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第20話 追っ手

 急遽野宿となり宿がわりにしたフェアラート公園の桜の大木。

 この公園はアンファングにあるのが不思議に思うぐらい樹齢何百年といった木がたくさんあった。

 春には桜が公園を彩るという。


 二人が寄りかかってもまだスペースがあるほど太い幹。枝も長く青々とした葉についた朝露が、顔にかかり目覚めることになった。


 コルネリアはあの後、私の治癒が間に合えばとずっと泣いていた。

 ローゼの肩に頭を乗せ、顔に涙の跡を残しながら眠っている。

 そっとコルネリアを大木に寄りかからせ、静かに立つ。


 昨日まであれだけ晴れていた空は灰色だった。


「ははっ……」


 まるで自分達の心の中の具現化だなと自嘲めいた笑いを溢した。


 早朝の公園だからというより人払いをされている感覚になる。ナーバスになっているのかもしれない。


 気分転換も兼ねて血に染まったコルネリアの代わりの服を買いに行こうと考える。


 途中、仕方なく人通りの多そうな商店街――キントリヒに行き、帽子屋で買ったキャスケットを素早く深くかぶり、ジャケットも前を閉じて印象を少しでも変えて、簡単な変装をすることにした。


 さっきは人の多そうな商店街に寄ったが、なるべく人がいそうにない道ばかり選ぶようにした。


 路地に怪しい露店商を見つけ服を見繕う。

 これなら印象も変わるしサイズも合ってそうだし着れるだろうと、ぼられていると気づいていながら言われるがままの代金を払った。


 露天商のお婆さんが仕入れたばかりの噂話を聞かせたいらしく、ちょっとお待ちなと声をかけた。


「昨夜、殺人事件があったらしいねぇ。坊やは知ってるかい? いいや知らないだろう」


 いつもなら激怒するところだが、男に間違われているのは都合がいいと相手に調子を合わす。


「へぇ……知らないな。そんなのあったのか?」

「ああ、あったとも。アンファングで人殺しが起きるなんてねぇ。犯人は二人組だとか言ってたような、怖い怖い」


 苦く難しい顔をしているのが、お婆さんには話を疑われてるように見えたようだ。


「どこで聞いたかなんてのは関係ないねぇ。婆さんの耳には真実ってやつは入ってくるもんだよ」

「服、ありがとう。じゃあ、急いでるから」

「婆さんの話は聞けないってか。彼女さんを大事にするんだよ」


 そんな声が聞こえた気がしたが、噂話とやらをそれ以上聞くのは辛くて、強引に話を終いにした。お婆さんは不満そうだったが気にしなかった。


 コルネリアの替えの服が入った紙袋を顔を隠すように持って、来た道を辿った。


 フェアラート公園に戻るとコルネリアは起きていた。特に何をするでもなく突っ立ってぼうっとしているようだった。ローゼの姿にも気づいていないようだ。


 ローゼは閉じていたジャケットを開き、帽子を脱いだ。


 正面に回りコルネリアの顔を見る。目は真っ赤でまるでウサギみたいだとローゼは思った。


「ほらよ」


 まだローゼの姿を視認できていなそうなコルネリアへ紙袋を投げた。

 紙袋が至近距離に近づいたところでやっと認識できたらしく、慌ててわわっと体勢を崩しながら何とかキャッチ。


ははっと笑うローゼ。


「ごめんごめん」


 少しだけ平和な朝だった。


「なぁ……、この首輪、あ、いや首飾り? チョーカー? ってじいさんと買ったりしたのかな……」


 ローゼがさっき投げた紙袋の中身をコルネリアは見ていた。露天商で買ってきた青色をベースにしたチェックのワンピース。

 着替えながらコルネリアは思考が追いつかない様子で答える。


「そうかもしれないね……」


 ローゼはコルネリアに胸をカバーする用の太い特殊繊維でできたベルトを渡す。


「勝手に悪いと思ったけど、洗っておいたから。乾くのも速いんだな……じゃなくて、色々気になるかもしれないけど、念のため防御力は上げておいた方が良いと思うんだ」


 ベルトは目立っちゃいそうだなと思っていたローゼだが、案外、コルネリアが着替え終えるとあまり目立たなかった。

 ローゼ自身も目立たない方が良いと、もう一度キャスケットをかぶり直す。


 コルネリアは大木にもたれるように座り、ローゼを手招きした。並んで座り二人は話す。チョーカーの鈴の部分を大事そうに触れながら。


「この鈴、言霊がプログラミングされてるみたい」

「へぇ、そうなのか。どおりで力が湧くわけだよ」

「フェリクスが魔除けとご利益があるって言ってたよね」


 フェリクスの名前が出るとちょっとばかり和やかだった雰囲気は霧散してしまい過剰反応しそうになるローゼ。だが、コルネリアがまずいことしちゃったって顔に変わってしまいそうだったのを止めたくて、ローゼは言葉を繋ぐ。


「絶対犯人を見つけような! アタシたち二人で!」

「……うん! 落ち込んでなんかいられないね!」

「当たり前だ! 絶対今度は捕まえてやる!」


 ローゼが強がっているのはわかったが、偽りでもその強さがコルネリアには勇気になった。

 頑張るぞという気持ちで体の芯が熱くなっていくのがわかる。


 まずは何から始めようか考え始めた時。

「見つけたぞ!」と、声がした。


 リビルドの人間かと思ったが知らない男だった。

 仮面の敵と似たような格好をしている。

 何より一番驚いたのはその男と一緒に、昨夜現れたのとそっくりな犬を人型にしたようなアンダーマインがいることだった。


「行け!」


 男が命令すると従うようにアンダーマインたちがローゼ達を襲う。


『このアンダーマインたち調教されてる!?』


 魔力を溜める為に詠唱中のコルネリア。


「ああ! そうみたいだなっ」


 短剣の状態のアインタウゼントを腰の装備から抜くと、指を二本揃え宝玉にタッチする。靴型の武器に変化したアインタウゼント。


「うぉりゃ!」


 回し蹴りをまともに喰らった一匹は吹っ飛び、別の一匹にぶつかりこけた。


『ローゼ!』

「おう!」


 ローゼはコルネリアの背に回り目を閉じた。

 コルネリアが昨夜と同じ作戦をとるのがわかったからだ。指を四の形にして宝玉に触った瞬間、目映い光が辺りを覆う。


「うわっ! なんだこれは!?」


 男が目眩ましを喰らい驚き戸惑う、指揮系統に狂いが生じる。目眩ましにあったアンダーマイン達も同じく動転している。


 いつまで続くかわからない逃走劇、余計な体力など使ってはいられない。

 二人は手薄なところへ逃げる選択をした。


 敵達に背を向け逃げようとしたところで、とてつもないプレッシャーを背後に感じた。

 振り返るつもりなどなかったが、このまま逃げきることは無理だと直感し向き直る。

 例の仮面の敵が、いた。


 またもこちらに、そして、ローゼに銃を向け、すかさず発砲した。

 反射神経だけで放たれた弾丸を避けるローゼだが、躱しきれず腹をかすめた。

 左の脇腹から血が流れる。肌を露出していた部分を狙われた。

 ジャケットの前を開くんじゃなかったな。何もかもが惨めに感じたが、それでも滾る闘争心を抑え込み、逃げることにだけ集中する。


 まだ何も尻尾を掴んじゃいないんだ……!

 それに今はまだ戦える状態にない……!


 ローゼはコルネリアを抱き抱え、靴型装備のままフルスピードで公園を最短ルートで抜けることを選ぶ。


 公園を抜け店が並ぶ通りへ入ってもスピードをキープしたまま走る。

 何事かと驚く人々を尻目に爆走を続け、敵達を何とか完全に振り切るまではと、体力が限界に近づいても駆け抜ける。

キャスケットは逃げる時にどこかに飛んでしまった。

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