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しんじつ

・-・-- ・--・ ・-・・ ・・ ・・・- -・・・ ・-・-・- --・-・ ・-・-・ -・ ・・ ・-・-・・

 僕たちは、新たな街にやって来ました。入り口は草木で生い茂っています。

 周囲に抜け道がないか見渡します。けれど、周囲を塀と草木に囲まれていて、入れそうにありません。すると、メディアちゃんが獣耳をぴんと伸ばしました。


「こずえちゃん。ボクに任せて!」


 メディアちゃんが先頭に立って道を切り開いてくれました。



 メディアちゃんの頼もしい背中に、ゆっくりと着いていきます。


 この街では、放置された車や自転車をちらほらと見かけます。けれど、どれもこれも目に見えて錆びついていました。奥まで進むと、草木の中に、アスファルトで整備された道が続いています。


 街の中心には、倒壊した赤い塔が目に付きました。周囲には、煙の出ていない煙突を備えた工場らしき建物がたくさん並んでいます。道端には、錆び付いた機械の破片が転がっていました。


 ひとまず赤い塔に向かって歩いていきます。


   *


 赤い塔は、根元から少し上あたりでぽっきりと折れていました。

 全長は300メートルくらいでしょうか。先のほうが尖っている、鉄塔です。


「こずえちゃん、こんなもの、拾ったよ!」


 メディアちゃんは、砂まみれでぼろぼろの本のようなものを掲げています。

 手に取って、中身をぱらぱらとめくってみます。

 うっすらと日付が書かれ、日記らしいことがわかりました。持ち主の名前らしきものはどこにも記されていません。


 英単語や設計図などが並んでいます。内容は専門用語がたくさん書かれていて非常に難解ですが、前半部分で言いたいことは分かりました。ですが、後半部分は支離滅裂な内容で、何だかよく分かりません。


「ねえねえ、何て書いてあるの?」

「誰かの日記みたいだよ。この街で大変なことがあって、悩んでいたみたい。ただ、最後のほうに書いてあることは、僕にも分からないかな……。ごめんね、力になれなくて」


 僕が日記とにらめっこして落ち込んでいると、メディアちゃんが僕の顔を覗き込んできました。ふさふさした獣耳がぴこぴこと左右に揺れています。


「そっか。そんなに気にしなくても平気、平気! にっき? だってことがわかっただけでもすごいよ。それに、こずえちゃんには、ほかにも、すごいところが、たくさんあるから!」


「あはは……。そんなことないよ」


 メディアちゃんの獣耳がぴん、と立って、真剣な顔つきになります。


「こずえちゃん、何か来るよ!」


   *


 ずしん、とお腹の底に響くような地響きが鳴りました。


 急に暗くなったと思って見上げると、工場と同じくらいの高さをした、ナマズとカエルを足して2で割ったような怪物のお腹が見えました。表面は赤く、ゼリー状にテカテカしていて、目玉の位置がはっきりをわかります。不気味です。怪物は、目玉が4つあり、背中から煙の噴き出すような微かな音がしています。


「ひええ……あれって、もしかして、ナマズさん? それとも、カエルさん?」

「違うよ。怪物だよ! こずえちゃんは、危ないから下がってて!」

「ええっ、メディアちゃん、無茶だよ!」


 僕はメディアちゃんの手を握って、一緒に逃げました。


「こずえちゃん。あんな生き物を放っておいたら、誰かが食べられちゃうよ!」

「そ、そうだけど!」


 工場の影に隠れてやり過します。僕が怪物を見張っていると、肩をぽんと叩かれました。


「ひえぇ!」

「うわぁ!」


 僕はびっくりして飛び上がり、尻餅をつきました。

 メディアちゃんは僕の悲鳴にびっくりして、工場の壁に飛びつきます。


「……よ、よお」


 ディエスさんがぽつんと立っていました。


「ディエスさんでしたか。びっくりしました!」

「もう、おどかさないでよ!」


「いやー、悪い、悪い。それより、何だよ、あれ。でかすぎやしないか」


 怪物はきょろきょろと獲物を探しています。何もないことを確認すると、のっし、のっしと、入り口のほうへ向かっていきました。


「あっ、だめ! あっちにはリコリスがいるんだよ!」


 メディアちゃんは咄嗟に飛び出し、巨大な怪物に飛び掛ります。


「うみゃー!」


 メディアちゃんは怪物に殴りかかりましたが、弾き飛ばされてしまいました。

 怪物の目がぎょろりと動き、メディアちゃんを踏み潰します。


 僕は息を飲みました。


「メディアちゃん!」


 足がメディアちゃんの方向に引き寄せられ、走り出します。


「ええっ。おーい! 待て! 危ないぞ!」


   *


 僕は、ディエスさんの制止を振り切りました。


 小石を投げて怪物の気を引き、倉庫に誘い込みます。

 物陰に隠れ、隙を突いて体当たりしました。


 ぶにぶにとした気味の悪い感触に跳ね返され、僕は地面に尻餅をつきます。


「おーい、大丈夫か?」


 ディエスさんが駆けつけてきました。

 僕の手を引いて助け起こしてくれます。


「ありがとうございます。僕より、メディアちゃんを」


 僕は地面に倒れ伏しているメディアちゃんに駆け寄り、両手でしっかりと抱きかかえました。


「メディアちゃん、大丈夫?」


 返事はありません。

 怯んだ怪物が再び動きはじめました。


「げっ。まずいんじゃないか」

「ディエスさん、メディアちゃんをお願いします!」

「えっ。ええっ」


 ぽかんとするディエスさんにメディアちゃんを託します。


「てーい!」


 振り返り、怪物に体当たりしますが、あまり効き目がありません。

 僕は地面に転がると、すぐに立ち上がります。


「こっちに来ないで下さい!」


 怪物から噴出された吐息が、僕の意識を遠のかせました。


「ううっ……また……」


 怪物の影がじわじわと迫ってきます。


「くらえっ!」

 ディエスさんがメディアちゃんを抱えたまま飛び込んできて、怪物の目玉のような部分に飛び蹴りをしました。

 怪物は低いうめき声を漏らして、うごめいています。


 ディエスさんは、反動で跳び上がると、僕の傍に軽々と着地しました。


「ディエスさん、ありがとうございます!」


 僕はディエスさんに手をひいてもらい、よろよろと立ち上がりました。


「無茶しすぎだ。こういうときこそ頭を使うべきだ。ひとまず逃げろ!」

「わ、わかりました。いったん逃げて、作戦を立てましょう!」

次回、第10話。

みなぞこのかいぶつ|(水底の怪物)


なんだか、向こうのほうが、さわがしいなぁ……。

ちょっと様子を見てこようかな。

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