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廃棄王女のくせに生意気だ!  作者: 小湊 深冬
魔法使い、王女に吸収される
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020 騎士が、偉そうにするなよ!

 「ほう、面白いことを言うんだな。お前には、私の目が見えていないのか?」


 トントン、と右人差し指でで左のこめかみを叩いた。すると、フレンの顔が怒りで歪んでいく。今にも攻撃しそうな雰囲気だった。


 ……短気な女だな。もう少し我慢を覚えろよ。

 ――アンジュ様、あまり挑発するのは良くないと想います。


 脳内にステラの苦言が響く。こいつ、私のアドバイザーにでもなったつもりか。


 「……魔法で、そう見せているだけだろう?」

 「そう想うなら、試してみるか?」


 これは実に気分がいいな。自称"有名騎士"が屈辱のあまり余裕を完全に失っている。その無様な姿を上から見下ろすのだから、口元がニマニマと弧を描いても仕方がないだろう。


 「なんて邪悪な笑みだ……お前、まさか王女殿下の身体を乗っ取ったのか!?」


 短気なだけでなく妄想癖もある。二重苦を背負うとは憐れな奴だ、と笑いたいところだが……間違ってはいない。ただ簡単には信じられない話なのだ。事実、村民たちも困惑した様子だった。


 正解を出してはいるが、フレンに根拠はないのだろう。もし根拠を示せないのならば、ただの言い掛かりに終わる。話せば話すほどに信用が失われていると、フレンはまだ気づいていないようだった。


 ――アンジュ様、悪役になっていますよ。


 呆れたようなステラの声が脳内に響くが、無視だ無視!

 単純に言えば、偽物だと見下すフレンの態度が気に入らなかった。


 「なんて失礼なことを言う奴だ! 私は食中毒で苦しむ村民を治療するために、わざわざ来たというのに……」

 「そうだ! そうだ!」「王女様は治療したんだぞ!」「この不忠者め!」


 フハハハハハ、いいぞもっと言ってやれ!

 声のトーンを落とし、悔しそうにフレンを睨みつける。それだけで、村人たちが勝手に擁護し始めていた。この場においては、私の味方が多数派だった。距離を置いていた村人たちがズンズンと包囲を縮めていく。騎士たちが狭苦しく密集し始めていた。


 「なっ、な、な……」


 何の罪もない村人たちに剣先を向けるわけにもいかず、フレンの剣先から落ち着きは失われる。音を上げるのは時間の問題に想えていた。だから、私は気を抜いてしまった。


 「……田舎者どもが、邪魔なんだよ!」


 突然、騎士の一人が剣を振り上げる。その先には、男の子と手を繋いだ女性の姿があった。咄嗟に指先を動かして魔法を発動する――。


 「――お前、何を考えているんだ!」


 ガキン、剣と剣がぶつかる音が響く。尻餅をついた親子の前には、騎士の剣を受け止めてフレンが立っていた。


 「この愚か者が!」


 あれは、痛そうだな。地面とキスした騎士を見て片頬が引きつる。

 受けた剣を下へと受け流し、騎士の後頭部を掴んで想い切り地面に叩きつけていた。歯が折れる嫌な音が聞こえ、ダラダラと流れた血が地面を赤く汚していく。倒れた騎士に、立ち上がる気配はなかった。


 ……この女、怖すぎるだろ。

 ――アンジュ様、もう挑発は止めてください!


 初めてステラと意見が一致したかもしれない。脳内の警戒レベルは最大まで高まっていた。近距離戦は危険だと直感的に悟ってしまう。今の立ち位置は、フレンの攻撃圏内だった。


 「部下がバカな真似をした。どうか許して欲しい」


 フレンは尻餅をつく親子に手を差し伸べ、二人が立ち上がるのを助けていた。


 「……すまないが、今日は出直させて欲しい。勝手なことを言って悪いが、後日、話し合いはできないだろうか?」

 「本当に、勝手な申し出だな。一方的に王女の偽物だと決めつけたのは、お前自身だろう?」


 悔しそうにフレンは下唇を噛む。反論する気はないらしく、固く口を閉ざしたままだった。


 ――アンジュ様、あの、話し合いで解決するなら、応じても良いと想います。


 おずおずとステラが進言してくる。今回ばかりは、生意気だと非難はできなかった。


 「だが、話し合いに応じてやってもいいぞ」

 「本当か!? 感謝する!」


 フレンが勢いよく頭を下げる。"偽物王女"への礼に躊躇いはなかった。……調子を狂わせてくる奴だ。"偽物王女"に謝罪して苛立たないのかよ。


 まあ別にいいが、対等な条件で話し合いができるとは想っていないよな?


 「話し合いには、お前だけが参加しろ。当然、武装は全て解除してもらう」

 「なっ、そんなことは――」

 「――できないなら、この話は終わりだ。別に、私はどうでもいいからな」


 困るのはお前だけだ。騎士が剣を抜いた時点で、村人たちは完全に私の味方となっている。強引に私を拘束すれば、どんな噂が立つかわかったものではない。

 村人たちの口を塞いでも無意味だ。噂はガストンの耳にも必ず届くはずだ。そうなれば、公爵を巻き込むほどの大問題に発展する。隠蔽を図ったとなれば、『金獅子』とやらの名声も地に落ちることになるだろう。


 「さあ、どうするんだ!」


 私が強い口調で言うと、フレンが悔しそうに顔を俯かせる。


 「……わかった。その条件を飲もう。だが、話し合いには、積極的に参加すると約束してくれないか?」

 「それは、お前の態度次第だな。尋問するつもりなら、全力で抵抗するだけだ」


 おお、怖い怖い。平身低頭のフレンに反し、背後の騎士たちから明らかな殺意が漏れている。しかし、向ける相手が間違っているのだ。

 その殺意の対象は、私ではなく村民に剣を振るったバカ男だろうに……私に怒りをぶつけるのは筋違いだ。


 ――もう少し穏便にできませんか?


 見かねたのかステラの声が脳内に響く。お前、さっきまで怖がっていたくせに擁護するなよ。別に、お前が話し合いに参加してもいいんだぞ? どう考えても、ただの話し合いで終わるとは想えないけどな。


 何か考え込むようにステラは声を押し殺す。私は無視して村長に顔を向けた。


 「村長、立ち合い人をお願いできるか?」

 「わ、私がですが! ……ええ、お任せください、王女様! 私で良ければ、いつでも協力させていただきます。場所は、私の家をお使いください」

 「そうか、感謝するぞ」


 私が礼を言えば、村長は心底嬉しそうに笑う。カルラへの治療が良かったのか、村長に"偽物王女"と疑う様子はない。


 「そうだな、明日の昼は大丈夫か?」

 「ええ、もちろんです!」

 「おい、お前はどうなんだ? 明日の昼で問題はあるか?」

 「……いや、問題はない。明日、伺わせていただこう」


 否定できる立場でないとわかっているのだろう。同意するフレンの声は苦しげだった。初対面での堂々とした姿は、もう見られそうにない。自業自得とは言え、少し憐れに想えてしまう。


 「私はお前の目的を知らない。お前も私がここで何をしていたか知らない。お互いに知らない者同士だ、明日はお互いの誤解を解くことからだな」

 「…………ああ、ああ! そうだな! 感謝する!」


 ふん、寛大な私に感謝しろよ。小さく鼻を鳴らす。

 少し歩み寄っただけで、フレンは表情を明るく変える。目元に薄っすらと涙が浮かんでいるように見えた。


 ――もしかして、アンジュ様と似ているかもしれませんね?


 揶揄うようなステラの声が聞こえてくる。誰と誰が似ているんだよ? 私は、こんな単純バカではないぞ。ついつい、心の中でボヤいてしまう。


 それからの会話は早かった。話し合いの場所と日時を確定させ、あっさりとフレンたちは、中央広場から立ち去っていた。嵐のように現れ、嵐のように去って行く。忙しい連中だった。


 ――あの、アンジュ様!


 何かを決意したようなステラの声が聞こえたのは、フレンの姿が見えなくなった後だ。身体を共有する私には、ステラの不安も緊張も筒抜けだった。


 ――"分解魔法"を試していただけませんか?


 言葉の意味を認識した瞬間、胸の奥深くが急に締めつけられていた。

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