やまこえたにこえ
「ボクたちはとっても耳がいいんだ!」
「つかれたー!」
「ちょっと休憩しようか」
岩山を登ったり下ったりしながら進んでいきます。
道中、メディアちゃんとりんごのお菓子を食べて休憩しました。
山を登っていく途中、ぽっかりと暗い穴を見つけました。
周囲は切り立った崖になっていて、迂回するか、ここを通るしかなさそうです。
「こずえちゃん、洞窟があるよ。入ってみる?」
「うーん。真っ暗で、何も見えないよ……。明かりになるものは……」
ポーチを漁ると、マッチがありました。でも、木に火を点しても、すぐに消えてしまうと思います。油と布があればいいのですが……。
「ボク、暗いところでも、よく見えるよ!」
「そっか。じゃあ、メディアちゃんに着いていこうかな。あと、メディアちゃん。洞窟の奥から、風の音は聴こえる?」
メディアちゃんの獣耳がぴこぴこと揺れました。
「うん。聴こえるよ。ごおーって、音がする」
「きっと、どこかに繋がっているんだと思う。行き止まりは、よくない空気が溜まっていることがあるから、気をつけないといけないよ。メディアちゃん、風の音がするほうに進んでくれるかな」
「まかせてー! こずえちゃん、しっかりとボクにつかまっていてね」
「うん……メディアちゃん、ゆっくり進んでね」
「わかった! ゆっくりだね」
メディアちゃんの右肩につかまって、身体を寄せます。メディアちゃんの身体は、ぬくぬくしていて、全く汗をかいていません。
洞窟に入ると、僕には、ほとんど何も見せません。ごつごつした岩に足を引っ掛けそうになりながら、慎重に歩いていきます。
メディアちゃんは急に足を止めました。
「うぅ……。こずえちゃん、ぴちょーん、って、変な音がするよ」
「音?」
耳を澄ますと、何かが跳ねるような高い音が、小さく響いて聴こえてきます。
「これって……えっと……メディアちゃん、平気?」
「こ、こわくないよ」
メディアちゃんは身体を小刻みに震わせながら、慎重に歩を進めていきます。
何度も響く音は、だんだん僕たちのほうに近づいてきました。
「メディアちゃん、この音は……」
「つめたっ」
メディアちゃんの身体が小さく身震いします。
「ボクの頭につめたいものが当たったよ! ……つめたっ」
「メディアちゃん、たぶん水だよ。地下水か何かだと思う」
「えっ、お水? 飲めるの?」
「ちょっとわからないかな……」
「そっかあ」
僕たちは水滴から離れて、風の音のするほうへと進んでいきます。
次回、第7話。
「リコリスさん」
あたしはスキウールス・リコリスだよ。
よろしくな。