悪乗りもほどほどに
「じゃあ行きましょうか」
会議と食事を済ませて、店を出てからすぐのことであった。
二人組の男性に話しかけられたのは。
「待たれよ……。そこを行く麗しき姫君と、その付き人たちよ」
うちの執行班にいる、現世の大魔術師だか何だかと名乗っているリリーシェ。その者の真名を北島李梨華という。
彼女を思い出させるような痛々しい感じで私たちのことを呼ばれた……様な気がする。いや、他に男二人と女一人の組み合わせが周りにいないので間違いなく私たちのことを呼んでいるのだろう。
なんとなく振り向かなくても分かることが、断言できることが一つだけある。
絶対に関わっちゃいけないヤツだあれ。
朝のナンパとはまた違うんだが、アブナイ匂いがプンプンする。
「なにごとー」
「……いい、希愛。ああいうのは相手にしちゃいけないの。碌な目に合わないってことはお姉ちゃんよく知ってるからね」
「そーいうものー?」
「そういうものだ。紅葉、そういうわけだから相手にせずにさっさと行きま……」
相手にしたくないのでさっさと行こうと思ったが――
「ふっ、付き人か……。此処にいる彼女が麗しき姫君だというのならば、俺達二人は、忠誠を誓う誇り高きナイトといったところだろうか。それとも寄り添い、付き従う執事のようなものだろうか」
「ほう……悪くないねぇ。君もなかなかいい感性を持っているじゃない」
ん? ナニイッテンノアンタハ。
「そういう君たちの方は何者だい。こんな俺たちにでさえ声をかけるとは」
「そうだねぇ……。今の自分を例えるならばホームズ。我々の姿を変貌させた、罪深きものを追い求める探偵といったところだろうか」
「そう……我々が探し求めるは、厄災をもたらすパンドラの匣。いずれかはこの現世をひっくり返しかねない恐ろしきものよ……」
「成程。俺たちに世界を救う手伝いをして欲しいということか」
「そういうことさ」
あもうこれだめなやつだ。
「……どうするの。紅葉先輩悪乗りしちゃってるけど」
「もう立ち去るタイミングを完全に失っちまったじゃねぇか……」
なんてこった。紅葉が変な返しをしてしまったせいで、逃げるという選択肢が失われてしまったぞ。どうにもならないような状況に陥ったぞおい。
ともかくとして。まずやることはこの場を収めることだ。振り返ってかつかつと、二人組の方に近づく。
「あの、勝手に話を進めないで。ひとまず真面目に要件をお伺いしましょうか、お兄さん方。場合によってはそれ相応の対応をとります」
スマホを左手に持ち、もう片方の手をエメラルドグリーンの髪をした男の右肩に乗せる。
「仕方ないねぇ。場所を変えて話をさせてくれ」
「……いいでしょう。話だけは聞くことにします」
なぁ神様。どうしても今一つだけ聞きたいことがあるんだ。
なんでこういうときに限って変なことにばかり巻きまれるんでしょうか。教えてください。
「それで、なんの用で?」
蓮たち五人は近くの広い場所まで移動し、その場所にあったベンチに足を組んで座りながら向こうの説明を聞くことに。
最悪向こうがホントに、というか見かけ通りにやばいやつだったとしたらその時は即座に通報するつもりだし、もしもの時は紅葉と希愛を頼らせてもらおうか。
「そうだねぇ……。なら単刀直入にこちらの要望から。一緒に調査をしないか」
「お断りします。ついさっき初めて話したような人と関わってる時間はないの。行きましょう」
さっさと行こうと立ち上がろうとした私を、彼は何とか止める。
「まぁまぁ。話だけでも聞くって言ってくれたじゃない。取り合えずこちらの言い分も聞いてはくれないか」
「……そうね。聞くだけ聞きましょう」
「いいの? 時間ないって言ったのに」
「ついさっきのこととはいえ思い出してしまったの。話だけでも聞く。そう私は確かに言ってしまった」
「それで?」
「このまま行ってしまえばその宣言を放棄してしまうことになる。最近、経験で知った事があるの。時にはやむなく受け入れる諦めも大事だって知ったの」
「へー」
自分の持論と本音を、希愛は興味なさそうに聞き流す。
「お喋りしてしまってすみません。それで、あなたたちの言う調査っていうのは何かしら」
「実をいえば、あの場所での君たちの話を少しばかりか聞かせてもらった」
「人聞きの悪い」
「その点については申し訳ない。……最初に言った。我々の姿を変貌させた、罪深きものを追い求める探偵である。つまりは我々も君たちと同じ被害者であり、同じ目的を持った同士ということだ」
「あんたたちも……ですか」
私の座るベンチの近くで、腕を組んで立っている赤い髪の男。男体化した紅葉も耳を貸す。
「そういうことだ。最初は私一人で調査をしていたのだが、途中で彼と会ってね。しかもこれが知り合いときたものだから、それ以降は二人で調査をしていたところだ。ちなみに彼とは別にもう1人、友人とも調査をしている。そちらは今は別行動中だがね」
「これもまた天の導き……」
「そして先程いた飲食店で偶然にも君たちを見つけたというわけ。そして君たちの話が少しばかり聞こえてきたのさ」
その後は彼らのこれまでの行動と、分かっていることについて簡単な説明を聞いた。
その内容のほとんどは私達の知るものとほぼ同じであったが、どうやらこの辺りに犯人がいるのではと、向こうは睨んでいるそうだ。
「……そうですか。大体の事情は分かりました。不本意な形ですが、今は同じ被害を受けたもの同士手を結びましょう」
「ありがたいお言葉だ」
「了解した。俺も協力させてもらう。あぁ、名乗り遅れた。さ……」
紅葉が名乗ろうと名前の頭を言いかけたところで慌てて彼の口を塞いだ。
「す、すみません。ちょっと失礼しますー。ほほほほ……」
そのまま彼を連れて距離をとった。
「気が抜けすぎだ。今本名を名乗ってもいろんな意味で変だってさっき話したばかりだろ」
彼らから少し離れて、二人にしか聞こえない程度の大きさの声で話す。少々素が出てしまったが。
「ごめーん」
紅葉のほうからも素が戻ったような感じで返事が帰ってきた。
「そうか。思っていることは何となくわかる。違和感がするというのだろう。それについてはこちらも同じことだ。現に知り合い同士といえど、僕達は今仮名で呼びあっている。今は仮染の名で構わない。もしこの件が解決した時は、その時にでも真名を名乗ればいいだろう」
どうやら向こうも内心は同じなようだ。そしてその考えには感心した。
こちらはずっと元の名前で呼んでいた。呼ぶ時は周りに変に思われぬように極力小声で、そして下手に大声出さなくていいようにあまり離れないようにしていた。しかし仮名ならそれを気にする必要はない。
「僕は音田浩だ」
「リゼル・ホーキンスと呼びたまえ」
「蕪城ゆず。こっちは弟の透」
「よろしく」
「不知火蓮だ」
こちらも仮名で名乗る。名前は朝、適当に考えておいた候補のひとつ。名字の蕪城は、母さんの旧姓から持ってきた。
紅葉もその場で考えたであろう仮名で名乗る。
「では行こうか。やることは決まっている」
二人組の後ろを歩く私達三人。架谷ゆずと名乗った私は静かに彼に、不知火蓮と名乗った崎田紅葉に近づき、他の人に聞こえないよう耳元で囁くようにして、ある質問をした。
「なんで俺の真名を名乗った。なんか落ち着かないんだが?」
少しばかりか考え込んでから、彼はこう答えた。
「真っ先に蓮君のことが浮かんだから」
「……」
顔を右手で隠し、恥じらう他なかった。
「姉さーん。あのとき逃げるってこともで来たんじゃないのー。僕だったらそうするけどなー」
「……紅葉をほっぽいて逃げられるわけないだろ」
「おぉー。勇ましいねー姉さん」
心持は男の意地。




