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第2話 野良猫暮らし 2

 一世紀前まで“ギルド”と称されていたビルダーたちの集まる場所は今では“リビルド”と呼ばれている。


 時代の流れとともに仕事の内容などが変わり、今では街の守衛者などで処理しきれなくなっているリクエストと呼ばれる多数の依頼をビルダーに仲介する場所となっていた。


 昔はモンスターを退治することを生業としていたらしくアンダーマインといえばモンスターを指していたが、今は犯罪者も称されている。


 ビルダーとは世の中をアンダーマインのいない世界へ再構築するという意味からつけられた呼称だといわれていた。


 ヌルのリビルド内は照明が少なく薄暗い。それがまた落ちついた雰囲気を出していてビルダー達には評判が良い。


 軽く見回すと木目の綺麗な壁と床に目が止まるだろう。

 材料に使われている木材には逸話がある。


 昔々に通りがかったという賢者の強力な魔力がこめられていると噂があるのだ。

 ここを利用する言霊に長けた人たちは口にする、過ぎたものを与えられていると。


 真偽を知ろうと受付にいる女性に詰め寄る者も多数いたが答えは曖昧にはぐらかされたままだ。


 奥のテーブルでは一仕事終えたのか捕縛話を肴に一杯やっている姿が見えた。

 二人は手前の酒類が並ぶカウンターへと向かう。

 大体のビルダーはそこで仕事を請け負い、報酬をもらう。


「小瓶は拝見しましたよ。はい、今回の報酬十万ティアね」


 報酬は現金の手渡しではなく、コネクトで受け取るのがビルダー達の間では暗黙の了解となっている。


 理由は単純、持ち物が多いビルダー達はなるべく手持ちを減らしたいのだ。

 例えそれが紙幣や硬貨であっても。


 コネクトを大きくしたような機械に数字が打ち込まれると、トランプ箱型の機械が差し出され、コルネリアがコネクトをかざすと、チャリン♪ と音がしてコネクトに表示されている残高が増えた。


「ありがとうございます」


 お金を受け取るのは浪費家のローゼではなく倹約家のコルネリア。

 放っておくと武器や勝負事などに際限なく使ってしまいそうだと、報酬をもらう時に配慮してるにも関わらず、取り分がわけられる際にいつもローゼにいいくるめられてしまい多く渡してしまう素直さがコルネリアの長所で短所だ。


 グラスを磨く手は止めず、磨き終えたグラス二つにキウイジュースを淹れると彼女たちの前に差し出した。

 やりぃ! と飲み始めるローゼとごちそうになりますと静々と答えるコルネリア。


「なぁ、おっちゃん。何かでっかい仕事ねーの?」


 言葉遣いをたしなめようとするコルネリアと違い、慣れた様子で顔色を変えず対応するヌルのリビルドマスター、ルドルフ。


「とりあえず、またこの仕事で頼むよ。とびきりのが来たら、優先して知らせるから」

「ふふん、やっぱおっちゃんは商売上手だ。どこのリビルドよりもやっぱりアタシはここが好きだわ」


 ルドルフはにこっと営業用ではないスマイルを返事とした。

 キウイジュースのおかわりもさりげなく聞いてくれたが、ごちそうさまと辞退することにした。


「ローゼ、リクエストの内容は明日聞きに来ることにして、今日は帰ることにする?」

「そうだな。またな、おっちゃん」


 手を振り別れを告げ、リビルドを出て後ろ手に扉を閉めるとローゼは目を光らせた。

 歩きながらどこで食事にしようかと提案するコルネリアに、ローゼは取り分について話し合おうとする。

 空腹なのも忘れ目の前の報酬にかぶりつく。


 日も暮れ始め、街灯などに明かりが灯っていく。

 駅に向かう人や家々に帰るのかローゼ達と逆方向に行く人達とすれ違う。


「なぁなぁ! 今日のアタシの活躍凄かったろ? いくら貰えるんだ?」


 腕を振りこう殴って、脚を真上に上げこう蹴って、やっつけたろ? とポーズをオーバーに決めながら今日の闘いの余韻を思い出していた。


 ローゼはコネクトを腰のバッグから取り出し受け取る準備をする。


 金額をあらかじめ入力しておく必要はあるが、互いの登録の済んでいるコネクト同士をくっつけるだけでお金は移動する。

 パスワード入力機能をつけた方が良いんじゃないかという意見と、そんな面倒なものつけるなという意見が平行線なのはビルダーなら誰もが考える事柄だった。

 コルネリアはパスワード推奨派だがローゼは反対派だった。


「うーん、三万ティアはホテル代と食費で、五万ティアはリクエスト費用にとっておくから一万ティアずつかな」

「は? たった一?」

「そうなるね」

「…………」


 コネクトを差し出した手を引っ込め、上目遣いでコルネリア以外の相手には滅多に見せない表情でどうにかせびろうと試みる。


 ローゼもビルダーなのだからリクエスト費用をケチることが出来ないのは頭ではわかっているのだが、もう一万ティアぐらいせしめられないかとある意味純粋な眼差しでコルネリアを見つめた。


「そんな子猫みたいな顏してもダメ」

「ちぇっ……いや、決めた! ちょっと待ってろ。確かもうちょい行った先に……」


 全国に散らばるリビルドのひとつが入るビルから離れ、路地へと入っていく二人。

 建物の影となり声を張り上げても表通りには聞こえないのではないのかと、ここで何かあっても気づかれないのではないのかと、慣れた街であるはずなのに――コルネリアは知らずとローゼの手を握り歩いていた。

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