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決闘の始まり

 その日はやってきた。紅葉のお父様から提示された場所にバイクで向かう。限られた期間ではあったがやれるだけのことはやった。もう迷う必要は無い。勝つことだけ考えるんだ。彼女の将来の為にも。

 今回の件に関して、進行は崎田家の方から外部の者に頼んでいるそうだ。それも当然のことだろう。決闘を挑んで来たのは向こうの芝本家だが、紅葉は崎田家の娘だ。決定権は崎田家が握っている。


 入口近くにバイクを止め、建物内に入ろうとした時、背後から声をかけられた。


「調子はどうだ」

「天王寺さん! それに皆お揃いで……」


 その場所に来ると、天王寺さん達執行班の面々がいた。


「修行に付き合った身だ。見届けようと思ってな」

「崎田は親御さんの所にいる。先程皆で挨拶をすませてきたところだ」

「そうですか……って」

「「……」」


 俺の事を無言で見てくる二人の女子がいた。まぁ誰かなんてすぐにでもわかる。



「真琴、希愛……」


 そういえば二人にはこの一連のことについて何も言ってないんだった。

 決闘前に殴られること覚悟で、唾を飲み込んでから二人の方に近づく。

「お兄ちゃん……」

「蓮……」


 まぁやっぱし怒ってるよな。内緒でこんなことになってるんだし。もう殴っても構わん。それくらいの気持ちで二人の方を向くと、真琴がため息ついてからこういう言った。


「私らに言わなかったんは何となくだけど、そうだろうと思ったわよ。昔っから心配させたくないって黙ってるけど、いい加減わかるのよ」

「わりぃ」

「そう思うなら、私らに謝る前に、奴をぶっ飛ばしてからにしなさい。紅葉の命運は今、あんたが握ってるんだから」

「なんだお前。この二人に言っていなかったのか?」

「素で忘れてました……」


 邦岡さんが一瞬腕時計の方に目を向ける。


「用意もあるだろうから、私達はこれで失礼する。くれぐれも気をつけてな」

「ありがとうございます」


 案内された控え室で待っていると、誰かが俺を訪ねて来たようだ。しかし時間にはまだ早い。


「どうぞ」


 一言それだけ俺が返答してから、ドアが開いた。


「紅葉……」

「頼みこんで、少しだけ時間貰ったんだ」

「そっか。悪いな気を遣わせてしまって」


 紅葉と崎田家の使用人の方が、会いに来てくれた。


「気をつけてね。蓮君ならきっと勝てるって、私は信じてるから」


 彼女はそう言って、俺の手を握ってくれた。とても暖かい。


「ありがとう。やることはやった。あとは奴を倒す、それだけだ」

「お嬢様。失礼ながら、そろそろお時間です」


 横に立っていた使用人の方が、紅葉に一声かける。


「わかりました。それじゃあ蓮君、頑張ってね」

「お気をつけて。我々も、貴方様を応援致します」

「ありがとうございます」


 わずかな時間であったけど、彼女の明るく、優しい顔を見ていると、勇気が貰えたような気がする。



 用意もすませて決闘の舞台に来ると、芝本秀幸は既に待ち構えていた。一度入口で立ち止まって深呼吸してから、あいつのところに歩いていった。


「逃げずに来たようだな。ひとまずは安心したよ」

「逃げ出す理由もないからな」

「おい! さっさと始めよう」


 俺を見てニヤリと笑ってから、芝本秀幸は向こうに立っている、黒服の三人の男の方を向いて言った。それを聞いて、彼らはこちらに近づいてきた。


「今回の決闘。進行は我々が執り行います。一対一、各関係者の勝負中の参入は禁止とします」

「道具、武器類の持ち込みについても一切禁止とし、勝負の開始前に両者のボディチェックを行います」


 ここまでの説明がされた後、もう一人の男が、リストバンドを二つ取り出した。それぞれ赤と青のものだ。


「そして勝敗の決め方ですが、このリストバンドを左腕につけていただき、相手のリストバンドを奪って我々の方に先に持ってきた者の勝利とし、勝負は終了となります。また、どちらが降参を宣言した際も、勝負を終了とさせていただきます」

「説明は以上となります。最後に質問があればお申し付けください」


 芝本秀幸は首を横に振って、質問がないことを伝える。俺も同様にして伝えた。


「かしこまりました。それではこれより、両者のボディチェックを行います」


 黒服の男がこちらに近づき、各々ボディチェックを受ける。貴重品類は控え室に置いてあるし、他に物騒なもんも持ってないからから問題はないだろう。


 互いに問題なくボディチェックをクリアし、黒服の人が元の場所に戻ったことを確認して、距離をとって奴の方を向く。黒服の人達も、それを確認する。


「それでは……決闘を開始します!」


 その掛け声と共に、二人同時に前に走り出した。





 最初に仕掛けてきたのは向こうから。と言っても俺は前と同様、様子見からだ。相手の攻撃を交わしつつ隙をうかがう。天王寺さん程とまではいかなくとも、洗練されていて隙はほとんどない。

 正拳突き、足技、手刀。それらを組み合わせながら、こちらに反撃させまいと攻め立ててくる。動きは速いが、天王寺さん程ではない。なら避けるだけならもう容易い。

 右足の蹴りが抜けた隙をつき、こちらは右拳のパンチで反撃する。奴の右胸を捉えることができた。


「ぐあぁ!?」


 一撃を受けたことによって奴が怯み、隙ができた。すぐさま振り返って拳による連続攻撃を叩き込む。

 奴は仰け反り、数歩後ろに下がる。それを見て俺は深追いせずに、一度体勢を立て直す。相手が距離を置いたら追撃せず、自身も立て直してから向かえと、天王寺さんに教えられたが故のことだ。

 呼吸も整えてから、今度はこちらから先手をとって仕掛けていく。しかし今度は拳が交わることはなく、奴は俺の攻撃を左に躱すと、そのまますれ違う形になった。


 すれ違いざまに奴の左腕の攻撃が俺の身体をかすめた。そんな感じがした。それでも大したダメージではない。反転して、攻撃に転じようとした、その時だった。


「がはぁ?!」


 突然、今まで感じたことの無い苦しみが襲ってきた。ドクンと、激しく心臓を打つような音が聞こえたようにも感じた。そしてその時咄嗟に口を抑えていた左手を離してみると、そこには血が付いていた。


「(なんだこれ? どういう……)」


 考える前に、俺の意識がぼやけていった。



「優勢かと思ったら……一体どうしたの!?」

「様子がおかしい?」


 離れた場所からガラス越しに見ていた、突然の蓮の変わりように驚く二人。一方で同じ場にいた北島はその理由を考えていた。


「(朝会った時の黒宮の状態は特に問題は無さそうだった。持ち込みは一切禁止。攻撃を受けたのはあぁなる直前の左拳の一撃のみ。それもあの当たりようだとダメージにはならないはず。だとしたら……いや、まさか!?)」


「まさかあの男!」



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