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番外編 第3話 二人の出会い編 3

 アンダーマインが現れるまで唯一順調な営業を続けていた炭坑には、電飾に明かりがまだ灯っていた。


 炭坑内の床はいくらか整備されていたままになっていることで、歩くことに支障がないのがコルネリアにはありがたかった。


 真っ直ぐ続く道にはピッケルや何本ものトロッコの線路や道具類やら色々散らかるように混在していた。物珍しさにきょろきょろしていると横を黒猫のようなものがささっと通っていった。


「お先にっ」


 ローズだった。


 人間離れした速さで走っていったことにちょっとばかり驚いたが、多分何かの魔法だろうとコルネリアは心で思うだけに留意した。


 ある程度炭坑内を進むと、分かれ道があった。鉱石を載せたままのトロッコを見ると胸がきゅうと苦しくなった。ここでアンダーマインと出くわしたんじゃないか、命からがら逃げて仕事を全うできなかったんじゃないか、家族の元へ帰るところだったんじゃないか、そういう想像でいっぱいになるコルネリア。半端に終わってしまうこと程悲しいことはない。


 順調に進んでいくと小柄なアンダーマインが何人か出てきた。コルネリアと同じぐらいの年の少年達に見えたが、腕や足や胴はコルネリアよりもずっとがっしりしていた。


「ああ? 何でこんなとこにいるんだよ。お前、誰だよ?」


 小熊を醜悪に改悪したような見た目の少年の一人がコルネリアが絶対に真似の出来なさそうな汚い声を吐き出した。リビルドから支給されたコネクトに目の前の少年達をアンダーマインと判断する表示が表れた。


 コルネリアは頭の中でこういう不良化したアンダーマインに対しての記憶を探る。子どもの頃はビルダーの兄から貰ったアンダーマインに関する辞書や魔法書「ネコでもわかる現在のアンダーマイン」を絵本代わりに育った。


 確かこのタイプのアンダーマインには炎系の魔法が有効だったと数秒の思考の後思い出す。兄が弱点を覚えろと何度も言っていた思い出と共に。言霊の力なのか肉体的なダメージだけではなく荒んだ善なる心にも効くらしい。


 醜い小熊のようなアンダーマインはコルネリアを倒そうと一斉に飛びかかる。すんでのところで詠唱を終えていたコルネリアは炎の玉をアンダーマイン達にぶつける。


 怯んだものの起き上がりそのうちの一人がコルネリア目がけて突進してくる。続けざまに炎の魔法で攻撃しようと詠唱の途中なのにも構わず、近づいてくるアンダーマインの顔に決める。


 この魔法の威力じゃまだ倒せるだけの力がないと、腰に提げているバッグから詠唱途中の自分が唱えたものと同程度の火の攻撃魔法がこめられたクリスタルをいくつも投擲した。二つ三つが一度に当たると一溜まりもないようだった。一人、また一人と何撃か繰り返すうちにやっとアンダーマインは観念した。


 一人で数人もののアンダーマインを一度に倒せたことにコルネリアは浮かれていた。クリスタルが減って軽くなったバッグからリビルド支給の小瓶を取り出し、「目の前の少年たち」と言霊を呟き、アンダーマイン達を確保する。


 達成感に包まれ、陶酔し、ビルダーとして当たり前の作業――アンダーマインの数の確認やアンダーマインの捕縛――が頭から抜け落ちていた。駆け出しのビルダーにはよくあることなのだが……。


「私も結構ビルダーらしくなってきたかな」


 なんて独り言が出るぐらいにご機嫌だった。ローズは競争だなんていって先に進んだけれど、後から来た私がアンダーマインを見つけられるぐらいなんだから、ちゃんと倒せていないに決まっている。速さを競うつもりなら私は数と正確さで競ってやる、コルネリアはそんな気持ちでいた。


 コルネリアの思惑とは裏腹に奥に進めば進むほどアンダーマインはほとんど出てこなくなってきていた。


 体力も詠唱力もそろそろ限界に近いし一度戻ろうとした時、さっきの少年の何倍もの体格をした青年のアンダーマインが小熊のような少年を一人引き連れ現れた。少年はあちこち毛や肌が焼けていて焦げた匂いがした。


 急に先輩ビルダーに言われたことを思い出す。“アンダーマインを撃破した後はちゃんと縛り上げて数を確認してから小瓶に封じるように。じゃないと捕まえ漏れが起きるから”と。この少年はきっとさっきコルネリアが倒したはずの一人だと思った。


 隙が出来てしまうことにも考えが及ばないまま、バッグからコネクトを取り出し確認すると、青年も少年もアンダーマインとして表示されていた。少年は立っているのがやっとといった感じで、動く気配は見せなかった。青年は腹を立てているのがわかるといった怒声を放ちながら殴りかかってくる。


「お前が俺の子分をやったのかぁ? オルァ!」


 だが軽くパニックを起こしてしまったコルネリアは、倒したアンダーマイン達と同じく炎系が効くはずとわかっていても、避けるので精一杯で詠唱する時間が作れない。


 クリスタルも炎系のものは使い切ってしまい、青年アンダーマインには効果のないものしか残っていない。そもそも事前に聞いていた出てくるのが火に弱いという情報を過信していた為、それだけの対策しかしてこなかった。大失態だった。


 鮭をハンティングするような動きで右手、左手と順々にコルネリアを狩りに狙ってくる。

「お前もしかしてビルダーかよ? 俺達を捕まえに来たのかぁ?」


 きっとコルネリアみたいな魔法を使うビルダー、それも新米ビルダーなら一撃喰らうだけでも危ういはずだ。


「無視すんなよ! ウルァ!」


 避けた所に今度はアンダーマインの頭突きがやってくる。

 とっさにしゃがみ当たらずに済んだコルネリア、空振りするアンダーマイン。

 まだまだアンダーマインの攻撃は終わらない。

 拳を次々と繰り出してくる。


 アンダーマインが弱者をいたぶる優越を感じていそうなほど余裕なのに対し、コルネリアは体力が切れかけ避けるのも危うくなってきていた。

 アンダーマインの懇親の一撃がコルネリアをとらえようとしていた。


『だれか……助けて!!』


 絶体絶命を悟り、心の中でコルネリアは強く願った…………。



「うりゃーーーっ!!」


 という叫び声が聞こえたかと思うと、アンダーマインが眼前を右方向へとすっ飛んで行った。


「え? え?」


 状況が把握できないコルネリア。少年アンダーマインが襲ってきているのにも気づかない。


「あんた大丈夫か!?」


 問いけかけてきたのは先に行っていたはずのローズだった。

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