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みなぞこのかいぶつ(水底の怪物)

 星が瞬くころ。廃工場の多い区画で、怪物が獲物を探して漂っています。



 僕たちは崖を背にして、怪物に退路を塞がれていました。

 いまは岩と木々の陰に隠れてやりすごしていますが、このままでいるわけにもいきません。ディエスさんによれば、怪物を放っておいたら、ほかの動物達……お友達が根こそぎ食べられてしまうそうです。


「メディアちゃん、本当に大丈夫?」

「平気! 僕、身体は頑丈だから!」

「そっか。無理はしないでね」


   *


 僕はひと通り思いついた作戦を披露しました。メディアちゃんは、怪物の動きを警戒して、じっと聞き耳を立てています。


「僕が飛び込んだら、みなさんで崖の上に逃げて下さい。キャンパスさんは、今の内に、お友達をたくさん集めてきて下さい」

「わ、わかったよぉ」


 メディアちゃんが僕の目の前にひょっこりと顔を覗かせます。


「お友達に会えるの!?」

「うわあっ、メディアちゃん! びっくりしたよ……」

「あっ、ごめんね。お友達に会えるって聞いて、嬉しくなっちゃって」


 メディアちゃんのきらきらした瞳が僕に注がれます。僕がキャンパスさんに視線を送ると、メディアちゃんがキャンパスさんに顔を寄せます。


「最近会ってないな。みんなどうしてるかな? キャンパスは何か知ってるの?」

「え、ええと、楽しみに待ってるといいよぉ?」

「わかった! 待ってる!」


 メディアちゃんは顔をひっこめました。再び茂みから獣耳を立てて、怪物の動きを警戒しているようです。ときどき、獣耳がぴこぴこと左右に動きます。


 もしかして、メディアちゃんは、お友達に会えなくて寂しかったのかな?


「……作戦通り、うまくいくといいけれど。無茶はするなよ」


 笑顔のキャンパスさんとは対照的に、ディエスさんは心配そうに後ろ頭をかいています。

 僕は小さく俯きました。

 このままメディアちゃんたちが怪物に食べられるわけにはいきません。


「……きっと、だいじょうぶです。みなさん、作戦通りにお願いします」

「お、おうよ。うまくいくといいなぁ……」


 僕はみんなを見渡して、小さく頷きます。

 それから、メディアちゃんに向き直りました。


「僕が怪物をひきつけるから、その隙に……」

「こずえちゃん、ボクも行くよ! ひとりじゃ危ないから!」


「えっ、メディアちゃんも一緒に来るの?」

「もちろん!」


 メディアちゃんは、じっと僕の目を見つめています。


「わ、わかったよ、メディアちゃん。じゃあ、僕たちで時間を稼いで、作戦の準備ができたら、ディエスさんが合図をする。そしたら、崖の上まで避難を」


「ボクがこずえちゃんをジャンプで運ぶよ!」

「そ、そっか」


 メディアちゃんの獣耳は、小さく震えています。

 ちょっと緊張しているのかもしれません。


「では、みなさん。お願いします」


   *


「いきます!」


 僕は怪物に小石を投げつけ、廃工場の中に逃げ込みます。

 怪物はじわじわと僕のほうへ迫って来ました。


「みゃー!」


 メディアちゃんは怪物の背後から爪を立てます。

 けれど、硬い肌に弾かれてしまいました。


 怪物は尻尾のようなものを振り回して、メディアちゃんを吹き飛ばします。


「うみゃー!」

「メディアちゃん!」


 僕はメディアちゃんに走り寄ろうとしますが、怪物の噴出す煙が僕の意識を奪います。頭がくらくらして、派手にこけてしまいます。

 すぐに立ち上がったメディアちゃんが、怪物を飛び越えて、咄嗟に僕を突き飛ばしました。


「こずえちゃん、危ない!」


 僕は廃工場前の床を転がりました。

 よろよろと立ち上がると、怪物がメディアちゃんをつかまえています。


 怪物は、メディアちゃんをぺろりと平らげてしまいました。


「そんな……メディアちゃん!」


   *


「おいおい、まずいんじゃないか?」


 崖を上っていたディエスさんが足を止めて、木陰に身を潜めます。


「キャンパス達は、先に行っててくれ」

「ほい、任されたよぉ」


 ほかのみなさんは、キャンパスさんが先導して、崖上まで逃げました。


「おらよ、受け取りな!」


 ディエスさんが投げつけた小石が、怪物に当たって跳ね返ります。

 怪物は振り返ります。でも、ディエスさんは身を潜めていて、怪物には見つけられないようです。


 その隙に、僕は怪物の位置を確認してから、近くのボタンを押して、工場のシャッターを閉めます。電気は通っているようで、ゆっくりとシャッターが下りてきました。怪物の硬い身体を、シャッターが挟み込みます。


 僕は廃工場に備え付けられていた消火器を手に取り、怪物に吹き付けました。


 粉塗れになって身を震わせる怪物は、おもむろに口のような部分を開きました。


「メディアちゃん、待ってて!」


 僕は怪物の口のような部分へと突進し、飛び込みました。

 メディアちゃんを助け起こします。


「メディアちゃん、しっかり!」


 ぐったりとしたメディアちゃんを抱き留めて、急いで怪物の外に出ます。

 けれど、怪物の尻尾のような部分が僕たちを吹き飛ばしました。


 僕は背中をしたたかに打ち付けますが、不思議とあまり痛みを感じません。

 メディアちゃんはまだ目を覚ましそうにありません。


 いまメディアちゃんと逃げたら、みんなが危ない……。


「メディアちゃん」


 僕は、メディアちゃんの大きな瞳をじっと見据えます。


「メディアちゃんに頼ってばかりな僕だけど、僕はメディアちゃんと旅ができてとても楽しかったよ。ありがとう」


 僕たちは、メディアちゃんたちに迷惑をかけてしまったみたいだし、僕もメディアちゃんにこうしてたくさん迷惑をかけちゃったけれど、こんな僕のことを支えてくれるメディアちゃんが大好きだよ。


 だから、泣かないで。

 僕は、メディアちゃんが笑っているところが見たい。


 穏やかな笑顔で、メディアちゃんに語りかけます。


 僕はメディアちゃんにポーチをかけ、麦わら帽子を被せました。

 メディアちゃんを遮るようにして、怪物と対峙します。


 怪物はこちらへ、じわり、じわりと、近づこうとしています。


「メディアちゃん。みんなのこと、頼んだよ」


 空の消火器を拾い上げ、怪物に突進します。


 硬い感触とともに、僕と怪物はシャッターの奥へと押し込められました。

 おもむろにシャッターが下りていき、やがて、静寂が訪れます。

次回、第11話。

「こずえちゃん」

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