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忘れてしまいたいこと

「この前の休みの時さー。不思議なことがあってなー。どういうわけか俺、女になっててさー」

「マジかよ須田。ってかく言う俺も実は同じことになっていてなー」

「お前もかなぁー黒宮。お前もそうなってたり、とかってのは?」

「そんなもん……無いと言えば嘘になるが……。ともかく今は元に戻ったんだ。あまり思い返さんでくれ」


 週明けの朝。話の内容こそなかなか聞きやしないものだったが、それさえ除けばいつもと何ら変わらない朝であった。周りがそういう話をしていようと俺はあまり思い返したくはないので、さっきみたいにその話題を振られても詳細を話すことはしなかった。




 時間も経って昼休み。この日は、いつものように教室や屋上で将星や正樹ら友人同士とではなく、応接室に集まって執行班の面々で昼食を取っていた。一昨日のことについて、心身も落ち着いたところで改めて話し合うためだ。四限の終了から五分程で全員が揃い、各々の昼食を囲ってちょっとした会議が始まる。


「それにしても嫌な事件でしたね。思い返すだけでも恥ずかしくなってきますよ」

「そりゃ僕も同感。にしてもホントにうちの生徒だけが被害を受けていたなんてね。僕のクラスどころか学院中その話題で持ち切りだしさぁ」

「なんだかんだ面白いことでもあったけどねー。皆の普段見られないようなところも見られたというのもいい材料かもしれないわねー」

「何でそうもポジティブな考えになるんですか。そう思ってるの、この場じゃ袴田さんだけだと思いますよ」

「いつものことだから放っておけ草薙。まともに取り合おうとするだけ無駄だと私は嫌というほど理解している。それどころかまともに相手したら負けだと思っている」

「そうすか……」


「何にしても、解決したならそれでいいだろう。今はその件について話をまとめるために集まったんだ。昼飯食べながらで構わないから今一度、一昨日のことについてまとめておこう」




 一昨日に起こった、兼城学院の生徒が性別逆転してしまう事件。意図せぬ偶然によって集まった兼城学院の執行班と黒宮希愛の行動によって、早期に解決。


 その後は事件の原因となった怪しい装置を運び出すことに苦労した。大きさと重さもあるので、正直なところ希愛が能力使ってくれなきゃ屋上から運び出すこと自体出来なかっただろう。


 その装置については管理局に連絡して運び出してもらい、詳しい調査を依頼した。


「そういえばあの子の容体はどうなの。何日かは入院っていうような話は聞いたけど」

「昨日見舞いには行ったが、それについては心配ない。大きな異常もなく、問題がなければ明日、つまり今日には退院できると本人の口から言っていたよ」




 装置のカプセルに捕らえられていた人物は兼城学院の生徒であり、名前は石引ななみ。一年二組の女子生徒であり能力者。そしてその能力は性別の逆転。自分の意志で性別を入れ替えられる能力だ。それは自身のみではなく、他人にも使える能力だそうだ。

 今回の事件はあの少年が彼女をさらい、その能力を例の装置によって拡散していたというのが事件の全貌だ。


 事件の翌日に見舞いに行った邦岡が、彼女から少しではあるが事情を聞くことができた。といっても本当にごくわずかなことだ。事件前日の夕方、一人で家路についていたところ何者かに襲われて気を失ってしまい、気が付いた時には病院のベットにいた。ただそれだけだ。


 どうして彼女が狙われたに関してはわからない。彼女が言うことには、能力については親しい者のみが知っているとのことだ。犯人であるあの少年が彼女の能力を知ったうえでさらったとは考えにくい。適当に能力者を見繕って捕まえたんだろうという推測にまとまった。


 行方不明となったことについて判明しなかった理由は、彼女は仕事で忙しい両親とは別に、学院近くのアパートで独り暮らしをしているからだ。

 演劇部に所属しているとのことであったが事件当日のその日は部活はなく、その前日が金曜日だったことも相まって、彼女が学校に顔を出さないこと、当然帰宅してこないことを不審に思う者はいない。

 カプセルから救出した後すぐに救急車を呼び、近くの病院に搬送された。弱っていたが外傷はなく、身体検査も異常なしだったため、問題がなければすぐに退院できるとのことであった。様子を見て後日、改めて事情を詳しく聴くそうだ。




「それなら安心ですね。今度挨拶に行ったほうがいいかな。蓮君、卵焼き交換しよ」

「へいへい。じゃあこっちも同じもんを。それともう一つ考えることといえば、あの犯人についてですよね。それについては何か情報はないんですか」

「悪いがそちらについては何も情報は入っていない。突然姿を消されたもんだから足取りもつかめんのでな」

「晒とはいえ、結構頑丈に縛ったと思うんですけどね」

「縄抜けの名人?」

「もしくは虚無を司りし者?」

「少なくとも後者ではないと思う」


 あの少年については未だ情報が入ってこない。ドタバタとしていて写真も撮れなかったのが痛いところだ。解散となった後に天王寺が男性の叫び声を聞いたといっていたが、すぐにその声が消えてしまったとかで。


「この件については情報を待つことにしよう。学院内での話を聞く限り、被害を受けた者、皆元に戻ったようだしな」

「そうだな。装置の解析結果についても、しばらくは待たされることになるだろう」

「それを考えると、この件は一旦保留かしら。今まとめられる範囲で報告書はまとめておかないとね。私がまとめておくから、他の皆には事後調査をお願いするわ」

「ところで今日の見回り担当誰だったっけ? 私でないのは覚えているのだけれど」

「今日は黒宮と崎田だ。二人とも放課後よろしく頼む」

「分かりました」

「はーい」





 紅葉との見回りも終えて帰宅。夕飯と入浴を済ませ、ベットに横たわり、スマホの画面を見ていた。そこには一人の女性の写真が写っていた。


「あまり思い返したくないんだが、信じられんもんだな。自分が女になっていたなんて……」


 一昨日の自分、蕪城ゆずが写った写真だ。音田と名乗っていた袴田さんと合流する前に、紅葉に一枚撮られたものを送られてきたんだが、なんだか消そうにも消せないでいた。


「どっかでまた役に立つかもしれない。なんてこと言われたけどもう御免だからな。こんな柄にないこと……」


 その画面を変えようとしたところで電話の着信が入ってきた。


「この番号は……?」

「黒宮の奴の場合どんなんだったろうな」

「そうだな……。蓮の場合黒髪ロングとか?」

「あとおっぱいはそこそこありそうだな」

「(ほぼほぼ間違ってねぇ)」


ドンピシャ。


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