第10話 仲間からの贈り物
ホテルに帰るとさっきと違い一階は朝食を食べる人や仕事をする人達でいっぱいになっていた。
声をかけられる度に挨拶を丁寧に返しながら借りている部屋へと戻る。
コルネリアはまだ眠ったままのローゼを見て不意に思いついた。
プリズムの魔法を使って起こしてみることはできないのかなと。
腹の底から酸素を取り込むつもりで深呼吸し、新しい魔法を使える快感を抑え、イメージを固めていく。こんな感じでどうだろうと宝玉に指四本で触れ魔法を作動させる。
眩しければ起きるかなと思い実行したコルネリアだったのだが、コントロールが上手く行かず「……っ! あちちち!」と、ローゼのおでこを危うくこんがりさせてしまうところだった。
「ごめんね、ロージィ」
しゅんとなり落ち込むコルネリア。
額はコルネリアが氷の魔法で冷やし治癒もしたので、このぐらいなら全く問題のないローゼだったが、コルネリアはごめんねと繰り返す。
失敗したことよりもローゼに怪我をさせてしまったことに責任を感じているようだった。
「いや……まぁ熱かったけど起こしてくれてありがとな。ところでさっきのは炎の魔法……じゃないよな? 例の新しい魔法?」
「あ、うん。そうなの。本当は光を作って眩しくして起こそうかなって思ってたんだけど……」
「へぇ~、そんなことまで出来る魔法か。早くマスターしてスゴいのをアタシに一番に見せてくれよ」
悪戯っ子な表情で笑うローゼ。
こういうところが大好きなコルネリアだった。
コルネリアは気持ちを切り替え、「うん!」と答えた。
椅子に座り治療を受けていたローゼも「おまたせ!」と立ち上がると、バッグとアインタウゼントを身につけ、ジャケットを羽織った。
コルネリアは一度「なんで年中そのジャケットを着てるの?」というようなことを聞いたことがあるのだが、何故かローゼの怒りを買ってしまい、それからは気にしないことにしたという。
準備を終えたローゼ達は約束の場所へと足を運ぶ。
アロイスと合流し隣町のリビルドに向かう為に。
道を歩くと祭りの準備をしているのか、街灯や家々が華やかに装飾されている。
昔々は神様へ捧げる為に誓約と呼ばれるダンスを披露する祭りだったという。
今では踊りは廃れ、祭りを行う習慣だけが残っている。
二人はもうそんな時期かと思うだけに留め、祭りより仕事が優先だと、営業を始めたばかりのリビルド前に到着する。
開け放たれていた扉から見えたのは何組かのビルダー達。
まだ本調子じゃない静かな朝といった感じがした。
準備をしているリビルドの人達やビルダー達が会話や作業などの手を止め声をかけてくれる。
ローゼたちはそれに「おう」とか「おはようございます」と答えながら歩いていく。
いつものカウンターに行くと既にアロイスがいてルドルフと話をしているようだった。
「お嬢さん方、おはよう」
「おはよう、ローゼにネリアちゃん」
ローゼ達に気付き会話を中断し、挨拶をするアロイスとルドルフ。
「お嬢ぉさん? アタシのことはおっちゃんみたいにローゼと呼んで欲しいね」
会って早々喧嘩腰のローゼ。
笑って了解しつつも「お嬢さん」と呼び続けるアロイス。
ローゼもアロイスも子供っぽいなぁ、ひょっとして似た者同士? と感じたのはコルネリアだけではなかったようで、ローゼには聞こえないようにコルネリアに耳打ちするルドルフ。
「なんだか兄妹みたいだねぇ」
「ちょっと似てますね」
ルドルフの意見に少し同意気味のコルネリア。
「ん? 何か言ったかコルネリア?」
「ううん。ルドルフさんたちのお話は大丈夫ですか?」
聞くとアロイス達の会話はローゼ達が来る前に終わっていたようだった。
ローゼ達はルドルフから話を聞くことなく、「行くぞ」と仕切るアロイスについていくしかなさそうだった。
また言いたくなる文句を堪えて渋々着いていこうとするローゼと、ルドルフに挨拶を済ませたコルネリアを呼び止める声があった。
「ロージィ! コルネリア!」
声の主は子犬のような風情の少年だった。
年の頃はローゼ達と変わらなく見えるが、大きな瞳と白い肌、ふわふわとした白髪に丈の合わない橙色のつなぎ姿が実年齢より幼く見せていた。
照れるような怒るような何かむず痒い箇所に触れられて気持ちが悪いようなそんなローゼ。
「お前はその名前で呼ぶなって言ってるだろっ!」
「あ、ごめんね。ローゼって呼びづらいから、つい」
アロイスがその様子をじっと見ている。
「二人がアンファングのリビルドに行くって聞いたからお守り持って来たんだ。実は前から用意してたんだけどタイミング逃しちゃってて」
「お守りぃ? フェリクスらしいっちゃらしいけどな」
「もしかして、その可愛いのがそうなの?」
愛らしいリボンのようなチョーカーを二つ手に持っていた。
黒色のものをローゼに、白色のものをコルネリアに。
黒い方にはルビーのような紅い色を放つ鈴が、白い方にはサファイアのように蒼く輝く鈴がついていた。
フェリクスは二人のイメージに合ったものを選んだつもりらしい。
「ネコがつける首輪みたいで可愛いでしょ? その鈴には魔除けとご利益あるんだよ~」
とても素敵なものをプレゼント出来たと得意満面の少年。珍しく胸を張って言い切る姿に内心二人は驚いていた。
「ふ~ん。じゃあありがたく頂いとくか」
「ありがとう、フェリクス」
「どういたしまして、コルネリア。良ければ身に付けてみてよ」
言われるがままに白色のチョーカーを装備する。
青い光がふわっとコルネリアを纏うように現れ、消えた。
「わ、詠唱力が少し上がった! 今ならインストールしただけで使いこなせなかった魔法も使えそうな気がする」
嬉しさを表現するようにくるっと回るとちりんと鈴の音が響いた。
アロイスが表情を歪めた気がしたが誰も気にしなかった。
気に止めたところで、「これだから子供は……」と、文句を飲み込んでいるのかと思うだけだろう。
コルネリアの言葉を聞き、次いで身につけてみることにしたローゼ。
チョーカーを装備すると、力が増加するという効果があったようで驚いていた。
赤い光が一瞬ローゼの体を走った。
左拳を空に繰り出してみる。
「フェリクス、この首輪スゴいな! 力が少し増えた感じがする」
「ロージィ……じゃなくて、ローゼ、良いでしょそのチョーカー。大事にしてね」
「ありがとな」
「あのお引き留めしちゃってごめんなさい」
と、アロイスにフェリクスはお辞儀をした。
ローゼがハイタッチをフェリクスに要求し、行ってくるねとコルネリアがいうと「気をつけて行ってらっしゃい」と手を大きく振って持ち場に戻っていった。
一段落して、文句を言わずに待っていてくれたアロイスにコルネリアはお礼をいう。
「あぁ」と軽く答えアロイスは歩き出す。
そろそろ行くかといった合図となり、出発をするローゼ達。
フェリクスにも見送られ、気持ちの良い旅立ちとなった。