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第22話 連れ去り

 パチパチパチと乾いた拍手が聞こえてきた。


 戦闘体勢をとるローゼ――靴型装備からアインタウゼントを棍型の武器に換装。

 ローゼは自分の身長ぐらいある棍を構え、仮面の敵に向けて牽制。


 フェリクスはじっと仮面の敵を見据えている。


「そこまで知恵の働く子猫だとは……はははっ。子供相手に本気を出すのはバカらしいと手を抜いたのは失敗だった。あの時やってしまえば良かった」


 仮面をつけた熊のような大柄な対戦者。

 アロイスだとするならいつもより雄弁。


 仮面の敵が構わず続ける。


「俺がアンダーマインを雇い襲わせた。バカは煽動がし易くて良い」


 残忍そうな目が―仮面の唯一空いた穴から――ギラついて見える錯覚。


「ヘルマンさんをずっと襲っていたのはあなただったんですね!」


 コルネリアは珍しく怒りに任せた言い方で考えを突きつけた。


 仮面の男も否定せず、続ける。


「ルドルフのおかげでヘルマンの警護依頼を受けられるようになった。三人一組なんて厄介な話だったが、扱いやすそうな子供で女の二人組のビルダーを連れていってくれと言ってくるじゃないか。ルドルフの申し出は有り難かったよ」


 棍で距離を保ちながら、ルドルフを嘲笑う男にローゼも言葉をぶつける。


「お前、もしかして……おっちゃんまで利用したのか!!」


 それらも受け流し、まだ喋り続ける仮面の男。


「おかげで子猫達に罪を被って貰えた。リビルドであれだけ訴えたのだから。ローゼ達がヘルマンを殺したと!」


 言い終わるなり仮面の男が急に機敏な動きを見せ、フェリクスに近づき、片方の手でフェリクスの腕をひねり、空いている左手で指を鳴らした。

 するとアンダーマインが二匹現れ、仮面の男の代わりにフェリクスを両サイドから拘束した。


「内緒話は外でするものじゃない。こいつはあのジジイの孫なんだろ? 連れてけ!」


 アンダーマインがフェリクスを背負って走り去ろうとする。

 勝算など考えず走り出すローゼ!

 棍で喉元を狙うが躱される。


「フェリクスをどこに連れていくつもりですか!」


 激昂するコルネリア。


「思い出深い場所だよ」


 仮面を外し、コルネリアに投げつけると、アンダーマイン達と姿を消してしまった。仮面だけがその場に残る。仮面の下の顔は歪んだ笑顔のアロイスだった。


 すぐさま消えていった方向へと追いかけたはずなのに、痕跡すら見つからない。


 アロイスを探している内に、またリビルドの人達に見つかってしまった。

 ローゼ達は良くも悪くも目立つらしい。


 二人は観念し、それにフェリクスを助けることが優先だと、あえてアンファングのリビルドに連れていかれることになった。



 リビルドに連れていかれる間、昔の事件がリフレインされている二人。

 あの時より強くなったと思っていた分、惨めな気持ちが増幅された。

 

フェリクスのことを思うとまた今回も、いやそれ以上に酷いことになってしまったと、自身の力不足を嘆き苦い気持ちになった。


 リビルドにいる人達みんなが厳しい顔をして待っていても、怒られたり責められたりしたとしても、ローゼは全部を受けとめるつもりでいる。


 どうしたら理解してもらえるだろうかと、せめてローゼの無実だけでも証明して治療が受けられるようにしてあげたいと必死に打開策をコルネリアは考える。


 しかし、そのどちらも必要なかった。


「二人とも無事だったか! 良かった良かった」

 リビルドの一人のおじさんがそう言い、


「保護しようと思ったら素早く逃げちゃうからどうしようかと」

 ローゼ達を追いかけてきたらしいリビルド員の男が頭をかく、


「そりゃ“居たぞ!”なんて言えば逃げるのも当たり前じゃ」

 おじいさんが笑い話のように語り、


「私の話は聞いてくれないし、ローゼとコルネリアはちょっと反省しなさいね」

 レナーテに軽く叱咤された。


「どうして……アタシたちアロイスから話を聞いて犯人になってるんじゃ……じゃなくてフェリクスが!」


 車イスに乗った老人が怒鳴りながら向かってくる。


「お前たちが余計なことをするからこんなことに! ゲホッゴホ」


 周りにいるガード達に怒り、咳き込む老人。

 ローゼ達の方へと近づいてくるが、口を開けるのはその老人とレナーテぐらいだった。


「お体の傷はどうですか? ヘルマンさん」

「なぁにこんなのかすり傷じゃ。お恥ずかしながら気絶はしてしまったがの」

 

 胸元を触り軽快に笑い飛ばすヘルマン、微笑むレナーテ。


「……ヘルマンさん、ご無事で……?」


 コルネリアの疑問にガードの一人のリーンハルトが応える。


「医者によるとネリアちゃんの魔法のお陰で一命を取り止められたそうだ。恩に着る」

「わ、私こそ守る方なのに守られて……」

「じいさん生きてたんだ……良かった」


 泣きそうになるのを堪えるローゼだが、堪えきれず涙を溢した。

 コルネリアも同じく泣いてしまいながらローゼに無意識的に抱きついた。

 今は誰も茶々を入れず、ビルダーじゃないただの少女として泣く二人を見守っていた。

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