番外編 第2話 二人の出会い編 2
シックザールへは歩いて移動しようと思ったのだが、ベゲーグヌングから距離が離れていることを知り、電車とバスと悩んだ挙げ句、バスを利用した。
コルネリアではなくともベゲーグヌングからシックザールまでのルートを全部歩くとなるとバテてしまってリクエストどころではなくなってしまうだろう。
バスに乗るのも最近覚えたことだった。支払いのシステムもコネクトというビルダー専用端末のこともよくわからないし、知らない人達と同じ車に同乗するというのは不思議な感覚だった。
近くのバスストップで降りるとリビルドから連絡がいっていたのか、まだ目的の炭坑についてもいないというのに大歓迎を受けた。「二人もビルダーが来てくれればこの街も救われる」と目的地への道すがらにそんな話を何人もの街の人から聞いた。
シックザールの北側と南側は対照的に違っていた。南口はアンファングと同等かそれ以上の発展を遂げている。コルネリアはレナーテから聞かされていたが、北側がここまで寂れてしまっているとは思いもしなかった。
数十年前までは北側も南側と同じくかなり発展しビルの多い街だったと聞く。シックザールの北側は何かがあって街としての機能が衰えていった。大きなビルが並んでいるのに廃村のような雰囲気が漂う。今回の目的地もそんな廃墟寸前の一つと聞いた。
復興し始めた矢先、アンダーマインが炭坑をアジトにし始め、元の姿を取り戻そうとしていた街は要求に応える度、どんどん廃れていった。そういう話だった。
ビルダーといってもまだまだ小娘と呼ばれておかしくない年頃で、リビルドからシックザールの人達は聞いてはいないかもしれないが、コルネリアはまだまだ半熟にも満たない成り立てのビルダーだ。見た目の雰囲気ですら新人なのは伝わってしまうだろう。
なのにとコルネリアは思う。小娘ビルダーですら歓迎する人達に、この街の惨状を思い知った気がしていた。それに目的地に近づくにつれ朽ちていくのだ。何かのリクエストで獣道を通った時の手入れのされていない枯れ木の森の方がずっと綺麗だったと。
この街のリクエストを受けるビルダーはきっといなかったのではないかと勘ぐってしまう。
難易度はさほど高くなく特別室で受けるようなリクエストではないらしいのだ。聞くところによると数百万単位のティアが報酬になるような、今のコルネリアには到底請け負えるはずのない依頼を特別室は抱えているという。
コルネリアは経験が積めれば何でも良いと思っていたので気にしないように勤めていたが、特別室で受けるには報酬が三十万ティアというのは少ないとレナーテから聞いた。
一人につき三十万ティアではなく、受けたビルダーたち全員で報酬を分けるという。多人数のパーティでは分けづらい額でもあり、引き受けようとするビルダーがなかなかいなかったらしい。
受注した事情は二つ。まだまだひよっこのコルネリアには、数万ティアでも充分な報酬だった。もう一つはレナーテに「大丈夫」だからと薦められたリクエストだということが理由になっている。
そういえば街の人はビルダーは一人ではなく二人と言っていた。ということはローズは既にこの村に来ているのかもしれない。あんな乱暴な人にこの街は救えない。
コルネリアは街の人たちの歓迎も上の空になるほど、リクエストに対して集中していた。詠唱時間が短くて済むよう、頭の中をクリアにしていた。どうしてそんなことをしていたのか? 自分が村を救うのだと意気込んでいたと今ならわかるだろう。
「ところで問題の炭坑の、どの場所にアンダーマインはいるのですか?」
「私が物を運ばされた時に六番目の炭坑にいたから、多分そこだと思うわ」
炭坑はどうやら全部で七つあるらしかった。
長老と呼ばれるには若すぎる女性が答える。元々の長老はアンダーマインにやられてしまったのかもしれない。表情を読み取ったのか女性はコルネリアに補説した。
「あの、私は長老の代理なんです。みんなから長老と呼ばれてますけど、私はただ代役を務めさせて頂いているだけで」
心身のストレスから寝込んでいるらしい。あとでお邪魔じゃなければお見舞いに行こうとコルネリアは思う。
コルネリアは長老代理を始めとする村の人達に「では、いってきます」と短い決意だけを言葉にし、早速六番目の炭坑に向かった。
年期が入った炭坑だった。補修の後や最近使われた様子のないトロッコ、プレートに書かれた六という数字は錆で見辛くなっていた。
問題の炭坑の入り口には特別室で見た姿がいた。
コルネリアは心の中でこう呟いたことだろう、最悪、と。
「遅ぇから怖じ気づいたのかと思ったぜ」
「…………」
ローズに構わずアンダーマインを捕獲しに行こうとするコルネリア。
コルネリアの前に回り込み両腕を広げ行く手を阻むローズ。
「ちょっと待て、何でアタシがここで待ってたと思ってんだ?」
「わかりません」
と、再びローズに構わず行こうとする。
「だーかーら待てって! あんたと競争なんだからアタシが先に行っちゃったらフェアじゃない。そんなもの勝負といえないし、したくない! あんたもそれぐらいわかるだろ!」
慌ててまくし立てるように説明するローズ。あくまでコルネリアと勝負がしたいらしかった。そんな子供染みた理由でコルネリアを待っていたらしい。
コルネリアはそれでも止まらず炭坑に入っていった。ローズに払う敬意などないからだ。