学院は祭り騒ぎ
視線が集まってきた後は、当然のごとくクラスメイトが集まってくる。教室にいた全員とまではいかないが、八割……いや九割超は集まってきた。結局それってほぼ全員じゃないか。
「おいおい! それって本当なのか?!」
「ねぇどうなの? 黒宮君と付き合ってるの?」
「マジな話なのかおい!?」
「え、あ、ちょ……。一回落ち着いてくれ。一旦離れ……」
説明しようにもあれやこれや、どうだこうだと次々に聞いてくる。
車で移動しようとする有名人を捕まえてインタビューしようとする報道陣、パパラッチのようなもんだから、どうこれを静めていいものかとわからず、頭の中がぐるぐるとしてしまう。
これじゃあ落ち着いて飯も食えない。こうなってはそれどころでもないだろう。
「はいはい。説明するから、皆一回離れてー」
崎田がそういって、やっと団子状に集まっていたクラスメイトが静かになった。
「さっきここに座ってる皆に言った通り。先週ここにいる黒宮蓮に告白して、今現在付き合っておりまーす」
そして堂々の宣言であった。そして左隣に座っていた彼女が俺の左腕に抱き着いてくる。
「……そういうことです」
俺はただこう一言だけ言った。いつかは知られることにはなると思っていたが。まさかここまで早いとはな。
皆少し黙っていた。というよりは、沈黙していたと言い直したほうがいいだろう。何言われると思って身構えていたんだが、大いに取り乱す者はおらず。むしろ――
「あぁーでも。黒宮君だったら納得……できるかもしれない。おんなじ執行班だし」
「そうだねー。他の男子だとあれかもしれないけどさー。執行班の黒宮君だったらいいかもなーって思うし」
「おい誰だそんなこと言ったやつ。俺じゃ釣り合いがとれないだとぉ!」
「いや。少なくともお前はだめだと思うし」
「そういうお前だって大して変わらんだろ!」
「まぁ確かにそうかもなー。山水にいる友人から聞いた話だけど、この前の事件でお前すごい活躍したんだってー」
「俺も聞いたぜそれ。ニュースにもなってたえらい事件だったんだろ! 女が次々と行方をくらませたってやつ!」
「あの時の校内新聞の時から、関係性についてすごい話題になったしなー。あの時は執行班への加入ってことで片付けられたけど、今回はもう決まりだなーおい」
「球技大会の時だって崎田さん、黒宮君のこと他の男子よりも気合入れて応援してたしさー」
「あの時は放送席で恥ずかしそうにしてたけどさー。今となってはなにー? もうそんなこと気にせず、ラブラブだったりするのー?」
「そういえばこの前とか一緒に帰っているところとか俺よく目撃したよ」
「あぁ。俺も見た見た。お似合いって感じでさー」
「なんか色々話してるのは私も見たよー」
以外にも悪い反応ではなかった。それどころか納得する声がほとんど。時折どうでもいい、関係ない愚痴とか戯言とかが聞こえてくるけど、気にしないでおこう。
「おーい黒宮。崎田さん泣かせるんじゃあねぇぞおい。幸せにしてやれよー」
「崎田さん! 何か問題があればいつでも俺に言ってくれ! 空手二段の俺が成敗してやるからよ!」
「もーやめなよー。黒宮君はそんな乱暴な人じゃないよー」
「そーだよー。口じゃあれこれ言うけど、彼結構優しいとこあるしさー」
「そういうことだ。幸せにしてやれよ。蓮」
「あ、あぁ……」
集まった野次の言葉をまとめるようにして、将星が俺の肩を叩いた。
その日の二年一組の教室の昼休みは、お祭り騒ぎであった。
その翌日。登校してきた時点から学院が既に騒がしかった。普段から早めに登校してくるが、今日はいつもよりも五分くらい早く学院についたんだが、もう校門入ってすぐから生徒たちがざわざわとしている。
「号外だよー。号外だよー!」
「ご、号外でーす……」
「元気ないよーもっと大きな声で―。号外でーす。ほらいっしょにー」
「は、はいー……」
二人の女子生徒が号外を配っていた。一人は元気よく、もう一人はもじもじとしながら。近くを通りかかった生徒はそれを手に取り記事に目を通しているようだ。
赤い腕章が左腕につけられているので、というよりもあんなことしてる時点で百パーセント新聞部の生徒か。
「なぁ真琴。あれ何書いてあるのか大体想像がつくんだが」
「そうね」
「またなんかしたのお兄ちゃん」
「少なくとも風紀委員とか先生が動くようなことはしちゃいない」
そう言いながら彼女らのほうに歩く。その前を通らなければ、学院内には入れないのだ。当然彼女らに気づかれ、こちらに近づいてきた。
「おやおや。噂をすれば黒宮さん。おはようございますー」
「お、おはようございます」
「何……やっているんだ?」
なんとなくわかってはいるが、俺と同じ緑色のネクタイをつけた女子生徒に聞いてみる。
「何って、榊先輩が号外を作成したので。昨日は何かとおめでたい日であったというので」
「あ、あの。私は止めたんですが……その……」
榊千尋。その名前を聞いただけでもう込み上げてくるものがあった。
「……一枚もらおうか」
「ど、どうぞ……」
今度はおどおどしていた女子生徒が前に出て、号外を一枚渡してくれた。
「「「……」」」
三人でその校内新聞を読む。まぁ……。書いてあったことは想像の通りであった。
”学院大注目の二人。遂に熱愛発覚か?!”
そんな見出しから始まっていた。そしてその下には俺と紅葉が二人で歩いている写真が写っている。後は文面がずらりと。まぁ背中からの写真みたいだし、これくらいは撮られても仕方ないとは思う。
がしかしだ。勝手にこんな記事を作られてはこっちとしても黙ってはいられん。契約破棄というところか。
「なぁ真琴。榊千尋のクラスわかるか?」
「えっと……たしか七組だったかしら」
「そうか。ちょっとリュック預かっててくれ」
「「え?」」
指の骨をポキポキ鳴らしてから、俺のリュックを真琴に預けた後。
「さぁーかぁーきぃーちぃーひぃーろぉー‼‼ 己なにをしてくれてんだぁぁぁぁぁぁぁ‼‼」
二年七組の教室に向かって全力で走っていった。
「ほっときましょう。しばらくすりゃ頭も冷えるだろうし」
「そうだね。どうせ私が能力で捕まえようとしても無理だし」
同年代の女子では男子の体力に勝てないことは、明確なことだということは二人共理解している。それに相手の能力が能力だ。いくら希愛が引き留めようとしても兄相手には効かないことは承知している。
「待てやぁコノヤロー!」
「いやいや。今回は崎田さんに協力仰いでですねー……」
「俺は知らねぇ―んだよー! ここまで大事にされて黙ってるわきゃないだろうがぁぁぁぁ!!」
「頼むからご勘弁をー!」
「なんか前に見たことのある光景が……」
「黒宮の奴があぁなってるってことは、やっぱ事実ってことか……。はぁ……俺の華やかな夢が……」
「そこまで悲しむんじゃねぇよ。きっとこれからいい出会いがあるって」
「それにしても、とうとうあの崎田さんにも恋人かぁ……」
「ねぇー。まぁ崎田さんだって私らのように恋焦がれるものよねぇー」
黒宮蓮と榊千尋の追いかけっこを、廊下にいた生徒はあっけにとられた眼で見ていた。
「夏鈴ちゃん。それにしてもこんなに騒ぎになるものなの?」
「そりゃもちろん! 崎田さんはそれだけ注目されている人なんだよ!」
「そ、そうなの……(これから大変だろーなーお兄ちゃん)」
兄の苦労を悟る妹。




