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番外編 第1話 二人の出会い編 1

 数年前――

 ある日のベゲーグヌングのリビルドの特別室。


 ベゲーグヌングはヌルから電車で一時間程の位置にある山村だ。 駅付近には店が揃っているが、駅から離れるにつれ民家しかなくなっていく。自然を満喫するにはうってつけの場所ではあった。そんなベゲーグヌングのリビルドでリクエストに関する話がされていた。


 肩より長めの髪が灯りに照らされ黄金色に光る。都会に出たばかりのネズミのような迷いのある栗色の瞳は、目の前の人物を真っ直ぐ見つめている。シスターにも思える清楚さの純白のワンピース姿の少女は最近ビルダーになったばかりだった。


 成り立ての少女にはリビルドの人が話す単語がまずわからない。今回は特別室で受けるリクエストということでこれまで受けたリクエストと勝手も違った。


 少し前までは家族に養ってもらい何不自由なく暮らしてきたと、ありきたりの言葉で片付けられる程に平穏な日々を送っていたのだが、一つの綻びが少女の家族をバラバラにしてしまった。


 それがターニングポイントとなり、七つ上の兄がビルダーというものをしていた――それだけの認識で慣れない旅を続け、リビルドというものに行かなければビルダーになれないことなどを、あてもなくたどり着いた街で知った。


 少女は自分のことを誰も知らない街を求めていた。道中、何度も危険な目に遭い、人間不信に陥りそうな出来事もあり、少女の一人旅には問題が立ち塞がった。全部『小娘』だからという理由で片付けられそうなものばかりだったのが、少女には悔しかったし、一人でも何でも出来るようになりたいと願った。もう騙されるのは嫌だと。


 だからだろう何度も説明を求めるのは。もしかしてまた解釈が違うと酷い目に遭うのでは。後から文句をつけられるのでは。せっかくアンダーマインを捕獲してきても無視されたり横取りされてしまうのでは。


 根気よく何度も何度も説明を繰り返すリビルドの人。一つ一つの説明がどんどんつぶさになっていくものだからとてつもなく長い会話となっている。いや特別室というのが理由でこのリビルドのマスターも時間を割いてくれているのかもしれないが。幸い特別室には依頼を待つビルダーの姿は見えなかった。


 が、何度目かの説明を受けている時に


「だからそれはこういうことだろっ! いい加減にしろ、レナーテさんはあんたを陥れようなんか思ってないのに失礼だ!!」


 随分と乱暴な響きをもった荒削りの怒りの言葉が突然聞こえ少女を驚かせた。


 まさか自分以外にも人がいたとは思いもせず、話を聞かれていたかと思うとうんざりした。いつからいたのか話を聞くことに必死だった少女にはわからない。


 今まで少女の相手をしていたリビルドの女性はレナーテというらしい。今はアンファングという大きな街のリビルドを任されているレナーテだが、当時はまだベゲーグヌングのマスターになったばかりだった。レナーテはやや引きつった笑顔で呟く。


「ローズ……」


 どうやらこの女の子なのに乱暴な言葉遣いの全身黒ずくめ少女は――髪型もジャケットもシャツも短く不埒にもおヘソを覗かせショートパンツで脚まで露出している――ローズという名前らしい。


 行儀悪く椅子に座り、ごつい編み上げのブーツ――宝玉の周りに魔方陣のような蔦と羽根がついた――を履いた足を不機嫌な猫の尻尾のように動かしていた。


「あまりそういった話し方は良くないと思います。あとその座り方、はしたないです」


 図星だったことも相まって意地を張ってしまう。その上、間違いだと思ったことは正さないと気が済まない少女。今回は受け流すことが出来ず噛みついた。


 大抵のことは首を突っこむだけ無駄だと知らんぷりをするようになっていたのだが、許せなかった。私のことなど何も知らず、貴方は呑気に幸せに暮らしている癖にと。


 そればかりでなく自分が話している最中に、横から茶々いれするなんてとんでもないと言わんばかりに睨みつけた。睨んだことなんて家族と過ごしてた頃には一度もしたことがなかった。いつも笑顔が似合うといわれていたのに。


「あんたがトロトロしてんのが悪いんだろ。リビルドに用があるのはあんただけじゃないんだ」


 あまりの自己中心的な考え方に言葉をなくす少女。

 椅子から飛ぶように離れると、立ちつくす少女の横に乱暴に立ち、レナーテに話しかけ自分の用事を済ませてしまう。


「あ……」


 少女は思わず声を漏らした。

 目の前の粗悪な少女が受けたリクエストが自分が受けたリクエストと同じだったからだ。


「なんだよ」

「私もそのリクエストを――」

「あんたも同じリクエストを受けたのか。じゃあどっちが早いか競争だな」

「え?」


 ……昔読んだお話に出てきたチェシャ猫ってこんな笑いをしたような気がする、少女は一瞬、競争というおかしな提案から現実逃避しかけてしまった。


「ちょっと待ってください。競争だなんてする気がありません」


 話を遮られたかと思えば馬鹿げた発案までしてくる、絶対に仲良くなることなんて有り得ないと少女は思った。


「ふーん、自信がないんだ?」

「こら、ローズ。そんな挑発ばかりしちゃだめでしょ」

「こういうビルダー見てるとアタシはムカムカすんだよ」


 昔の少女なら泣いていたかもしれない。もうこれぐらいの言葉で泣く少女ではなかった。


 ビルダーとしてやって行くと決めた少女はバカだと思う挑発に乗ることにした。魔法の腕だけはビルダーになることを決める前から自信があった。だから負けるはずはない。常識知らずに思い知らせてやらないと、世の中自分の思う通りになんて行かないことを。


「競争ですね、分かりました」

「お? 少しは度胸あるじゃん。負けた方は報酬なしでどうだ?」

「何でもいいですよ。私、負けませんから」

「お~少しは言うね。じゃアタシは行くから」


 言うなり野良猫のような軽快さで特別室を去って行った。


「コルネリアもローズの挑発に乗らなくても良かったのに。……でもカッコよかったわよ」

「ありがとうございます。さっきのお話ですが私は南にある街に向かえばいいんですね?」

「正確にはシックザールにある炭坑ね。そこにいるアンダーマインを倒して、この支給する小瓶に詰めて戻って来てほしいの。前に受けたのと違うのはここがこのリビルドの特別室だってことぐらいじゃないかしら」

「丁寧に説明して頂けて助かります」


 ぺこっとお辞儀をする少女コルネリア。


「ローズと仲良くしてやってあげてよ。あの子あれで寂しがりだから」


 コルネリアはそれには答えず小瓶を受け取ると南にあるシックザールへと旅立った。

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