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第1話 野良猫暮らし 1

LINEノベル「令和小説大賞」に応募した作品です。

今回『小説家になろう』に活動拠点を移ることにしました。


読者に飢えている大饗なので感想・反応等々とても心からお待ちしています。


では「野良猫生活」をお楽しみくださいませ。

「ネリア! そっちはどうだ!?」


 透き通るような青空の下、雨が嫌いそうな声音が辺りに響いた。

 澄んだ迷いのない語調は凛とした猫の嘶きのよう。


 場所はバンデの中心地に位置する、――図書館や役場関係の施設が入っている――バンデオアーゼ前の砂ばかりの広場。

 かつては芝が綺麗に生えた憩いの場だったが、面影として残るは朽ちたベンチだけだ。


 歩みを止め、見入る通行人が幾人もいた。

 中には買い物帰りなのか、店屋の袋いっぱいのラヴェンデルを抱えながら立ちつくす姿のおばさんもいる。


 これはリビルドに属さない人達にとってのいわば娯楽であり、二人の戦いを観戦しているのだ。


 二人の少女が自分達の背丈よりも高く体格も良いアンダーマイン――今回の場合は人間――を相手に立ち回りをしていた。


 食い逃げと窃盗の現行犯。二人には大した敵ではない。


 一人の活発そうな少女がアンダーマインの青年を追い詰める為に駆けていた足を止め、急ブレーキをかける。

 ざっと砂埃が舞う。

 少女が起こした砂埃はアンダーマインの脚へとかかった。


 アンダーマインは観戦者と少女二人に囲まれ、逃げ場がなくなっていた。


「くっ……!」


 ただ、まだ何か企んでいそうな目で少女達を睨む。

 服のポケットをまさぐっているようにも見えた。


『う~ん、あと十秒欲しいかな。ロージィお願いできる?』

「任せときな、こんなのアタシの敵じゃないね」


 温和しそうな少女の心の声に応えるのは、ショートボブの黒髪を揺らす、鋭い目つきの少女だった。


 碧眼の少女に見据えられたアンダーマインが動きを見せる前に弾かれるように走り出す。


 羽織るように着た朱の紋章入りの黒のレザージャケットの下に着た同色のキャミソールがはためきヘソが見えていた。

 漆黒のショートパンツから伸びたやや筋肉質の脚が地面を駆る。

 威勢良く心に直接届くような声で返事をした。


「十秒稼ぐぐらいなら、アタシが一気に倒してやるよ」


 先ほどと同じく挑発してアンダーマインの気を惹きながら、二丁拳銃を連射。

 殺傷能力がない弾を使っているが当たれば痣にはなる。

 少女の命中率は八割を超える精度を保っている。

 魔法を使えない前衛士ヴァンガードとしてはトップクラスのヒットだった。


 十秒を欲した少女は右の手の甲を覆う装備の宝玉に魔力をこめる為、言霊を詠唱を続けていた――金色の長い髪、人懐こそうな栗色の眼、一見するとシスターにも見える清楚さの純白のワンピース姿、目を惹くのは胸の辺りを防御する太い特殊繊維のベルト――が、目の前にいる自首する気のないアンダーマインに炎の玉をぶつけた。


 燃えたりすることはないが、体中の水分が危険な域まで減る、そういう類の魔法だ。

 動きを封じるのに手っ取り早く死なせる危険が少ない為良く使用していた。


 あっという間の捕縛劇に反撃することも叶わず戦闘不能に陥るアンダーマインを、特製の紐でまとめあげる黒髪の少女。


 金髪の少女が腰に提げていたバッグから特殊な樹脂で出来た小瓶を取り出し蓋を開け「アンダーマインの青年」というと、特製の紐が発光しその中に吸い込まれていった。


 人間用のこの小瓶の場合、中は簡単な座敷牢になっているらしいが確かめた者はほぼいない。


 重さをあまり感じない小瓶をバッグにしまうと、ビルダーに支給される専用携帯型端末コネクトで金髪の少女は誰かと話し始めた。


 コネクトとは遠いところにいる相手とも会話が出来る機能や写真を撮ることが出来る機能などのついた機体だ。

 通報者からのデータがすぐに反映される優れものでもある。


 手に収まるサイズのコネクトの画面には捕らえたアンダーマインの画像と詳細が映っていた。

 逃走中だった文字が捕縛済みに変わっている。


 画面に触れ、アンダーマインが表示されていた状態から、リビルドへの連絡スクリーンに切り替える。


「バンデオアーゼ周辺で暴れていたアンダーマインを保護しました。はい、ヌルのリビルドまで向かいます。いえ、怪我とかは大丈夫です。ご心配ありがとうございます。ではまた後でよろしくお願いします」


 金髪の少女が話を終えた頃には、ヌルの隣町であるここはまた元の閑散とした街へと戻っていた。


 戻り先のヌルは、寂れたここバンデと反対隣のアンファングの中間に位置する、都会とも田舎ともいえない街だ。


 頃合いを計っていた黒髪の少女が話しかける。


「終わったか? あ~今回は腹が減る仕事だったなぁ。アンダーマインを誘き出す役を買って出たのは良いけど、あんなに走り回るとは思わなかったよ」

「それはお疲れって思うけど……。だめだよ、ローゼ。報酬をもらうまでが仕事だよ?」

「へいへい」


 手をヒラヒラさせ、わかってますよ~とアピールする黒髪少女ローゼ。異名は黒天。


 蒼天の空から気配なく雷がいきなり落ちてくるような威圧感と速度を持った拳や脚力。加えて武器を駆使し戦った後には、相手は黒い焦げとしか残らない、そういった戦い方をするからついた名前だとウワサされている。


「そういうコルネリアは、腹減らねーの?」

「わ、私は(くきゅるるぅ)」


 丁度謀ったかのタイミングで鳴り出すお腹。


 いつも白色の服を着ている印象によるものというよりは、純白のウェディングドレスが似合いそうだと、むしろ着せたいと思うファンたちがつけた異名は白天使。

 ファンクラブもあるらしいが本人は知らない。


「コルネリアだって腹空かせてんじゃん」

「そ、そんなことないもん」


 じゃれ合うように追いかけ合う二人は野良猫のように気まま暮らしなビルダーライフを送っていた。


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