早すぎませんか?
連続失踪事件を解決させ、紅葉に告白されてからもう三週間は経とうとしているだろうか。俺としてもまだ慣れないことも多いが、幼馴染の真琴や妹の希愛とはまた違った付き合いってものがある。それはそれで楽しいものだ。紅葉も俺が初めて会った時に比べてみると、なんだかより明るくなったようにも見える。
ただ彼女がそうであるように、俺自身も今は学院内でかなり注目されている存在なのだ。当然付き合っているなんて知られたものなら学院中大騒ぎであろう。いや、それは事実であった。
注目の的になるっていうのは、ホントはあまり俺にとってはいいものではない。できることならひっそりとしていたいのだ。まぁでも、自分でやると言って執行班に入った時点でそら注目されるのは仕方のないことか。
この三週間の間だけで、執行班の任務をいくつかこなすこともあったし、この前なんて何を思えば、女になってるわで。まぁ、色々大変だったわけよ。
最初の一週間時点ではさすがにそんな大きな変化はなかった。ちらほら噂は流れていたようだが。まぁ話が大きくなったのはそれからだったな。
「おはよー! 蓮くーん」
「あぁ。おはよう。朝から元気だな」
「へっへっへー。今日の私は絶好調なのだー!」
「そっか」
朝一緒に来た真琴と三人で朝礼が始まるまでの間、俺は開いていた教科書とノートを閉じて、一昨日のことについて話していた。
予鈴のチャイムが鳴ったところで、紅葉と真琴は自分の席に戻っていった。
見送っていったところで、席替えで右斜め前の席となった明弘に迫られる。
「おい黒宮」
「な、なんだ?」
ずっと英単語帳読んでいたのは、時折目線をよそにそらしていた時に見えていた。俺が二人と話をしてるの聞いて、紅葉と真琴が離れていくタイミングを計っていたなこいつ。
「お前なぁ。柏葉は幼馴染ってのは聞いてたからわかるけどさぁ。お前崎田さんとすげぇ仲良くなってないか?」
「そ、そうか? これまでとそんな変わってないと思うけど」
「何を言うよお前。だったら今まで黒宮と苗字で呼ばれていたものが、蓮と名前に変わる理由がないだろう」
「あぁー。そう、かもなぁ……。なんだかんだ執行班で一緒にいるうちに親密になってたのかもなー」
「お前もしかして……」
「はいはーい、席ついてー。出席とりまーす」
教室に名簿を持った石浦先生が入ってきた。それによって会話が遮られることとなった。助かったぜ。
四限の数Ⅱも終わって昼休みの時間に。教室の中で、友達同士で集まって近くの机を動かし寄せて、そこに弁当なり、購買で買ってきたパンを置いて昼食を楽しむ。いつも見る光景だ。
俺もいつものように、四人で昼食をとろうと将星と正樹を呼んで机を動かしていた時だった。
「蓮くーん。お昼一緒に食べよー」
紅葉が俺たちのグループのほうへとやってきた。
「悪いわねぇ。紅葉がどうしてもっていうもんで聞かないからさぁ」
「まぁ、俺は気にしないが……」
机合わせている三人をよそに、真琴と話している俺のことを、あいつらすごい形相で見ているのが、振り向かなくとも伝わってくる。なんというか、視線という名の圧が半端ないのだ。
「なぁ真琴。将星らも一緒にいいか。なんか俺一人だけそっち行くのもあれだしさ」
後ろのほうを左手の親指で差す。
「ぜぇんぜんオッケー! 人数居るほうが楽しいしさー。こっちの机もくっつけようかー」
そう元気よく答えてくれたのは紅葉であった。
「あざまっす! 崎田さん!」
「いやー、やっぱ持つべきは心強い友達だよなぁ蓮!!」
「お、おう。そうか。嬉しいなら何よりだ」
正樹と将星に景気よく肩を叩かれ、撫でられ、軽くどつかれる。あんま嬉しくない。
その日の昼間はいつにもまして賑やかな昼食となった。紅葉らの友人二人も加えて計八人で机を囲むことになった。
「崎田さん。執行班いるときの蓮ってどんな感じなんすか」
もうここにきて二カ月は過ぎたが、俺が知る限り将星らがこうして崎田さんと話しているのを見るのは初めてな気がする。
去年は皆崎田さんとは違うクラスだったというので、こうして話せるだけでもあいつらにとっては一大イベントのようなもんなんだろう。実際すごいテンション上がっているし。
「そうだねー。一言でいえばすごい頼りになるって感じかなー」
「あぁ。俺らも色々助けて貰ってるからな。な?」
「お前らの場合宿題見せてるぐらいだろ」
「邦岡さんも、黒宮が来てから執行班にまとまりがついてきたって。うちの班員は皆変わり者ばかりだから苦労が多いっていう話をしていたからねー」
「俺も最初は驚いたなぁ。なんかこう、もっと堅いイメージがあったからさ……」
「でもこれがまた違っててねー。去年居た先輩とかは……」
正式に入った日もそうだが、その後の普段の班員の振舞いとか見ても個性的な人多いんだなって思ったわけよ。個性的と言うよりは変わっていると言うべきなんだろうか。
まず班長である天王寺聖。格闘技の経験、知識豊富な実力者で、自分を鍛え上げることには余念がないようだが、それ以外に関して言えば色々うといようで。というよりも興味がないのだろうか。
後、たまに俺のことを捕まえては鍛錬に付き合わされる。いい迷惑だ。
袴田美音。個人的にやばい人の一人。スキンシップが激しいっていうか、思考がもう常人には想像のつかない人だ。
同人誌とかネット小説作成してるっていうそうだから、少なからず影響がありそう。
すぐに自分の世界に入っては、悠達にちょっかいだしては返り討ちに合うのはお決まりのパターンだ。
草薙悠。緊急時の単独行動をさせてはいけない人。普段は見た目の通り大人しいんだけど、何かにつけてはランチャーとかバズーカとかを撃ちたがる。
以前の任務の時、躊躇なくRPGー7撃とうとして邦岡さんに止められていた。俺も何度か止めた。
北島李梨華。前述の袴田さんと並んでやばい人。現世の大魔術師リリーシェという、まず厨二病という時点ですでにやばい。
他には何も言わない。いや、それ以外言いようがない。
他。やばいとかいうものでもないが、皆裏というか普段は見られないような一面もある。
邦岡麗奈。執行班副班長でとても頼りになる人。俺としては執行班で一番尊敬している先輩だ。全く笑わないというまではいかないが、感情の変化が少ない。
しかし猫とか可愛いものを前にした時に限っては、別人のように喜びを爆発させている。本人はひた隠しにしたいようだが、一部関係者にはもうばれている。俺もそのうちの一人だ。
崎田紅葉。実力、人気ともに高く、学院で知らぬものは居ないほどの有名人。時折突っ走りすぎてしまうのが問題。しかし前述を見ればまだまともに思える。
そして俺、黒宮蓮。何が問題かといえば、性格だ。騒動とかを嫌う身としては、そもそもなんで執行班になったのだと声を上げるものも少なくないだろう。
前にも何度かその点を将星とかに突っこまれた事もある。
まぁ何が言いたいのかといえばだ。お堅い感じという訳ではなく、案外フリーダムって感じなわけで。もちろん職務は真面目に努めてますよ。
その後は執行班絡みのこととか今日の授業の話とかで盛り上がっていたんだが、突然明弘がとんでもない話題を振ってきやがった。
「崎田さん。この際ズバリ聞きたいことがあるんすけどいいすか!」
「んー? なーにー」
「なんか、前に比べて黒宮のやつとすごい仲良くなってると思うんすよ。それでなんすけど。いったいどういうご関係にまで?」
水筒のお茶を飲んでいた俺は、慌てて水筒から口を離した。さすがに今それを聞かれるのはまずいと確信した。
「おいおい。いくらなんでもそこまで教えてはくれんだろ」
「おめぇには聞いてねぇよ」
「それでどうなんすか。もしかして、付き合ってたりするんすか?」
「いやいや。そこまで紅葉が話すわけ……」
「そうだけど」
真琴がそれは言わないだろうと説明しようとしたところを、紅葉の一言がバッサリと切り捨てる。
教室内にいた生徒の視線は、一斉に俺たちの方に向けられた。
「崎田さんと黒宮先輩。うまくやってますかね」
「さぁ?でもお兄ちゃん、私や真琴姉以外の女の子とあまり話すことなかったしなー」
「でも執行班だったら邦岡さんとか袴田さんとか。同学年だったら北島さんもいますし」
「仕事とプライベートとじゃ全然違うと思うけどなー」
知ってる(覗いてた)人たち。




