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番外編 第5話 少年の過去と誘拐事件 1

 闇を暗躍するとある二人に、一人の少年の生い立ちが浮き彫りにされていった。


 少年がまだ幼い頃、少年の両親は祖父の持つ莫大な資産の誘惑に抗いきれず多額のお金を要求した、息子の為に必要だといって。祖父は事業に関しては絶対の自信と勘を持ち誇っていたが、娘夫婦に生かされることはなかった。


 一生働かなくても暮らしていけるだけのお金を手に入れた少年の両親は一人息子を残し、都会へと消えてしまおうと画策していた。少年は自分が捨てられることに薄々気づいていたが、諦めていた。両親が幸せならそれでいいとさえ思っていた。


 両親が蒸発してしまってからは、――両親は潤沢なお金を手に入れていながら――返済していかなかった両親の借金を少年が背負うことになった。


 住んでいた家も売り払い、当てのない旅の末、ヌルのリビルドにエンジニアとして拾われることになった。元々物の分解や組み立てなどの工作が好きで得意だった少年。それならリビルド一番のエンジニアを目指してみるのはどうか? と言ってくれた人がいた。


 それからは修行の日々だった。武器を整備したり、装備品の調整をしたり。両親と暮らしていた頃よりずっと充実した毎日だった。


 だが祖父の存在を当時知らなかった少年はひとりぼっちになってしまったと、漠然と胸に空いた穴の埋め方を求めていた。


 そんなある日。


「お前宛に手紙が来てるぞ」


 少年に手紙が来るような心当たりはなく、「本当に僕宛ですか? 督促状とかではないのですか?」と何度も聞き直した。


「そんなに気になるなら今日はもういいから読んでみなよ。一応手をかざして確認したけど、危険な物ではなさそうだしさ」


 魔法士のリビルド員に対してお礼もそこそこに、リビルド内に宛がわれた自室に戻り、引き出しからハサミを取り出し封を切る。内容の書かれた手紙は一枚だけだった。


 達筆な文字で「地図にある場所のホテルに誰にも内緒で一人で来て欲しい。ロビーで待っている」とだけ書かれている。送り主も不明、内容も不明。


 だけど少年は行ってみようと思っていた。ひょっとしたらこの穴が埋まるかもしれないと思いながら。


 もう一度読み返してみるが日時の指定がまったくなかった。今日はもう仕事はいいと言ってもらったし、ちょっと足を伸ばしてみようかなと、リビルドで働く人達専用の携帯型通信端末――コネクトのわずかのお金を頼りに、肩からバッグを提げた。服は悩んだが選べるほど持ってもいないので、一番ましだと思えた、着用中の緑色のつなぎのままにした。


 添付されていた地図はアンファングのとある場所を指している。リビルドの仕事で何度か付き添って行ったことはあるが、一人で行くのは初めてだ。頭の中にあるマップを広げ、手元の地図と照らし合わせながら道筋を考え歩く。


 大通りにある煌びやかな店は少年には眩しすぎた。遠回りになることを承知で裏道に入ることに。まだ日も高いというのに人の姿を見かけない。異様な雰囲気を醸し出す露天商がいくつかあるばかり。声をかけられる度に、手持ちがないのですみませんと謝りながら歩いた。服を売っている露天商を見つけて、もしかして自分の格好は場違いになるのではないかと不安に駆られた。だけれど服を買うお金なんて持ち合わせていないし、結局は我慢するしかないのだった。


 アンファングの街は相変わらず活気づいていた。屋台からはおいしそうなカステラ――卵と小麦粉と砂糖を合わせた生地を焼いたもの――の甘い香りが漂ってくる。


「そういえば、まだお昼食べてなかったなぁ」


 あとでリビルドで残り物があればもらおうと魅惑のカステラを諦め、地図通りに指定されたホテルへと急ぐ。


 本当にここであっているのかと心配になるほど豪華なホテルだった。さりげなく飾られた装飾を見て少年は技巧の細かさに驚いた。何気なく上はどうなっているのだろうと見上げたものの何階建てかはわからないが、建物の造りにまた驚いてしまった。職人を目指す少年ならではの視点だった。


 何て名前のホテルなのだろうとプレートを見ると

“エントシュティーグング ヘルマングループ”と書いてある。


 世の中の情報に疎い少年でもヘルマングループの偉大さは知っていた。企業名を知っただけでホテルの凄さに納得がいく。


 自分なんかが入って良いものかと悩む。五分は佇んでいただろうか、後ろから来た誰かにぶつかられ、予期しないタイミングと状態でホテルの中へ入ることに。半ば転ぶような形になってしまい倒れまいと踏ん張ったがピカピカに磨かれた床には勝てなかった。


「大丈夫か」


 手を差しだし声をかけてきてくれた老人。すみませんすみませんと謝りながら男の手を取り立ち上がらせてもらう。


「ありがとうございます、助かりました」


 お礼を言うと正面から相手の顔を見ることになった。強面のいかにも頑固そうなおじいさん、その印象に違わず語気がとても強かった。


「気にせんでいい。失礼だがお前さんの名前は?」

「あ、えっと、ふぇ、フェリクスと言います! 助けて頂いたのに名乗りもせず、すみません!」

「フェリクス……」


 刹那の時間だけ、見間違えだとわかっているがおじいさんの顔が驚愕したように見えた。

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