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廃棄王女のくせに生意気だ!  作者: 小湊 深冬
魔法使い、王女を貰う
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012 弟子め、お前の秘密を暴いてやる!

 ステラを『秘書』から『弟子』に格上げして三日が経過していた。

 わかっていはいたが、ステラは地頭がいいのだろう。私が一度教えたことは忘れず、先を読んだ質問をぶつけてくる。魔法と医学、両方の知識を急速に獲得していたのだ。


 認めたくはないが、知識面で言えば『弟子』として連れて行っても問題ないように想えてしまう。しかし、実技面――魔法に関しては無能を晒し続けていた。だから、一つ策を弄することにした。


 「ふん、今日でお前を丸裸にしてやるよ」


 フハハハハハ、よもや見られているとは想うまい。ステラ、お前の秘密を曝け出すといい! ニヤニヤと口元に笑みが浮かぶ。

 魔法で身体を宙に浮かし、魔法の自主練習に取り組むステラを見下ろしていた。視認防止のために光を歪めるのも忘れてはいない。ステラには私の身体が透過して見えていることだろう。


 それにしてもだ……あれは、私のモノマネか? 下手っぴだな、ステラ。


 工房から少し離れた森の中でのことだ。今日は事務作業を忘れて自主練習をしていろ、と朝から追い出していたのだ。私の視線が気になるのならば、一人きりにしてしまえばいい。そう想ったのだが――。


 「う~ん、もっと、こんな感じだったかな?」


 唸り声を上げながら、ステラは指を折り曲げている。親指に始まり、小指に向かって一本ずつステラ自身に向かって曲がっていく。……あれは、絶対に理解していないな。


 私の魔法発動条件は単純で、どの指をどう動かすかで決まる。

 親指が"火"、人差し指が"水"、中指が"風"、薬指が"土"、小指が"特異魔法"。どの指を扱うかで魔法属性を切り替えている。各指の折り曲げ具合で、発動魔法の強度を決めていた。複数属性を組み合わせるならば、いくつかの指を同時に扱えばいい。例えば、親指と人差し指を同時に曲げることで、"火"と"水"の複合魔法が発動できるのだ。


 外から見れば単純な動きに過ぎないが、一つ一つに意味がある。形だけを真似したところで意味はない。……それが、バカな弟子には理解できないらしい。

 魔法使いの証明――身体の宝石に魔力を集中させることすら忘れているようだ。準備もなしに魔法が発動できるわけもない。全く無駄な時間を過ごしているな、このバカ弟子が!


 「いや、違うかな。……そう、そうだよ! こんな感じだった!」


 はしゃいだ声を出すステラを、私は冷めた瞳で見下ろしていた。




 一時間……二時間……三時間……。おい、いつまでやるつもりだ。

 集中力があるのか、それとも単純なバカなのか。ステラは私のモノマネを繰り返していた。当然、一度たりとも魔法は発動していない。

 あまりの退屈さに堪えられず、バイブル『ダメな部下の取扱説明書』を取りに一度工房へ戻ったほどだった。


 流石はバイブルだ。ステラ――ダメな部下への対応もバッチリ書いてあった。


 「お前は、何をしているんだ!」

 「――アンジュ様!」


 ドスン、と勢いよく着地する。驚いた様子のステラが振り返っていた。


 「見ていたぞ。お前、私の真似をしていたのか?」

 「……はい」

 「魔法の発動条件は魔法使いによって違う、そう教えただろうが」

 「それは……覚えています」

 「だったら、私の真似をするな! お前自身の方法を探せ!」


 気まずそうにステラは顔を背ける。やはりこいつ、わかっていたな。怒りに任せてステラの胸をドンと強く叩いた。


 「私は、真剣に頑張らない奴は嫌いだ。真面目に努力する気がないのなら、お前を『弟子』から格下げするからな!」

 「そんな! 私は、これでも必死に――」

 「――それなら、自分の頭で考えろ! お前は、頭の中までゴミまみれになったのか! 違うだろうが!」


 何度も怒鳴りつけ、ようやく悟ったらしい。ステラがハッと目を開き、自嘲するように顔を俯かせていく。……さあ、ここからだ。偉大な師匠が慰めてやろう。感謝するといい。


 「後悔したならば、今後の行動で示して見せろ。わかったな?」

 「……はい、アンジュ様」

 「ステラ、私の真似をするならば一緒に仕事はしないからな。私のコピーにさせるくらいなら、私が自分でやった方が早いんだよ。お前は私にできない仕事をしてくれると、期待していたのだがな……」


 フハハハハハ、愚かな弟子よ、嬉しいだろう。お前が憧れる師匠が頼ってやったのだ。だから、憧れゆえに私の真似をするのは止めるんだな。


 「私が、アンジュ様のお役に立てる」


 予想通りの反応だ。ステラが顔を上げる。


 「ああ、そうだ。お前は、私の役に立ちたいのだろう。……期待を裏切るなよ」

 「――申し訳ありませんでした」

 「……ふん、少しは期待しているんだ。ガッカリさせるな」


 一方的に言い放ち、一気に宙へと舞い上がる。そして、ステラから飛び去った。


 ステラの視界から消えた後、遥か上空で漂い、一人達成感に打ち震える。

 我ながら完璧だった、見事な師匠ぶりだった、と褒め称えたい。これで、ステラも魔法の練習に本腰を入れるはずだ。それでも私の真似事をするようならば、本当に『弟子』から格下げしてやればいい。


 再び周囲の光を歪め、私自身の姿を透過させていく。ゆっくりと降下し、ステラの観察を再開させた。


 「……あいつ、何を突っ立っているんだ?」


 再び観察を始めてから五分間は経過しただろう。ステラはポツンと一人で立っていた。何かを考えている様子だから問い質しには行かないが……まさか、このまま練習をしないつもりではないだろうな?


 再び読み始めていたバイブルを閉じ、音を立てずに地上へ降下する。当然、視認防止もバッチリだ。


 一歩……二歩……三歩……。慎重にステラへ近づいて行く。背中側から正面に出ようとした瞬間、ステラの横顔が目に映る。同時に、私の足は止まってしまった。


 ――ステラは、声も出さずに泣いていた。


 泣くほど魔法を使いたくなかったのか……。それは、悪いことをしたかもな。

 苛立ちの波が急に引いていく。言いようもない罪悪感だけが胸の奥深くに残り、チクチクと私を責め立て始めていた。


 「よし、決めた」


 唐突に響いたステラの声は明るい。見れば涙を拭っているようだった。


 「私が死んでも、アンジュ様のお役に立てるならば……それでいいんだよ。きっと、アンジュ様なら悲しんでくれる。私のことを覚えていてくれる」


 言い聞かせるような口調でステラが独り言をつぶやくが、私にはまったく理解ができない。どうしてステラが死ぬんだ?


 混乱する私を置いてステラは行動を開始する。足元にあった手のひらサイズの黒い石を拾い上げ、両手で包み込んでいた。


 「使うのは久しぶりだけど……」


 小さなステラの声には不安が滲んでいる。今から魔法を使うのだろう。

 頭の中に浮かぶ疑問を片隅へ追いやり、私はステラを注視する。魔法の発動を止めるつもりはなかった。


 ステラの宝石眼が淡く輝き始めると同時に、その両手も発光し始める。ほんの数秒後、光は治まっていた。


 「……また『バケモノ』になっちゃったな」


 ステラの言葉が、私の心の弱い部分を抉っていく。急に泣き出したい気持ちになった。悲しそうにステラが触れた頬をもう人肌ではない。硬質的な黒い石肌に変わっていた。ステラの手のひらの中に、黒石は残っていなかった。


 「アンジュ様……私、死にたくないです」


 ステラの声が聞こえた瞬間、私は一目散に逃げ出していた。勝手に零れ落ち始めた涙を拭う余裕もなかった。

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