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記憶の奥底

 かかってきた着信には驚いたが、それでも気を取り直して俺はその電話に応じた。


「はい。黒宮です」

『お久しぶり。といっても前にこうして話をしてから二、三週間ぐらいしか経っていないか。こんな遅くに済まない』

「いえ。気にしていませんよ。それよりどうしたんですか、大桑さん?」


 電話の相手は大桑さん。見覚えの有るような番号だとは思ったが、案の定であった。


『最近の君たちのことは聞いているよ。先日もまた大忙しだったそうじゃないか。お疲れさま』

「どうも」


 別に電話をかけてきたことには他意はないんだが、こんな時間に電話をかけてきたということは、気休めではない、なにか理由があるんだろうと思った。


「一応聞きますけど、世間話の為に電話をかけてきたわけじゃないですよね?」

『……そういうところは父親譲りか。熱が入るとすぐにスイッチが入るそういうところ。正しく君の言うとおりだ。今の君の、執行班に関わることだ』


 少し間をおいてから大桑さんはこう続けた。


『一昨日君たちが見つけたというあの装置。今はうちの研究所に運び込まれていて、こちらで調査をしているところなんだ』

「管理局からそっちに運び出されていたんですか」

『何分、こういった解析作業はこちらの担当でもあるからね。それにしても調べるたびに謎が深まっていくばかりのものでね。一言でいえば、未知。というべきだろうか。我々がこれまで見たこともないような技術が盛り込まれているんだ』

「確かに、俺もあんなものは初めて見ましたね」


 形状といい触った感じといい、それだけでもそうなんだが。何よりそう思わせたのはモニターに映っていた解読不能の文字だ。それについてはお互い口にしてはいないが、おそらくその辺はわかっているだろう。


『あと君だったら、以前の失踪事件については覚えているだろう』

「あの件ですか。そんなに日も経っていないですから」

『その事件で犯人が身に着けていた腕輪についてもこちらで調べていたんだが、こちらもあの装置同様に。といった感じだったな』


 以前の任務でもあった失踪事件。泰牙から説明されたのが始まりでこの件に関わることになった。その犯人はこちらの執念もあって捕まえることができた。

 改めて言われてみれば、犯人が何かしらつけていたような気もする。


『一つ共通点があってね。分解して調べたところ、白い結晶……というより宝石のようなものが出てきたんだ』

「宝石、ですか」

『あぁ。こちらとしては装置自体よりも、その宝石のようなものに焦点を当てているんだ。なにか重要なものではないかと考えている』

「そうですか。というか、こういう話を研究関わってない俺が聞いてよかったんですか」

『あくまでごく一部だ。と言ってもこのことは内密に頼むよ。それじゃあ御健闘を』




「白い。宝石か……」


 電話を切った後、俺は机に向かい、ラックに掛けられているペンダントを手に取った。それもまた白い宝石がつけられている。


「いや、ないか。って言えないんだよな……」


 以前いじっていた時に誤って外枠が取れてしまった時に普段は見えなかった裏側を見た時のことを思い出した。それにもまたあの時見た文字があったからだ。


「なんか持ってるのだけでも怖いんだけど。でもせっかくもらったものを無下に捨てるのもあの子に申し訳ないしな……」




 思えば四年くらい前。中学一年の時だっただろうか。その日は確か中学の友人に、野球の試合観戦に行こうって誘われて東京に来ていた。試合まで時間があったのでそれまで少しの間、別行動をしようってなって、その時にだっけか。このペンダントをくれた少女に出会ったのは。



「言われるがままに別行動したけど、あんまりお金もないし、こうして持ってきたマンガ読んでるくらいしかないな……」


 その日は雲一つないよく晴れた日だった。今日のデーゲームもいい場所で、いい環境で観戦することができそうだ。


「はぁ。あんまり興味ないって言って断っちまったけど、こんなことだったらあいつについていきゃよかったな」


 近くの広場に立ち寄って、ベンチの左端に座って漫画を読みながら時間をつぶしていた。慣れない場所で下手に動いても、スマホもないんで迷って約束に遅れようもんなら試合観戦どころでもないだろう。

 そんな時であったか。座っていたベンチの人二人分くらい離れたところに、白いワンピースを着た一人の少女が座ってきた。


「……」


 特に気にすることもなかった。公共の場所なので赤の他人が同じベンチに座ってくるぐらい、当たり前のことだ。長時間座ってるわけでもないし、お年寄りが前にいるわけでもない。動く理由もないだろう。座ってきたのだけ確認してからそのまま視線を漫画のほうに戻した。


「……」


 しかし何故だろう。霊感が強いわけでもないのに、何か圧のようなものを感じる。具体的に言えば視線だろうか。恐る恐る右のほうを見てみると。


「……」


 さっき離れたところに座っていた少女がこちらに近づいてきて、俺の読んでいた漫画を凝視していた。俺が何だという前に、少女のほうが先に口を開いた。


「それ……面白い?」

「まぁ。俺はそう思うよ」

「私も読んでいい?」

「好きにしろ」


 何故か嫌だ。とはいえず、少女の申し出を了承した。少女はそのまま俺の右隣に座ったまま俺の読む漫画を横から覗くように読んでいた。こんなところに一人で何をしに来たんだろうか。俺よりも少し小さい……。小学生だろうか。だったら迷子だろうか。漫画を開いたまま俺はその少女に聞いてみた。


「ところでさ。あんた迷子か?」

「迷子?」


 何かに夢中になって、そうなったことにさえ気づいてないんだろうか。


「いや。子供がこんなところで一人でいてさ。誰かお母さんとか一緒に来てないのか」

「あなたも……私とそんなに変わらない気がする」

「俺はもう中学生だ。それに迷子なんかじゃねぇし」

「親って……わけじゃないけど。付き添いの人ならいる。さっきまで……一緒にいたのだけれど、気が付いたら私一人になってた」

「あぁそう。じゃあここで待ってようか。俺この辺詳しいわけじゃないから交番の場所とかわかんねぇし。だったら下手に動かずにここで待ってたほうがいいだろ。ここなら目立つ場所だから、あんたの付き人さんもすぐに見つけられるんじゃないのか」


 少女は黙って頷きながら俺の提案に耳を傾けていた。


「聞きたいことがある」

「なんだよ」

「私は……あなたとさっき初めて会った。友達とか……仲間とか。そういうもの……ではない。なのにあなたは……見ず知らずの私の相手してくれてる。……理由を聞きたい」


 どうしてこんなこと聞くんだろうか。俺はよくわからなかった。


「何でって。放っておけないからかな。困ってる人いたら、そうしちゃいけないって思うんだ」


 少女はにこっこりと笑ってから、一言こう言った。


「あなたって、面白い人」


 なにそれ。って言おうかと思ったが、あっけにとられて何も言えなかった。


「ねぇ。待っている間、一緒にそれ、読んでてもいい?」


 そのあとはお互い何も話すことなく、持ってきた漫画を二人で読んでいた。それでも不思議と気まずいなんてことはなかった。

 それから五分くらいたってから、少女は一瞬だけ漫画から視線を外した時だった。


「カルラ様!」


 女の子の名前を呼ぶ女性の声が聞こえてきた。それに少女は反応したのでおそらくその声の主が、少女の付き人だろうか。


「来たみたい」

「そっか。よかったな」


 読んでいた漫画を閉じて、リュックの中にしまった。その時少女は左手で、ポケットのなかを探り始めると、その中から何か取り出して、俺の右手にそれを乗せた。


「あげる。……ねぇ、また会えるかな?」

「さぁな。そもそも俺はこの辺に住んでるわけじゃ……」


 言い切る前に、少女は俺の前からいなくなっていた。


「夢……じゃないよな。」


 右手には、確かに残っている感覚がある。右手を開いてみると、白い宝石の付いたペンダントがそこにはあった。


「いいのか……。こんな立派なものもらっちゃって……」



 何故数年前の、たったの十分程の出来事を今でも覚えているのか。それに、これを触っている時は、その時のことがより一層脳裏に焼き付いてくるのだ。でも考えても結論は出ないだろう。深いことを考えるのはやめにして、ペンダントを元に戻した。

「この前のことを材料に、連載の続きを書きたいと思っているの」

「いい案ですけど、あの時のそのままはやめてくださいよ」

「そこまで引用はしないわよ。参考にってだけ」


 いいネタいただきました。

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