選択科目
〈リアル 黒霧家〉 月曜日 朝6時半
俺はスマホのアラームの音を聞いて起きる。
「ハァ、今日から学校か……。正直行きたく無いな」
月曜日の憂鬱な朝なので、布団の魔力に負けそうになりながらも、何とか出て身支度を整えた後、リビングに向かう。
「おはよう、悠斗」
朝ご飯を作っている母さんに、声を掛けられたので
「おはよう、母さん。父さんはもう仕事に行ったの?」
「そうね。今日は大事な会議があると言って、急いで出て行ったわ」
あの人も大変ね。と呟いている。
俺はソファーに座ってテレビを見ていると
「VR装置とFTCの増産決定、次の発売日は1月後か」
でも、半月後まで待てない人もいそうだな。
そう思っていると「朝ご飯が完成したわよ」という母さんからの声が聞こえたので、そちらに向かう。
そして、朝ご飯を食べ終わると、学園に向かう時間になったので家を出る。
〈リアル 月宮学園〉 1年3組
男子の制服は、紺のブレザーに黒いズボンだが、女子の服装は、ピンクのブレザーに若草色のスカートになっている。
ちなみに冬は、ハリーポ○ターみたいなローブを着る様に、校則で決まっている。
そして、俺はクラスに入り、自分の席に座って鞄からスマホを取り出す。
そして、FTCの情報サイトを開く。
「なる程、昨日の夜に始まりの草原のボスを倒したプレイヤーがいるのか」
俺は懐からイヤホンを取り出して、アップされている動画を見ようとした時、後ろから肩を軽く叩かれる。
なんだ、と思い振り向くと、ニッコリ笑った翼が目に入る。
「おはよう悠斗。そして、お願いがあるの」
「先に言っておくが、今日締め切りの課題は見せないからな」
中等部の時から、このやりとり何回もあったから、断らせてもらう。
「えっ……。そこを何とか、このままだとまた課題が増やされる」
そう言って頼み込んで来る翼に
「俺じゃなくて、他の人に見せて貰えばいいだろ」
と伝えると
「悠斗は文字が綺麗で読みやすいのと、なんだかんだ文句は言うけど貸してくれるからね」
ハァ、色々呆れてしまうが、盾役が課題に追われてログイン出来ないのは、こちらの戦力としても辛いか。
「分かった。俺のノートであれば貸すよ」
自分は甘いなと思いつつ、翼にノートを貸す。
「ありがとう、このお礼はまた他の時に返すわね」
そう言って翼は、俺の後ろの席に座って写し始める。
「やっぱり、悠斗は文句は言うけど優しいね」
先ほどから俺と翼のやりとりを見ていた、翔真が声をかけて来る。
「仕方ないだろ。このまま盾役がいなくなると、俺達のパーティーは崩れるぞ」
「確かにそうだね。僕も昨日は回避の練習をしていたけど、悠斗と翼が居なかったら、どれだけしんどいか分かったよ」
「俺も、お前らが居ないとキツかったな」
俺と翔真が雑談をしているとチャイムが鳴って、担任の女教師、大川沙耶先生が中に入って来た。
「おはようございます。では今日のHRを始めたいと思います」
鈴の様な優し目の声が聞こえて来たHRが始まった。
そして、連絡事項など話が終わり、今日の時間割を見ると
「1.2時間目は選択科目か、俺は普通の体育だから着替えないとな。確か、翔真も同じだよな」
「そうだよ。でも、他の選択科目が格闘術と剣道だから、僕には向いてないからね」
俺は、目立つのが嫌だから体育を選んだ。
翔真は運動神経があまり良く無いので、普通の体育の方が良いと言っている。
ただ1人を除いて
「2人とも、何で格闘術を選ばなかったの? 男女別とはいえ、私も選んでいたから一緒にやろうよ」
「「断る!」」
俺と翔真は同じタイミングでそう言った。
「悠斗と翔真は息ピッタリだね」
「当たり前だろ。特にお前は中等部の時に、対戦相手の女子をボコボコにして保健室送りにしたのは、忘れて無いぞ!」
「あれは、相手が挑発して来たからよ。普通はあそこまではやらないわよ」
翼は同年代の中でかなり強いので、他の人から恐れられている。
それはさておき
「まぁ、それは置いておいて、時間的に着替えて体育館に行かないといけないから、そろそろ行くな」
「分かったわ。また後で」
俺と翔真は男子更衣室に向かって歩いて行く。
そして、今日の授業のバスケットボールをした後、3.4時間目の座学を乗り越えて、昼休みになったので食堂に向かう。
「悠斗、翼、今日は何を食べるの?」
翔真が聞いて来るので
「とりあえず、焼肉定食だな。確か450円で食べれるからな」
「なる程、ちなみに私はカツカレーの大盛りにするわ」
「翼はガッツリ食べるね。ちなみに僕はラーメンセットだよ」
俺達は何を食べるのかを話し合いながら歩を進める。
〈リアル 月宮学園〉 食堂
俺達は券売機で食券を買って食堂のおばちゃんに渡して、料理を受け取って、ちょうど空いていた4人席に座る。
「そういえば、FTCの事だけど、始まりの草原のボスが倒されたらしいぞ」
俺は米を口に運びながらそう話す。
「そうなのね。でも、私達がギリギリ倒したムーンソウルラビットよりは、格段に弱いわよね」
「いや、そうとも限らないよ。僕は昨日の夜に、その動画を見たのだけど、ボスのブルーライトジェルは遠距離攻撃があったよ」
翔真が塩ラーメンをすすりながら言葉を発する。
「なる程、確かに悠斗が先にやられたら、私達の戦力が大幅にダウンするわね」
「実際、ブルーライトジェルは後衛メインで、集中攻撃していたみたいだよ。しかも、前衛は挑発系のスキルを持って居なかったプレイヤーが、殆どだったよ」
「いやいや、挑発系が無かったらヘイト管理が相当大変よ」
翼が辛口カレーをスプーンで食べながら話して来る。
「そういえば、プレイヤーの選んだ職業のパーセンテージが出ていたな」
俺は焼肉定食を食べ終わったので、スマホを取り出して、攻略サイトを開いて2人に見せる。
「えぇ!? ファイター42%、シーフ25%、ナイト20%、マジシャン8%、クレリック5%、ってかなりバランスが悪いわね」
「やっぱり、ファイターが人気だね。まぁ、ベーターテスターの時もそうだったらしいからね」
翔真と翼も昼飯を食べ終わったみたいなので、食器を返してクラスに戻ってチャイムが鳴るまで、雑談をする。
そして、5.6時間目の授業を受けて、帰りのショートHRが終わり、部活に入っているクラスメイトは早足で教室から出て行き、帰宅部組はゆっくり雑談している人もいる。
「さて、俺達も帰るか」
俺は鞄を持って2人にそう話すと
「ごめん、私まだ学園でやる事があるから、先帰って大丈夫だよ」
「分かったよ。それじゃあまた明日」
翔真がそう言って俺達2人は教室の外に出る。
学園から出てバスに乗って家の近くに着いたので、翔真と別れて、家に向かう。
〈リアル 黒霧家〉
母さんはパートで働いていて、妹の咲良はまだ帰って来てないので、とりあえず制服から私服に着替えて、今日出された課題を終わらせる。
そして1時間後、課題も終わったのでFTCにログインする為、VRゴーグルをかけて掛け声を言う。
「リンク・ザ・イン」
そう言って、ゲームの世界に入る。