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魂の叫び

 俺の渾身の一撃を食らった奴は吹っ飛び、しばらくはその場から動けないほどに悶えていた。息を整えながら俺の方を鋭い目付きで睨んでくる。さっきまでふらふらになっていたにも関わらず、自分を一発殴って、今目の前に立っている俺の事を。


「貴様ぁ……何故こんな力が残っている!!なんでお前はそう平然と立ってられるんだ!!」


 わざわざ手の内なんか答える必要も無いと思ったけど、挑発の意も兼ねて少しだけ答えてやることにした。


「あーそういや言い忘れてたな。俺もいいこと教えてやるよ。でも事の詳細をべらべらと喋るのは面倒だし阿呆らしいから、一つだけにしとくわ」


 ゆっくりと奴の方に近づき、構え直してから嘲笑うようにして、こう言ってやった。


「俺、あんたの毒とかそういうの効かないんだわ。俺を倒したかったらそんな小細工なんか無しにして、真っ向勝負で来いよ」


 奴が血相を変え、右拳を振りかぶってこちらに走ってくる。そして思い切りその拳を俺に飛ばしてくる。

 でもそんな冷静さのかけたもの。まだ三ヶ月程とはいえ、天王寺さんとの鍛錬で慣れた俺の目にとっては、避けるのは容易い。

 最低限の動きで右に躱して、がら空きになった奴のボディに連続攻撃を食らわせる。


「んぐぁ!?」


 まずは左のパンチ。次に右足の蹴り。いずれも同じ位置、奴の左脇腹に。崩れて数歩下がったところに、今度は右のパンチ。残った力を込めながら、これまでの分を返してやるくらいの気迫で食らわせる。

 三発食らってよろめき、奴は尻から床に倒れ込んだ。

 俺はそこには下手に近づかず、奴を迎え撃つ形で構える。


「早く立てよ。まだ終わっちゃいねえだろ」

「この、くそ餓鬼が‼」


 俺の事を見るやつの目が、また一層怖くなっていく。



「蓮!!」

「お兄ちゃん!!」


 反撃に転じた二人を見て二人は安堵の息を吐いたした。対して北島は溜息を吐いていた。


「まぁ黒宮があれくらいでどうとなるとは思わないけどね」


 その言葉を聞いた二人は北島に急接近する。


「あんなことになって不安にならないほうがおかしいよ!」

「そうだよ!」

「もしかして気づいてないの?」

「「何が!?」」

「……」


 頭に左手を置き、やれやれといった表情の隠れない北島であった。また一つ、さっきよりも大きな溜息を吐いてから慌ただしい二人には説明した。


「あんた達。幼馴染に義妹ってことは、黒宮とは付き合い長いんでしょう?だったら能力なんなのかくらいわかってると思うのだけど」

「能力……」「……」

「「あ」」


 そうだった。彼の能力であれば、そもそも能力によって食らった毒なんて無意味に等しいと。北島に言われ、ようやくそれに気づいたようだ。二人して目をパチクリさせて見あっていた。そしてしばらくしてハッとしたのか、今度は北島の方を見た。


「で、でも! あれだけボコボコにされたら、友人として黙ってられないもん!」

「妹としても同意見!」

「やっと気づいたって感じね。まぁでも、黒宮が立ち直るまでの間にダメージ負っているのは変わらないわね。体力が持つうちに決着が着けばいいのだけど」


 北島は不安そうに黒宮の方を見る。能力で毒が治っても、治癒にはならない。これまで派手に食らった分のダメージは間違いなく蓄積されている。彼の体が限界に近いのは、彼女には遠目からでもわかる。

 我を忘れて無駄な長期戦になることを恐れている北島であったが、その心配は無いと真琴は彼女に言った。


「アイツなら大丈夫よ。たとえ怒りに溺れていようとも、さっさとケリをつけると思うわ。昔から争うことに関して言えば、勝手に関わるくせして嫌いだって言うもんだから」

「そーそー」

「……。ふっふっふっ」


 それを聞いた北島は不敵な笑み浮かべながら、右手を顔に置き高らかに笑っていた。そして向こうの蓮の方を指差して叫んだ。


「やはり謎多き男だな黒宮は。其方がそういうのならば、このリリーシェの加護も、彼には必要なさそうだな。さぁ! 早くその輩を始末してこい黒宮!!」

「なははは……」


 突然キャラの変わった彼女を見て、希愛はたじろぐ他なかった。以前のことを思い出しながら。



「調子に乗るなぁ!!!!」


 素早く立ち上がった奴は俺に向かって真っ直ぐに走ってくる。さっきと同じような形だ。怒りに任せて攻撃してくる。でもそれ故に攻撃が単調になっていること、俺が与えたダメージもあって、最初の時よりも明らかに遅くなっていた。

 しかしこちらも、もう大きく動ける体力もあまり残されていない。動きは極力少なく、冷静に奴の攻撃を見極め、右のパンチが抜けたところに蹴りを食らわせた。


「ごはぁ!!」


 それでも今度は踏ん張り、また俺に向かってくる。左のパンチを繰り出してくるが、今度は避けるまでもなく、俺の左の方に外れて行った。一歩下がってから、こちらも左のパンチを繰り出した。こっちはちゃんと、相手の右胸に命中させる。

 飛ばされまた床に転がる。奴は何とか立ち上がるも、息も切れ、だいぶふらついてきている。もう出方を伺う必要も無い。早急にケリをつける!


「ウオォォォォォォォォォォォ!!!!」


 雄叫びを上げながら一気に突進していく。そしてよろめく奴に向かって叫んだ。


「将来のこととか、難しいことなんざ、所詮ガキの俺にはわかんねぇよ!! でもなぁ。彼女のこと困らせて、その気も知らず、知ろうともしない。そんな野郎なんかには、俺は絶対に負けねぇ!!!!」


 そして俺はありったけの力を右手に込めて、持てる力の全ての一撃を、奴の左頬に叩き込んだ。

 反撃出来ぬまま俺の拳を受けた奴は血を吐き、力なく吹っ飛び、そのまま床に倒れた。





 殴った場所から奴を見ていた。動き出す気配は見られない。そっかこれで終わったのか。……いや待て。


「……っと。まだ終わっちゃいない……んだったな」


 ゆっくりと歩き、奴の元に向かう。勝負はまだ終わっていない。奴の持っている青いリストバンドを奪ってこなくてはいけない。それで初めて、この勝負に決着がつく。

 息を切らせながら、奴のリストバンドを奪い、この場所の中央にいるであろう黒服の人を探した。


「……いた」


 向こうだ。今の俺から見て、四時の方向、かな。あとはこれを持っていけば、俺の勝ち……でいい、んだよな。


 僅かに残った力を振り絞ってゆっくりとその方向へ歩いていく。視界がぼやけて見える。足が重くて、前に進みたいのに、ちっとも進んでいる感覚がしねぇ。それでも足を前に前にと動かしていく。数分かけて、ようやくそこにたどり着いた。

「なぁ。これ……」


 目の前には黒服の人がいて、俺は少し血にまみれた右手に、青いリストバンドを握って差し出していた。

 そのあとしばらくのことは、全く覚えていない。


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