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耳を貸す気はない

 言われたとおり、屋上へと繋がる階段へと向かった。地下から故、結構きつい……という内心は表に出さないでおこう。

 やっと着いたところでようやく合流することになったが、その場所は屋上ではなく、そこに繋がるドアの前であった。


「来たか」

「えっと。この先でいいんですよね」


 ここで待っていたということは、この向こうに何かしらあったという事なのだろう。一応それらも考えて、彼がそうしたように彼女も小声で返す。


「あぁ。先に向こうの様子をうかがってきたが、いかにもって感じのものがあった」


 事前に電話でその内容を聞いていたが、あやしい物体の影があったという。少なくとも見覚えのないものだという。

 そもそも屋上にあるものといったって、学院が設置したベンチがいくつかのみだという。 


 流石に四人でうかつに向かうのをためらい、調べる前に別行動をしていた彼女らを呼んだという。


「自分が先頭で行こう」


 ゆっくりと邦岡はドアを開けて屋上に出る。手の動作による合図を受けて一人ずつドアの先に向かう。がしかしだ。


「あの……何であそこだけなんか絡まってるんですか」


 植物の蔓が、ドームを形成するように生えていた。


「北島が何かまがまがしいモノの気配を感じるっていうもんだから能力使わせたら、ある一点に蔓が絡みついたんだ。今目に見えてわかるように、五メートル程先のあたりだ」

「なるほどねー。僕の感じゃあこれ迷彩じゃなくて幻術の一種だねぇ。同じ能力使う身としては何となくだけどそんな気がしてくるよー」


 袴田さんが蔓の巻かれたほうに向けて手を伸ばすと、その正体が明らかになってきた。


「まぁ……いかにもって感じのヤツですね」

「見たことのない機械だなこれ」

「てかこうしてみるとけっこうでかくないですか。横のこのカプセルのようなもの……人一人は入れそうなくらいの大きさですよね」

「とにかくあれが原因とみてよさそうだな。早く調べようか」





「おやおやぁー。嗅ぎ付けられてしまったかー」


 調べようとしたところで、後ろのほうから声が聞こえてきた。ここにいる者の声ではない。聞き知らぬ若い男性の声だ。


「こいつを見られてしまうとはねぇ……」

「……お前のようだな。今回の元凶とやらは」


 問いに対して、少年は笑みを浮かべて答えた。


「あぁそうさ。以外にも早く嗅ぎつけられたねぇ……。こいつは我々が作り出した発明でね。ニンゲンの持つ能力をより強いものにする装置さ。それそのものの持つ威力、効果範囲、その他もろもろを普段よりも格段に高めることができるのさ。そのカプセルの中、ニンゲンが一人いるだろう。彼女には少しばかり僕の偉大な研究の礎となってもらっているのだ。実に光栄なことであろう」「……」

「しかしこれはあくまで実験だ。どうしても不具合はつきものでね。この者の持つ能力の対象がここを中心とした場所にいる者全員ではなく、どういうわけか彼女と同じ服を着た者。ここいらでは学校の制服といったところか。ここまで言えば、ここを突き止めた君らなら言わずともわかるだろうが、彼女と同じ学校に通うものだけが変化をしてしまったということだ」


「……」


「君達の様子を見れば実験は一部とはいえ確かに効果を及ぼしているということが分かったよ。これは革命への第一歩だ。これを機に更なる改良を重ね、我らがパイオニアの……ぐべふぅ!?」


 少年が長々と説明しているところだが、悠長に聞いてる道理無し。怒りのこもった全力の一発をくれてやった。




「貴様ぁぁぁぁ!! この僕が話をしているときに殴りかかってくるとはなんたる無礼だ!! 恥を知れこのぐぶぅ……」


 右手でその少年の顔をわしづかみにした。


「貴様のそんな御託には興味はない。わかったらさっさと元に戻せ。さもなくば」

「君の夢が果たされる前にぃ……この世とおさらばすることになるけど……」


 悠がその少年の首筋に、拳銃の銃口をゼロ距離で突きつけている。


「誰があんたらなんかの……あがあっ、ぁっぁっぁ?!」


 握力を込めてさらに強く握った。


「そうかぁ。そこまで命知らずだとは思わなかったよー……」

「まずいなぁー。うっかり手が滑って僕、このまま引き金引いてしまいそうで怖いなぁ……」

「そんな程度でこの僕……が……」


 奴が反論しようとしたところで少年の様子がおかしくなる。それに動揺して少し距離をとった。


「あがががががががががががが……」


 何かに恐怖しているようなそんな感じであった。そして気づけば泡吹いて倒れていた。


「うちの子たちにオイタをするようなら僕も黙ってはいないかなー」


 近くに歩いてきた袴田さんに対し、悠と二人、振り返ってサムズアップで返した。




「気持ちがわかるとはいえ、とうとうお兄ちゃんが壊れた」

「自己嫌悪するくらいだったからねぇー」

「何だあのサイコパス三人組」

「天王寺、お前意味わかってないだろう」

「余程たまっていたものがあったんでしょう。ともかく、今度こそあの装置を調べましょう」


 北島さんの発言を聞いた俺と草薙は、一目散に邦岡のもとに。


「その前に何ですけど」

「着替えてきていいですか」

「あぁ。構わんが」


 その態度の変わりように、彼はたじろいでいた。





 俺らの要望で、元男性陣三人は私服に着替え直し、気絶した少年を蓮の持っていた予備の晒で適当に縛って隅のほうに転がしといてから装置を調べていた。が、とても苦労した。というよりもほぼお手上げ状態であった。


「読めない」

「あぁ。というよりも、この文字どっかで見た覚えがないか」

「そんなものあったか?」

「以前頂いた報告書にな」


 よくわからん文字がモニターには映し出されていた。少なくとも今まで見たことの無い文字が。


「とにかくこの装置を止めるべきだな。……といってもどこをどうしたものか」

「電源だったらそれっぽいもの探せばいいんじゃないの」

「簡単に言ってくれるな北島」

「それよりさぁ、さっきのおかしな人いつの間にかいなくなってるんだけど。きつめに巻いた晒もほどかれてるし」


 向こうの方には少しボロボロになった晒だけが放置されていた。


「誰か余計なことしたか」

「するわけないでしょう。と言うよりも気絶させずにこの機械についてもっと情報吐かせた方が良かったんじゃないのか?こうして悩まずに済んだかもしれん」

「っておい紅葉! どさくさに紛れて見つけたスイッチ勝手に押すんじゃねぇっての!?」

「いやー。なんか後ろのほうに光ってるのがあったからそれかと……」


「何が起こるかわからないんだから慎重に……」


 その言葉の後、横のカプセルの蓋が開いた。そして――


「あ。電源切れた」


 装置の周りが白煙に包まれた。






 日も沈みかけ、空が藍色とオレンジに分かれだした頃。よれよれとしながら住宅街を歩く少年がいた。


「おのれニンゲン。よくもこの僕の実験の邪魔をしてくれたな……。しかし奴らごときに捕まる僕ではないぞ。僕の偉大なる計画はここから――――」

「そうか。いったい誰に捕まらなかったって?」


 自分の背後から聞こえた声に驚き後ろを振り返った時、少年は震えた。


「め、めめっめメリベール……さん?!」

「昨日から連絡しても返答がないと思ったが……。こんなところでいったい何をしていた?」


「あ、あぁ~そのー……。実験を……。それよりメリベールさんこそどうしてこんなところに」

「ルナロアに用があったというのもそうだが、以前あったことはもちろんお前も聞いているだろう。それ以降下手な騒ぎが起こらんよう、時折私がこうしてこちらを見回っていたわけだが、まさか要件がもう一つ片付くとは思わなかったよ」

「そ、それはよかったっすねー……。それはそうと……」


 目を逸らしつつ言い訳をしようとする少年であったが、彼女にそれは関係ない。


「言い訳なら向こうでいくらでも聞いてやる。見たところかなりやられたようだが、これ以上そうなりたくないなら黙って来い。そうならない保証はないがな」


 少年の悲鳴とともに、二人の姿は住宅街から消えていった。

「一応聞くが、あの銃マジもんのやつじゃないよな」

「いやいやまさか。いつも袴田さんに使ってる小型の麻酔銃」

「なら良かったか……」

「あ。でもひょっとしたら間違って違うの出してた気も……」

「やめて」


脅迫用。

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