第13話 依頼主への疑問
ヘルマンは帰ると言いだし警護も兼ね付き添うことになった。
「帰る」というからには雑誌やスクリーン型コネクト――コネクトを何十倍にも引き延ばした大きさの映像を映し出す機械――にも取り上げられている噂に聞く例の豪邸かと思いきや、ヘルマングループが経営するホテルのひとつへと向かうのだった。
「家じゃ安心して寝てられん。だからホテルを転々として敵を欺いとるんじゃ」
自慢気にヘルマン氏。
どうやら居場所を知られないようにヘルマンなりに工夫しているようだった。
リビルドとホテルはそれほど離れていなかった。
何かあればリビルドがすぐさま動いてくれるだろうとの目算があるに違いなかった。
でもローゼにはそこで疑問が沸いた。
どうしてこれだけのガードもいて大富豪のヘルマンがリビルドに依頼を頼むのだろう。
ローゼ達よりもずっと有能なガードやヘルマンの財力なら大前衛士や大賢者を雇えるのではないか。
正直言ってヌルやアンファングのリビルドは好きだが、シュタルクやヘフティヒにザオバー辺りにいるビルダーの方がお金はかかるが、腕は確かだ。
胡散臭いな、と気を緩めないことをこっそり誓うのだった。
ホテルはというと、最上階のエグゼクティブスイートルームに当然宿泊、とは思わなかったが、普通のランクの――といっても選んだホテルがかなりの高級ホテルの部類――部屋に泊まるのだった。
ヘルマンの部屋を挟むように両隣にそれぞれ左にアロイス、右にローゼ達が泊まる手はずになっていた。
どうやらここに滞在するのが三日だから最低三日以上という意味の警護依頼だったらしい。
スイートルームに泊まらないのもヘルマンの策略らしく、
「わしみたいな大物は良い部屋に泊まっとると敵は思うじゃろう! だからこそ泊まらないのが敵の裏を読むということだ」
「ヘルマンさんは凄いお人なんですね」
屈託なく褒めるコルネリア。
ヘルマンの行動の裏を読もうとするローゼ。
特に言動に変わりなく表情も一貫しているアロイス。
自身の警護対策についての熱弁の後、当人であるヘルマンから直々に部屋で待機するように言われた。
それではあまりにも無防備過ぎると、ヘルマンがどこかに出掛ける場合や食事の時にはローゼ達も必ず同伴するという注文を加えた。
話に区切りがつくとアロイスはヘルマンに挨拶とも言えない挨拶だけをしてさっさと部屋に入ってしまった。ヘルマンも部屋に閉じこもってしまった。
「飯までは部屋で待機してるか」
「気は抜かないままでね」
「だな」
扉を開けて廊下を歩き室内に入ると、ローゼ達が泊まった覚えがない至る所が豪華な造りの部屋が視界に飛び込んできた。
ベッドも二人分あり、四人~五人ぐらいなら住めそうなほど広く、設備も揃っていた。
本格的なキッチンがあったり、露天風呂があったり。
そういった設備のあるようなホテルになど泊まったことのない二人だ。
「何で四部屋もあるんだよ」とローゼが疑問を持ったのもわかるコルネリアだった。
いつ何があるかわからない、そう遠くない時間に食事に呼ばれるだろうからと、荷物も置かずに片方のベッドに腰を掛けローゼは切り出した。
「あのさ、コルネリア……アタシはこのリクエスト裏があると思ってるんだ。とにかく怪しい」
いつになく真剣な面持ちで語り始める。
こういう時のローゼの発想には舌を巻くものがある。ローゼの頭の回転速度が速いのをコルネリアは知っている、対面する形でベッドに座り先を促すように聞き返す。
「怪しいって?」
「まずは一つ。どうしてリビルドに頼むんだ? それもヌルやアンファングの。もっと強いビルダーがいるリビルドも知っているはずだろうし、報酬が払えないなんてことはないだろ?」
コルネリアも疑問に思っていたことだった。ローゼの考えが聞きたくてあえて思っていることと反対のことを話す。
「リビルドを選んだのは頼りがいがあるって信じてくれてるってことじゃないのかな。それにシュタルクほどじゃないけど、アンファングも結構大きな街だし、レナーテさんの噂を聞いたとか。あとは……ほら、リビルドのスポンサーでもあるわけじゃない?」
「コルネリアが言いたいのはアレだろ? 他なんかの警護よりリビルドのビルダーをすげー信頼してるんじゃないかって。そうだとしてもさ、何でアタシらを見て何も言わない?」
「何も言わないって……あ」
コルネリアが何かに気づいたようだった。
「そうだね……。大体なら文句を言われたり、不思議がられたりするよね」
「そう、アタシが腕相撲の時に言われたみたいに“小娘”扱いされるのがフツーだと思うんだよな。それがあのじいさんは何も言ってこなかった」
「でも私たちみたいなビルダーを見慣れてる……としても、命に関わる警護につけたりはしなそうだね。自分たちの存在とと矛盾しちゃうけど、私が警護してもらうならアロイスさんみたいな屈強そうな人にお願いしたいかな」
「だろ? この辺りじゃちょっとは名が知れてる方かもしれないけど、そんなの腐るほどいるし、悔しいけどアロイスの方が適任だとアタシも思う」
昂奮してきているのか頬を赤らめながら言い切る。
もう一つどうしても腑に落ちないことを聞いてみることにした。
「そもそもどうして“三人一組”なんだろうね」
「それは考えてなかったな、確かに疑問だな」
「ルドルフさんの言葉を聞く限りだと、私たちを指名してきたわけじゃないみたいだから、ヘルマンさんは私たちを知ってるわけじゃないのかもしれないけど。私たちだと二人組だもんね。一人足りない」
「いや、意外と調べ上げていたりして知ってるのかもしれない。だとしてもだ、ヘルマングループの創始者の護衛にビルダーがたったの三人ってのはどうなんだ?」