こずえちゃん
「これ……こずえちゃんの……」
メディアちゃんは、ポーチを胸の前で抱きしめました。
メディアちゃんの獣耳が、何かを感じ取って、ぴん、と立ちます。
キャンパスさんは、立ち上がったメディアちゃんの肩に手を置きました。
「お、起きたねえ」
「あっ、キャンパス。こずえちゃんは?」
「……あそこの建物の中にいるよお」
キャンパスさんは廃工場を指差します。
「ええっ、なら、早く助けないと!」
跳び立とうとするメディアちゃんの手首をキャンパスさんは掴んで離しません。
「待ってぇ。こずえちゃんがメディアちゃんを助けてくれたんだよぉ」
「早く助けに行かないと、こずえちゃんが怪物に食べられちゃう!」
メディアちゃんは、すがるような視線で、ディエスさんの細面を見上げました。
「ねえ、ディエス。こずえちゃんが食べられる前に……」
ですが、ディエスさんは、低い声で呟きます。
「……食べられたよ」
「えっ! そんな」
「君を運ぶとき、この目で見たんだ。残念だけど……」
「こずえちゃん……」
メディアちゃんは膝を着いて、ぽろぽろと熱いものを溢れされて、地面を濡らしていきます。
涙をこぼすメディアちゃんを傍目に、ディエスさんと猫耳さんは、大きくてごつごつとしたものを運んでいました。
「よし、準備できた!」
崖上では、たくさんの大岩と猫耳さんたちが一列に並んでいます。てこの原理で、岩を転がす仕組みになっています。
「まかせろー!」
「いつでもいいよ!」
ディエスさんは、猫耳さんたちの熱気に圧され気味になっていました。
「準備できたのはいいんだけどさ。あの工場から怪物が出てこられないままなら、このまま放っておいてもいいような……」
「みゃー、こずえちゃんが!」
メディアちゃんはキャンパスさんを振りほどこうとして、やめました。尻尾が左右にぱたぱたと揺れています。いてもたってもいられないみたいです。
「こずえちゃんはね、ボクの大事な友達なんだ。仲間が、みんないなくなっちゃって、寂しい思いをしているときに、こずえちゃんはボクに元気をくれたんだ。それから、こずえちゃんはとっても頭がよくって、優しくて、みんなのことをいつも大切に思ってくれているんだよ! だから、お願い、みんな。こずえちゃんをボクと一緒に助けて!」
メディアちゃんは必死に訴えました。くりくりした瞳が小さく揺れています。
ディエスさんは困り顔で後ろ頭をかいています。
「……わかったよ。こずえは諦めたわけじゃなさそうだったし。それはいいんだけどさ。こずえが工場の中にいるのに、岩を落とすっていうのは、まずいと思うんだけど……」
猫耳さんたちは顔を見合わせました。
メディアちゃんは獣耳をしょんぼりさせて俯きます。
「……こんなとき、こずえちゃんなら、どうするかな」
次回、最終回。
「メディアちゃん」