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廃棄王女のくせに生意気だ!  作者: 小湊 深冬
魔法使い、王女の問題に関わる
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034 お前が黒幕、なのか…?

 「久しぶりですね、魔法使い」


 想わず顔をしかめてしまう。その声は肌を舌で撫でまわすような、気持ちの悪い粘着質に満ちたものだった。

 美麗な女性の顔は醜悪に歪められ、これ見よがしに上唇を舌で舐めている。


 「はじめまして、の間違いだろ? 私は、お前なんて知らないぞ」

 「いえいえ、お会いしていますよ。貴女は、私を二度も殺しているのですから」


 楽しげな声で目の前の『誰か』が笑う。しかし、私はちっとも笑えない。不快感が増しただけだった。


 「……お前が操った者を、私が殺したのか?」

 「大正解! 間抜けな貴女にしては、良くできましたね。褒めてあげましょう」


 そう言って『誰か』がパチパチパチと手を叩き出す。プツン、と頭の中で何か切れる音が響く。衝動的に指先が動き、土魔法を発動していた――。


 「おやおや、乱暴ですね」


 地面から生えた四本の土腕が、女性の四肢を拘束する。十字で磔となったが、余裕ぶった声は変わらない。土腕で締めつけられ、痛みを感じているとも想えなかった。しかし、女性の顔つきは苦悶を訴え、歪み始めている。声と態度が一致していなかった。


 「お前のそれは、"憑依"だな。そうすると、あれか、完全に乗っとるか、思考を誘導するに留めるか、お前に選択権があると言ったところだな」

 「――なっ!? 貴様、何故わかった?」

 「図星かよ! お前、わかりやすい奴だな……」


 悪いが、ただの勘だぞ。本音は口にせず、侮蔑的な笑みを浮かべる。

 "憑依"と考えるなら、影響力にも程度があるのではと考えただけだ。


 「三つもお人形があるんだ、おままごとでもしたらどうだ? 未だにお人形遊びが止められないとは……随分と、お前は幼いみたいだからな」


 これ見よがしに肩をすくめて見せ、ため息を吐き出すのも忘れない。そんなわかりやすい挑発に乗り、『誰か』は聞くに堪えない罵倒を漏らし始める。

 顔も名前も知らないが、本当に単純な奴だ。あまりにも扱いやすくて、本心から笑いを吹き出しそうになっていた。


 「貴様が……貴様が言うのか! 貴様も王女に"憑依"していただろうが!」


 怒りに任せた声が聞こえてくる。私は想わず眉根を寄せた。


 「何だ、それは? 私は知らないぞ」

 「惚けるのか、小娘が! 貴様が、貴様がいるから……私は……!」

 「おいおい、何を怒っているんだよ?」

 「――黙れ、三流魔法使いが!」


 森の静寂を壊すほどの大音声が響きわたる。


 「貴様など、私の足元にも及ばないんだ! 見る目のない屑どもめ、私が貴様よりも劣っているなど、ありはしないんだ! 国王陛下もそうだ! 私ではなく、お前みたいな小娘に、王女殿下を下賜するなど……!」

 「なんだよ、ただの逆恨みかよ。魔法使いの序列は、結果が決める。お前、そんなことも忘れたのか?」


 呆れた気持ちでつぶやいてしまう。

 結果を出したから、私は男爵位を拝領したし、ステラを下賜された。結果が出せなかったならば、どちらも得られなかったはずだ。だがそれは、目の前の『誰か』にも得るチャンスがあったことを意味する。その事実は変わらない。


 「黙れ! 黙れ! 黙れ!」


 無様な奴だ。叫びで威圧できると想っているのだろうか。

 依然として女性の身体を拘束する土腕は健在だ。私を格下と愚弄するならば、早く破壊して欲しいものだ。


 「"憑依"は、私だけの力だ! 貴様みたいな小娘に、私が敗けるはずがない!」


 何を言っているんだ、こいつは? 私に"憑依"は使えないのだが……なんで誤解しているんだよ。

 殺意を滾らせる『誰か』に、私の中の警戒心は最大まで高まっていく。自然と指先が動き、土腕による拘束を強めていた。


 「――お前、何をするつもりだ!」


 瞬間、私は叫ぶ。『誰か』を拘束する土腕に、背後でしゃがみ込んでいたはずの二人の女性が抱きついていた。私を見る顔はどこか泣き出しそうで、助けを求めているようにも見える。一目でわかるほどに、全身が震えていた。……両目が赤く光って見えるのは、何かの見間違いだろうか?


 「お前みたいな小娘に、私が敗けるはずがないんだよ!」


 怒り声と同時に、爆発音が響きわたる。発動していた土魔法が破壊されたと瞬時に把握した。想わず風魔法で夜空へ飛び上がっていた。


 数秒後、風塵が落ち着き始めた。土腕は跡形もなく崩れ去り、女性に"憑依"したままの『誰か』が立っている。地面には赤黒い血だまりが二つできていた。

 胸の奥深くから怒りが、ふつふつと沸き上がっていく。衝動のまま一直線に急降下していた。


 数十メートルの距離は一秒も待たずに零距離へと変わる。真っすぐに伸びた右手は女性の首を掴み、勢いのままに地面へと叩きつけていた。

 倒した女性の上に馬乗りになる。そして、勢いのままに左手の指先へ鋭利な風を纏わせ、宝石を抉り抜いていた――。


 「――貴様、正気か!?」


 血は噴き出してこない。女性の右目跡に、暗い空洞が広がるだけだった。抜いた宝石を後ろへ放り投げ、次いで左側の宝石を抉り出す。その刹那、『誰か』の声は完全に沈黙していた。ようやく静かな夜が帰ってくる。


 「……この宝石がなければ、何もできないんだな」


 手のひらの中で宝石をクルクルと回転させる。表面に刻まれた文字は、どこかの魔法使いが使用したものと同じに見える。確かに見覚えはあった。


 女性の首に触れれば、トクントクンと規則正しく脈動している。宝石を抜いたからと、何か体調が変化するわけではなさそうだ。想わず安堵のため息が漏れる。

 両目の空洞を隠すように、女性の両まぶたを下ろす。そして、私が着ている上着の袖を風魔法で断ち切り、女性の両目をそっと覆い隠した。


 さて、どうしたものだろうか……。

 すっかり夕闇は夜空へと変わってしまっていた。十分程度でステラの元へ戻るつもりだったが、とうの昔に過ぎてしまい、誤魔化しようがないほどに遅くなっている。頭をガリガリと掻き、大きくため息を吐き出していた。

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