ココロのマヨイ
週明けの月曜の放課後。俺は学院の地下に出向き、天王寺さんとの鍛錬に明け暮れていた。これも週末に向けてのことだ。
「少し反応が遅いんじゃないのか?」
「そう、ですかね?!」
攻撃を避けていても、しばらくするとタイミングが合わなくなってきて処理が間に合わず、当たりそうになってしまう。
それをカバーしようと、大きく動いた時の勢いを利用して反撃に転じる。そうしたら、突然天王寺さんが一瞬で後退する。
「おい天王寺。能力使ったら特訓の意味が無いだろう」
「すまん。咄嗟に身体が動いてしまった」
今は能力の使用を制限して貰っている。
理由としては純粋な実力を上げるため。無効化という能力は、能力者を相手にするならば、条件があるとはいえ自分の土俵に持ち込むことが出来る。しかし逆をいえば、相手が能力者でない場合は、自分も非能力者同然ということだ。
尚且つ無効にしたあとは純粋な力比べとなる。当然使用者である俺の素の実力が無ければ、まともに戦うことは出来ない。能力に頼りすぎること事無く勝負できるかが、俺にとって鍵となってくる。
お相手さんが能力者かどうかなんて知るわけがない。自分の能力が能力なので、非能力者前提であることを踏まえて戦う必要がある。
「それにしても黒宮」
「なんですか?」
タオルで汗を拭いていると、天王寺さんにこう指摘された。
「どうにも動きに迷いがあるように思ってな。反応もいつもより遅く感じた」
「そ、そうですか?」
「迷いは人を鈍らせる。未練でもあるならすぐに断ち切っておけ」
「あ、はい……」
それだけ言って、天王寺さんは先にその場を後にした。
鍛錬も終わって下校しようと思った時、向こうの物陰の方でなにかしているのが見えた。
「何やってんだ?」
大柄な男子生徒二人と、その反対にいるのは小柄な男子生徒と、その近くには女子生徒がいた。
二人の男子生徒に対し、女子生徒の前に立ち塞がる形で男子生徒は立っていた。もしかして喧嘩でもしてるのか?トラブルでも起きて対立しているのか?だったら執行班として止めに行かねばならない。
向きを変えて俺は、その方向に走っていった。
「いいからそこをどけよ」
「そーそー。嬢ちゃんもこんな状況なよなよしたやつより、俺らといた方がいいんだっての」
「和泉君!」
ボロボロになった小柄な男子生徒が、後ろにいる女子生徒を守るようにして立っていた。しかし身体は震えていて、立っているのもやっとというような状態であった。
「全く弱いくせしてしつこいんだよお前は! これ以上痛い目見たくなくなかったら大人しくそこをどけ!」
それはもう、リンチと言ってもいいものだった。
「おい。何やってんだあんたら。」
向こうの方から来た男子生徒がそこに向かって声をかけると、大柄な男子生徒二人がその方を向いた。
「あ゛あ゛!? なんだてめぇはよぉ!? ってやべえ!?」
一人が、その男子生徒の正体に気づき、震えた声を出す。
「ヤバいって!? あいつって確か執行班の!」
「マジかよ! おい、さっさと逃げるぞ!」
「……」
その人が執行班の生徒だと分かると、二人組は態度を急変させて、逃げていった。
「逃げてったし。まぁいいか。争うのは嫌だし」
その男子生徒は座り込んでいた二人の元に駆け寄る。
「大丈夫か? って訳じゃ無さそうだな。血が出てるじゃないか」
「だ、大丈夫ですこれくら……あいだ!?」
痛みで叫ぶ男子生徒を見て、駆けつけた執行班の生徒はため息をついた。
「たく無理するなよ。保健室はもう閉まってるかな。ついて来い。応接室に救急箱あるから、簡単な手当くらいはしてやる」
「そんな、大丈夫で……あでだだだ!?」
「もう! 威張ってないで手当してもらってきて!」
「彼女もそう言ってんだ。肩貸してやるから、黙って一緒に来い」
怪我をした男子生徒を補助しながら、一同は救急箱のあるという応接室に向かった。
「ほれ。終わったぞー」
ひとまず救急箱にあったもので手当をすませた。
「あ、ありがとうございます」
「ありがとうございます。和泉君が私の事守ってくれたんです」
「そうか。立派なことだが、怪我して彼女を困らせるんじゃないぞ。そういやあんたは怪我してないか?」
「私は大丈夫です。でも……」
「そうあまり心配するな。幸い大きな怪我はないみたいだし、手当はすませたから大丈夫だ」
救急箱を片付けて、彼らの方に戻って言った。
「さてと。もうすんだし、ここも閉めるから、暗くなる前に早く帰りなよ」
「あ、あの。黒宮蓮さん、ですよね?」
「そうだが……どうした。まだ手当が必要なとこあったか?」
「いえ、違います。黒宮先輩に聞きたいことがありまして」
「聞きたいこと?」
「えっと……自分、一年四組の和泉凌也って言います!黒宮先輩!あなたのように強くなるにはどうしたらいいんですか!」
いや、えっと……。
「どうって言われても……」
はっきりいって教えられることなんて精神論でしかない。俺のスタイルなんて喧嘩殺法みたいなもんだし、天王寺さんから手ほどき受けていると言ったって、まだ他人に教えられるものでもない。なんだけど、そんなに真剣な眼差しで見られると、俺としても何も言わない訳にもいかなくなってくる。強いて言うなら、そうだな……。
「最初には言っておくが、はっきり言って、他人にどうこう教えられるようなもんでもない。ひとつ言うなら、お前は別に弱くなんかない」
「そんな。僕なんて弱っちいですよ……」
「まぁお前が言うように、取っ組み合いじゃ弱いのかもしれんが別の意味で言うなら、さっきの二人組の方がよっぽど弱い」
「なんでですか!? 僕はあの人たちに何も出来なくて……」
「実力って意味じゃない。あいつらお前には威張ってたくせして、執行班の俺が来るやいなや、殴り掛かるどころか何もせずに逃げていった。そんなやつの方が俺にとっては弱く見えるんだよ。そういう意味じゃ、面と向かって言ったあんたは、決して弱くなんかない」
言えること自体たいしたものでもないし、そういうこと言っていい立場なのかはわからない。
「とにかくこれだけ言っておく。そう思う自分に嘘をつくな。それだけだ」
「あ、ありがとうございます! 自分、頑張ってみます!」
「なら早く帰りな。もう閉めるから」
「は、はい! 失礼します!」
和泉凌也は俺に一礼すると、一目散に帰っていった。一緒にいた女子生徒も彼と同様に俺に一礼すると、先に行った彼を追いかけていった。
「……」
軽く手を振って見送ったけど、その後に湧き上がったものは虚無感だけであった。
「(何カッコつけてんだよ俺は! 俺だって、人のこと言えないだろうが!)」
そうだ。俺は今迷っているんだ。押しつぶされているんだ。責任と不安と恐怖と、そして自分自身に。
今の俺は誰にも胸を張れないし、誇れるものもない。強くなんかない。ましてや俺は卑屈なやつだ。目の前のことから、一瞬でも目をそらしてしまいたいと思ってしまうような奴だ。
なんであんなことを言ってしまったんだ。責任も取れねぇし、あいつに打ち勝てる勇気もない。
なんでこんなにココロが苦しくなってくるんだ。自分が情けないからか? 自信が持てないからか? それとも……




