見に釘を刺す。次いでこんな言葉を放った。
「そういえば、ヘルマンさんはアロイスについて何か気づいていたと聞いたけれど、こちらが知らない情報はあるのかしら?」
ヘルマンの代理として一人残ったリーンハルトが、レナーテの質問に答えていた。
「そうですね……。ヘルマン様は”何かが気にかかる“とアロイスについて調べてくれと命じられました。それで私は――」
過去の経歴をリーンハルトの報告から知ったヘルマンはローゼ達を呼び出した。過去の事件について感謝の気持ちを伝えると同時に、アロイスについても忠告がしたかった為だ。
「さっきののローゼ達の報告により、アロイスはヘルマンさんの命を狙い、フェリクスくんを攫う危険人物だと私は判断したわ。とても残念だけれど」
レナーテは、リビルドのお偉方としてビルダーの過去はある程度把握している必要があるのに、私の責任ね、と後悔しているように見えた。
「仕方がないですよ。それに過去に犯罪歴があっても、人々の為に活躍するビルダーも多いですから」
「そうですよ! レナーテさんは悪くないですよ!」
そういった声に紛れるように、ローゼの心に声が響く。
『ローゼ』
コルネリアがみんなには聞こえないようにと、ローゼの心に呼びかけたみたいだ。腕を組んで壁にもたれていたローゼが、コルネリアにだけわかるよう軽く頷く。
呼ばれただけでコルネリアの言いたいことがローゼに伝わったようだ。
ローゼとコルネリアはアロイスにまつわる話を途中まで聞くと、まわりの人達に気づかれないよう、その場を抜け出すことを決意。
二人は作戦会議が終わるのを待てるほど心穏やかではない。
先ほどローゼ達の目の前でフェリクスが連れ去られているのだ。そして一命を取りとめたものの、守るべきヘルマンを警護しきれなかった事実も大きい。
自分達だけでアロイス達と渡り合えるとまでは思ってはいない。
だけど、少しでも速くフェリクスを安心させたかった。大事な家族が無事だと知らせてあげたかった。
二人はリビルドから、駆け出す。まるでネコのように音をたてずに。