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番外編 第7話 少年の過去と誘拐事件 3

 リビルドでは大騒ぎになっていた。フェリクスが戻ってこないと。


 あの真面目なフェリクスが連絡もよこさずいなくなると思えないと誰かが言った。そうだそうだと声を張り上げる大人達。動向を見守るしか出来ずにいる少女二人。リビルドにいるほとんどの人間が昂奮している中、ただ一人だけ静かに思案顔の男がいることに気づくものはいなかった。


 その男ルドルフはヘルマンから聞かされていたのだ、誘拐犯から要求があったことを。


 秘密裏に何とか出来ないかと相談されていた。誘拐犯を捕まえるのはここに集まっているビルダー達には動作もないことだろう。問題は“秘密裏に”というところだ。ヘルマンが孫の存在を明るみに出したくない以上、知恵の回る大人に託すのは危険だという忠告も、《《別の知り合い》》から受けていたこともあり、大人には任せられないと判断を下していた。となると、ここに今いるメンバーで頼れるのは……。


「ローゼ、ネリアちゃん、いいかな」


 大声でああだこうだと議論する大人達を隠れ蓑に、小声で手招きした。


「なんだよ、おっちゃん」


 フェリクスにローゼと呼ばれ通り名をローゼと名乗る口の悪い少女が、緊急事態だってことわかってるのか? と言いたげな顔で睨みつけた。友達の行方不明に心を痛めていることはルドルフにもわかった。だけど、ルドルフはその気持ちをこれから利用するのだ。


「ルドルフさん?」


 ネリアちゃんと呼ばれた少女のコルネリアが不思議そうに首をかしげる。平静を装ってはいるが脚は震えていた。ローゼより場数を踏んでいない分、こういう事態になれていないのだろう。


「ネリアちゃんの聖霊召還でフェリクスがどこに行ったか痕跡を辿ることはできないかな?」


 その手があったか! と俄然やる気になるローゼ。コルネリアも頭の中でどういう風に組み合わせればできるか構築する。


 二人とも自分達はビルダーであってもまだまだ子供で、フェリクスの捜索すらできないのかと歯がゆかったのだ。ルドルフの提案は二人希望を与えた。


「できると思います。ただ今の私の力だけではシルフを召還できないので、媒介が……必要で……」


 言ってるうちにやっぱり無理ないんじゃないかと意気消沈してきてしまったのだろう。


 ルドルフはちょっと待っててねといい、リビルドの倉庫へと消えていった。戻ってきた時には、コルネリアの装備するリーベについた宝玉を少し大きくしたようなものを手にしていた。後に≪魔力の眼≫と呼ばれるアイテムだと知るのだが、この時の二人には知るよしもない。


「これは……?」

「宝玉の力をパワーアップさせるアイテムでね、ネリアちゃん左手を出して」

「は、はい」


 リーベの宝玉の部分にルドルフが持ってきた七色の宝玉を触れさせる。発光したかと思うと、吸い込まれ消えてゆき、黄色かった宝玉は紅色に変化しアップデートした。


「このリビルドのお宝の一つだからね、大分、力があがっただろう」

「本当に凄いです。ローゼにはあまり違いはわからないかもしれないけど、これ本当に凄いよ、何倍にも魔力が増幅されてる。こんなに凄いアイテムを私が使うことになっていいんですか? ってもう返せそうにないですけど……」

「……へぇ、アタシには色が変わったようにしか見えないけど、コルネリアが言うならそうなんだろうな」


 魔法に憧れるローゼの前でちょっとばかり酷なことをしてしまったと思うルドルフだが、後に引くつもりはなかった。


「これを報酬と思って頼む。フェリクスを救ってくれ!」

「友達捜すのに報酬なんていらねーよって、コルネリアはもう受け取っちゃってるから、アタシにはとびきりのリクエストが来たときに優先して教えてよ」

「ああ」


 未だ口論に近いやり取りが続く大人達の声を背に二人はそっとリビルドを出た。



「何か隠してたね」


 リーベの宝玉を触りながら思っていたことをローゼに告げた。気づいてるだろうと思いながら。


「“救ってくれ”ってことは、ただの行方知れずじゃなく事件ってことだろうな」

「うん、私もそう思う。早速シルフを呼んでフェリクスの居場所を捜してもらうから、えっと」

「ああ、アタシはちょっと武器屋にでもいるから居場所がわかったら来てくれよ」


 ローゼはコルネリアの言いたいことを見抜き、手をひらひらさせながら武器屋の方角へ。


「ごめんね、ロージィ」


 この頃のローゼはコルネリアの聖霊召還に立ち会うことができなかった。通常の人間の持つ反魔法毒素ぐらいならあまり影響はない。普段のローゼなら少しの距離を取っていれば、……もしくはパワーアップした今のコルネリアの前でなら大丈夫だったかもしれない。


 だけどさっき目の前で見てしまった。ローゼにもわずかに感じ取れるほどの力の塊を。魔法に憧れるが故に自分には無理だと思い知らされた時、――ノイズとなる反魔法毒素がローゼの場合とても濃く――意識せず毒素が滲み出てしまう。強い毒素で疎外してしまうのだ。聖霊は自分を信じるものの前でしか姿を現さず、とても繊細だ。


 コルネリアがもっと高位の魔法使いになれば関係なくなる話なのだが、媒介なしに呼べない今のコルネリアには難しい話だった。


「我ら一つとなる意志の目覚め、我らの共通の同胞シルフ、我らの声に応えよ」

『私の友達のために力を貸して下さい!』


 コルネリアの唱える契約の言葉と心の声に応えるように、光の粒子が集まってきて、羽の生えた小さな人間――妖精のような形になる。ふわふわと定まらない形をしているのはコルネリアの詠唱力がまだ未熟だからだろう。


 それでもシルフは願いを聞き入れ、フェリクスがどこにいるかを風の力を借りて聞いてくれている。コルネリアは今更ながらさっきの宝玉がとんでもないものなのだと思い知った。宝玉と媒介は似て非なるもの。錬金術師が創った媒介なしにシルフを呼び出せたのはこの時が初めてだった。


 ローゼと合流し、シルフの調べからヌルからそう遠くない廃倉庫に誘拐犯の男四人とフェリクスがいることを伝えた。


「誘拐犯? やっぱりただの放浪とかじゃなかったんだな。時間が惜しい、コルネリア!」


 返事も聞かず宝玉に指を二本当てアインタウゼントを靴型装備に換装し、コルネリアを抱きかかえるとコルネリアの指示通り駆け抜けた。なるべく人目を避けて大騒ぎにならないように気を配る。

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