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うみ

「ボク、泳ぎは苦手なんだ! ねこかきしても、すぐおぼれちゃうの!」


 ね、ねこかき……?


「そっか。じゃあ、今度、浮き輪をさがしてみよっか」

「うきわ?」

「うん。まあるいわっかの形をしていて、海の上でぷかぷか浮かべるんだよ」

「なにそれ、やってみたい! うきわ、どこかに生えてないかなー?」

「へっ?」

「うん?」

「僕たち、ディエスさんの地図を頼りに歩いているんです」

「ちず?」


 メディアちゃんが身を乗り出して獣耳をぴこぴこと動かします。


「そうだよ。まちとか、うみとか、やまとかが、どこにあるのかわかるようになってるんだよ!」

「はい。こんな感じの地図で、ここが僕たちがいまいる場所です」


 リコリスさんは、地図と睨めっこして、首を傾げます。


「文字らしきものが書いてあるけど、あたしには読めないかな」

「ひとまず海まで行きたいんですけれど、どこにあるかわかりませんか?」

「海? それなら、ここから山を下った先に、海があるよ。あたしが案内してあげよっか? 近道があるからさ」


「こずえちゃん、近道だって!」

「あ、ありがとうございます。よろしくお願いします!」


   *


 リコリスさんはシャベルを担いで、ずんずんと山道を下ります。

 坂がなだらかになると、草木が見えてきました。


「ひまわりがたくさんあるよ」


「こずえちゃんの、えーと……こう、かぶるやつ」

「メディアちゃん、麦藁帽子っていうんだよ」

「むぎわらぼうしに、ついているものとおんなじだね!」


 メディアちゃんは、ひまわりの花びらを指先でつんつんしています。

 ひまわりが揺れると、メディアちゃんも合わせて左右に揺れました。

 リコリスさんは、けだるそうに、うんと背伸びをします。


「ここから少し歩いたところに、黄色くて、とんがった、ごつい食べ物があるんだ。甘くて美味いけど、なかなか硬くて、食べるのに一苦労だよ」

「もしかして、パイナップルのことですか?」

「パイナップル? へー、そういう名前なのか」


 でも、パイナップルって、南国に生えるはずですけど……。


 ここは、南国なのでしょうか。でも、コンパスの向きと太陽の位置からして、南国ではないはずです。


 もしかしたら、冷凍解凍覚醒法をつかっているのかもしれません。苗木をマイナス60度までゆっくりと冷やしたものを解凍して植えると、バナナでもパイナップルでも、温度管理なしで育てられるようにする方法です。


 メディアちゃんによれば、機械が食べ物を運んでいるらしいので、機械が食べられる植物を管理しているのかもしれません。


 ひまわり畑を抜けると、一面に水平線が広がっていました。

 ヤシの木が何本も生えています。


「ほーら、着いたよ」


 メディアちゃんが砂浜の上を歩くと、きゅっ、と小さな音がします。

 とても綺麗な砂を踏むと、砂が鳴くみたいです。


「砂がしゃべったー!」


 メディアちゃんは砂の上でぴょんぴょんと跳ねています。


「鳴き砂といって、とても綺麗な乾いた砂を踏むと、きゅっ、と音が鳴るみたいだよ。鳴き砂に含まれる石英っていう砂粒が、とっても、こすれ合う力が強いんだって。だから、こうやって、乾いた表面をこするように踏むと、一斉に振動して音が鳴るしくみになっているみたいだよ」


「そうなんだ! こずえちゃんは、とってもすごい物知りさんなんだね!」

「そ、そうかなぁ……」


 リコリスさんは僕たちのやりとりを聴き終えると、鼻をひくひくと鳴らしました。


「こずえって、ずいぶんとうみについて詳しいんだな。もしかして、前にうみ、来たことあるのか?」

「えっと、すみません、覚えてないんです」


「そっかー。ま、そのうち思い出すさ、気にすることはないよ。んじゃ、あたしは食料調達したら帰るけど、迷子になったら大声で呼んでくれよな! じゃな」


「は、はい。お世話になりました」

「ありがとう、リコリス! また遊ぼうね!」


 僕は軽く礼をして、メディアちゃんと手を振ります。

 メディアちゃんは、リコリスさんが見えなくなるまで、手を振っていました。


   *


 太陽がさんさんと輝いています。


「はぁ、はぁ。あ、暑くなってきたよー」

「メディアちゃん、大丈夫?」


 メディアちゃんが少しふらふらしています。


「あれ? こずえちゃんは平気なの?」


「うん。ちょっと暑いけど、平気だよ。ねこさんは肉球からしか汗をかかないから、メディアちゃんもほとんど汗をかかないのかも。だから、ちゃんと水分補給したほうがいいと思うよ」

「そ、そっか……」


 メディアちゃんは、ぼうっと、うみのほうを眺めています。


「こずえちゃん。うみって、呑めるかな……」

「塩分がたっぷりあるから、逆に、ひからびちゃうよ」

「えぇっ、どうしよー……」


 メディアちゃんはふらふらと浜辺をさまよい歩きます。

 うーん、何とかして、水をろ過できないかな……。


   *


 ポーチの中を漁って思案していると、メディアちゃんの声がとんできました。


「こずえちゃん! ちょっと来てよー!」

「どれどれ……?」


 砂浜を、きゅっ、きゅっ、と鳴らして、メディアちゃんの元へ向かいました。


「何か見つけたのかな?」


 メディアちゃんは、手のひら大の丸っこいものを、指先でつんつんしています。


「こずえちゃん、これ、なに? なんだか丸っこくて、ざらざら、もしゃもしゃしていて、とってもかたいよ?」


「これはヤシの実。穴をあけて中身を飲むと、甘くて美味しいと思うよ。でも、どうやって穴をあければいいかな……」

「みゃっ! 任せて!」


 メディアちゃんは鋭い爪でヤシの実を引っかきました。

 ヤシの実は勢いよく跳ねて、白砂の上をころころと転がりました。


「かたくて切れなーい! あんまり強く叩くと、粉々になっちゃうかも」

「うーん、どうしようかな……」


 僕はポーチの中を探りました。金属質なものが手に触れます。


「こずえちゃん、これは?」


 手にとって見てみると、折りたたみ式の万能ツールだとわかりました。指でつまんで、ひとつずつ確かめてみると、小さなナイフや栓抜きなどが揃っています。


「こうやって広げて使うんだよ。でも、危ないから、触るときは気をつけようね。でも、どうしてこんなものがポーチに入ってるのかな……」

「こずえちゃん。あっちにもヤシの実がたくさんあるよ! ボク、取ってくる!」

「えっ、メディアちゃん?」



「あ、足がつかれて、とどかない……」


 メディアちゃんはすでにヤシの木に向かってジャンプを繰り返しています。でも、ちょっとだけ届かないので、木をよじのぼりはじめました。


「うわぁ、危ないよ!」


 僕は慌ててメディアちゃんのもとへ駆け寄ります。


   *


 海岸で追いかけっこをしたり、ヤシの実収集をしたり、山菜探しをしたりしているうちに、お日様が水平線へと日が沈みかけています。


「すっかり暗くなってきちゃったね」

「ボクはいつも暗いときに起きているんだけどね」


 メディアちゃんは、ねこさんですので、夜行性みたいです。……あれ?


「メディアちゃん。もしかして、無理してない?」

「うん? 平気だよ。どうして?」


「メディアちゃん、朝、ずっと起きてるけど、夜行性なんじゃないかな、って」

「ボクは、どっちでも平気なんだ。夜にたっぷり寝たから、とっても元気だよ」

「そ、そうなんだ……」


 ヒトの身体だからでしょうか。ふつうのねこさんも、昼間に動いていることはありますけど、どうなんでしょうか。


 メディアちゃんは白砂に寝そべって、ふにゃり、と伸びてしまいました。


「つかれたー!」

「じゃあ、暗くなってきたし、焚き火をしようか」

「たきび?」

「うん。木をまとめて、火を点けるんだよ。火を起こすには、木をこすり合わせたり、太陽の光を集中させたりするとできます。道具があれば、マッチやライターでもできるよ。何かないかな……」


 ポーチを漁ります。四角い小箱のような感触に、ぴん、ときました。

 取り出すと、マッチの箱が見つかりました。

 中には、みっちりとマッチ棒がつまっています。


「マッチがあれば、メディアちゃんでも簡単に火を点けられるよ。でも、危ないから、使うときは赤色の部分が上を向いたり、下に向きすぎたりしないように気をつけてね。このマッチ棒を赤色の部分をマッチの箱のざらざらしたところに素早くこすりつけると、火が点くよ。木を集めたら、やってみようか」


「やる、やるー!」


 メディアちゃんは砂浜をぴょんぴょんと跳び回り、手当たり次第に流木を集めてきました。僕はその間にヤシの実ジュースを作ります。


 ふと、メディアちゃんはやしの木を見上げました。


「んしょ……もうちょっとで抜けそうなんだけど……」

「ひえっ。メディアちゃん、ヤシの木は抜かなくてもいいよ! もう、じゅうぶん集まったから!」

「みゃ? わかった!」


 はしゃぐメディアちゃんをなだめつつ、ヤシの実を万能ツールの栓抜きでくりぬきます。結構な力がいりますが、難なく穴をあけることができました。


   *


「じゃあ、点けるよ」

「うん!」


 メディアちゃんの後ろに周って手を握り、一緒にマッチをこすります。

 力一杯こすると、一回で火が点きました。


「みゃっ! びっくりした!」


 メディアちゃんはびっくりして耳を震わせました。

 木の枝の山に放り込むと、徐々に火の手が増していきます。


「上手にできたね。はい、メディアちゃんのぶん。こぼさないように気をつけて」

「ありがとう、こずえちゃん! ここから飲むのかな?」


 くりぬいたヤシの実をひとつメディアちゃんに手渡します。

 僕が一口飲むと、メディアちゃんも恐る恐るヤシの実の汁を啜りました。


「とっても甘くておいしいよ!」

「うん、おいしいね」

「今日は楽しかった! こずえちゃん、明日はどこに行こっか?」

「ディエスさんの地図だと、この近くに別のまちがあるみたい。機械のまち、って書いてある。もしかしたら、ここに行けば何かわかるかもしれないと思う」


「じゃあ、明日はきかいのまちに行こう!」

「よろしくね、メディアちゃん。……メディアちゃん?」


 メディアちゃんは元気よく叫んでから、すぐに寝てしまいました。


 やっぱり疲れていたのかもしれません。風邪をひかないように、メディアちゃんに僕の上着を被せます。


 僕はヤシの実ジュースをゆっくりと堪能してから、火の始末をして、メディアちゃんの傍でぐっすりと眠りました。

次回、第9話。

「しんじつ」


うそつきは口に手を入れたら抜けないんだって。

んー、どういうことだろ?

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