我らは親衛隊
今回の騒ぎは大きなものであり、放課後になってもその話題で持ち切りとなるほどであった。俺は極力教室にこもり、人目を避けるようにした。なんだかんだ落ち着かないのだ。
今日はすぐに帰りたいところだが、執行班の見回りの仕事があるため、そういう訳にも行かない。でも戻ってくる頃には流石に落ち着いているだろう。そう考えれば、それもかえってありだろう。
「おはようございまーす」
活動拠点である応接室に入ると、そこには悠と北島さんと邦岡さん。この部屋の中でもその話題で話しているようであった。
「やぁ。また榊さんが派手にやらかしたみたいで」
「あぁ。おかげで色々と大変だったわ。捕まえて事情聞くは釘を刺しておくわで」
「僕は応援してるからね。友人として」
「ありがとよ」
悠に励ましてもらえた。それだけでも十分嬉しい。
「女神等を祝福せんとする光の導を、このリリーシェ様が示してしんぜよう。さぁ!今こそエデンが開かれる時ぞ!」
「あ。お、おう……」
言ってることよくわからんけど、北島さんも自分なりに今回のこと祝ってくれてんのかな。そう捉えておこう。
「来たところ早速だが、直ぐに出るぞ」
「分かりました」
今日の見回りは邦岡さんとだ。リュックを置いて、用意を始めた。
用意も終えて外に出た時、何やら騒がしくなっていた。しかも周りの視線は俺ではなく、校門に立つ男子生徒の集団に向けられていた。そしてその方向から、俺を呼ぶ声が聞こえた。
「止まれ! 黒宮蓮!」
五人組の男子生徒が待ち構えていた。真ん中に立っているリーダーと思われる男子が一歩前に出て、俺にこう宣言した。
「我々は崎田紅葉親衛隊!黒宮蓮。単刀直入に言う。今日はお前を試しに来た!」
「……」
「どうした。驚きのあまり声も出んか」
まぁ、その線は間違ってはいない。いきなりこんなことされればな。一言言わせろ。なんなんだよあんたらは。
紅葉からもそんなもんがあるとは聞いたことない。まぁ本人が俺にそんなこと言うことも、まずないだろう。
アイツらがこれからどうしようとしたいのかは知らんが、こっちは今それどころではない。大事な職務がある。
「あのー。今は時間ないんでまた後にして貰えますか。こっちは執行班の大事な仕事があるんで」
俺がそう言ったが、何を思ったか聞いてないフリしていやがる。お前ら後で責任取れんのか。そう思っていると、邦岡さんが前に出て、五人組にこう言った。
「黒宮のご友人かどうかは知らないが、これから執行班の見回りに向かうところだ。緊急の要件でないのならお引き取り願おうか」
「ぐっ」
流石は執行班の副班長。気迫というか、存在感は俺の比にならないものだ。彼女がキリッと睨んでやると、彼らは反抗することなく、道を開けた。
「行こうか」
「はい」
俺たち二人はその空いた道を通っていく。彼らの表情をこっそりと伺ってみると、俺を憎むような顔をしていた。
「さっきは助かりました。ありがとうございます」
「礼は要らない。彼らが黒宮の言葉を聞き入れていない以上、あぁするのが当然のことと思っただけだ」
通りを歩きながら、俺はさっきのことについて、邦岡さんにお礼を言った。それからしばらく無言で歩いていたが、邦岡さんの方から話をしてきた。
「野暮だと思って聞くのを控えてはいたんだが、聞いてもいいか。今回のことお前はどう思っている」
色々な人から今回の件について聞かれたが、邦岡さんからも聞かれるとは。
「まずあれほどにまで注目されるとは思わなかった。が最初ですね。執行班入った時点でそれなりに注目されるってことは承知の上でしたけど。今回はそれ以上な気がします」
「まぁ当然のことかもしれんな。あの崎田紅葉とお付き合いするってなれば、話題になるのも当然だろう」
「昨日の昼休みにふと投げかけられた質問から始まって、紅葉がキッパリと、俺と付き合ってます。って公言したのが始まりです。ホントはまだ公にしたくはなかったんですけどね」
「崎田ならそう言ってしましそうだな」
昨日の昼休みのことを思い出しながら邦岡さんに事の発端について説明する。あの後はその話が広まっていって、その日の放課後の時点でもうそれなりの騒ぎだった。でもって今日の号外が出回って以降は、ほとんどの生徒の耳にその情報が入っていったというわけだ。
「いつかは知られてしまうものだ。時期が早くなったと思えば気は楽になるんじゃないのか?」
「そういうことにしておきます。そういえば、邦岡さんにもこういうことあるんですか?注目されることとか」
邦岡さんも俺と同じ執行班ってことは、注目されるような場面とかあるんじゃないかと思い、そんな質問をした。
そしたら邦岡さんは顔を少し赤くして、右頬を指で掻きながらこう答えた。
「また趣旨は変わってくるんだが……バレンタインの時か。後輩の女子生徒からチョコを沢山貰ってな。嬉しいことではあるが色々困ったものだったよ」
「まぁそれも、そういうことなんでしょうか」
なんかその光景が目に浮かぶ。
「注目されるって言うのは時と場合によってはそうなる側の気持ちってのは随分と変わるものなのだな」
「そうですね。悠とか北島さんとかもそういうこと考えてそうですけど」
「北島の場合はそうされたいの方だと思うがな」
「でしょうね。そんな気がしますよ」
あのキャラは相当濃いからかなり目立つと思う。
そんなことを話しながら歩いていた。特に問題もなく、その日の見回りは終わった。
見回りも終わって戻ってきたと同時。俺は呆れていた。
「まだいんのかよあいつら」
あの時の五人組がさっきと同じ場所に鎮座していたのだ。一時間ほどとはいえ、その根性だけは正直褒めてやりたいとは思った。邦岡さんの陰に隠れるようにして校門を通り過ぎようとしたが、結局気づかれてしまう。
「戻ってきたか。改めて問おう。貴様に崎田様と寄り添う資格があるかどうか」
ひとついいですか。なんで誰かと付き合うのに、ファンクラブの許可取らなきゃいけないんですか? あんたら紅葉の親でも保護者でも兄弟でもないだろ。
「邦岡さん、先戻っててください。なんとかしておくので」
「わかった。大丈夫だとは思うが、くれぐれも騒ぎは起こすなよ」
ひとまず邦岡さんには先に行ってもらう。あいつら無視して行ってしまってもいいんだが、どうせまたこれから付きまとわれることを考えると、ここで何とかした方がいいという結論に至った。
「それで、何がしたいんだあんたらは。それ以前にまず何者だ。それから聞かせろ」
「ふっ……いいだろう。よく聞け。先程も名乗った通り、我々は崎田紅葉親衛隊。彼女に忠誠を誓い、慕い、時にお守りするべく結成された。俺は親衛隊隊長、二年五組の長谷川大地だ」
「そう。それで何の用だ」
もう聞くのも疲れた。さっさと帰りたい。にしてもどっかで聞いたような名前な気がする。
「あの時に言っただろう。シラをきるのも大概にしておきな」
さっきのアンタらには言われたくない。
「いいか。明日の放課後、お前に決闘を申し込む。場所は学院近くの坂を降りた先の河川敷だ。これは決定事項だ。いいか、必ず来いよ」
言うだけ言ってあいつらは帰って行った。それを俺は棒立ちで見ていた。
明日は見回りもないし、緊急の案件でも入ってこない限りは行かなきゃならないってのかよ。下手な言い訳も出来ねぇじゃねぇか。
勝手に話を進めやがって。こうなっちゃこっちも黙ってはいない。実力でなんとかしてやろうじゃないか。そう思いながら振り返り、応接室に戻った。
「俺は諦めんぞ! 今回ダメだったとしてもまだ次がある!」
「おぉ! その意気だ!」
「よし、誰をあたればいいだろうか?」
「(いや、そこからかよ)」
前回の話でちょっとだけ出てたモブ。
尚、長谷川もけっこう前の話でちょろっとだけ出ていた気もする。




