もう、どうにでもなってくれ
「え? この人が……紅葉先輩?」
「あぁ……」
「てかよく紅葉先輩ってわかったもんだね……。こんな見た目でいつもとはイメージ全然違うんだもん。共通点なんて赤い髪ってことしかないわけだし」
「それに関しては……いろいろあってな……」
ここまでの経緯を話してもいいものかと蓮は悩んでいた。相手が知っている人、妹とはいえ正直なところ話したくないというのが本意だ。
「……誰かいるの?」
横でずっと体育座りの体制で縮こまっていたその人は、ドタバタしていた二人を横にずっと無言であったが、自分のことが話題に上がったことに気が付いたのかようやく口を開いたようであった。
「あ……。大丈夫だ落ち着いてくれ。確かに誰かしらいるのは事実だが、お互いに知ってる人だ。妹の希愛だ。姿は変わってるから今は弟って感じだがな……」
「……希愛ちゃん?」
今着た人物が希愛であるということを説明されると、今度は立ち上がってその人のもとに近づいていく。
「……ホントだ。やっぱり変わってるけど、何となく希愛ちゃんだなーって感じがする」
頬のあたりを撫でるように触って確認している。
「お……私の時はわからなかったの?」
「それはさすがに……。すごい外見変わってるし、あんな振舞いされるとねぇー」
「それはこっちだって言いたいこと。そっくりそのままな」
「……返す言葉もありません」
「というよりも横目でちらっと見ていたけど……。そういえば希愛ちゃんの能力って念力だったっけ」
「おい待て。わかってたんだったら止めてくれたって良かったろ。もう少しでスクラップにされるかもしれなかったんだぞ」
二人で話しているところに、希愛が介入。
「それで話を戻すけど、どういう偶然で出会ってこの事態に気づいたわけ」
「「……やっぱり言わないとダメ?」」
打ち合わせでもしたように、息のあった返しが来る。
「……流石恋人同士。めっちゃシンクロしてるし」
「いや、考えが同じなだけであってな……って待て。なんでそうなるんだよ?!」
「いやなんでって言われても。この一週間、学院内でずっとそういう話題になっててさー。なんかこれまで以上に距離が近いんじゃないんだとか、よく一緒に帰っているところを見るとか……。まぁ色々と。お兄ちゃんが編入してすぐの時の校内新聞の時点でも十分だったけど、今はそれ以上にというか、もう完全に付き合ってるんだろっていう噂があちこちでねぇー。もしかして正解?」
「「……」」
二人は顔を赤くして黙り込んでしまった。一応覚悟していたこととはいえ、いざとなるとこそばゆいものである。
返答こそなかったが、希愛自身は知っているのだ。一週間前のあの光景を陰からこっそりと見ていたわけだから。
「とにかく今は、その話題は置いとくとして」
「仕方ないから出会うまでの経緯について、お話ししようかぁー」
話を切り替えよう。その話題については済ませようとする二人がそこにはいた。
「こうなったことについてはすぐに気が付いたし、どうにかしようと思って出て行ったはいいけどやっぱり何していいものかわからなくてね……。というか気が付いたらこの状況を楽しんでる自分がいたよ……。今思うと恥ずかしい……」
「楽しむって……こっちはそんな気にはならなかったけどね…」
その後、蓮と遭遇した経緯について説明した。家を一人で飛び出して原因解明に勤めようとはしたが、気が付けば目的を忘れていたようだ。
その途中で一人の男に突然因縁つけられて、さっさと解決させてまた歩いて行ったところ、四人組の男と話している女性が一人いたのを目撃したという。
その女性こそが今ここにいる、黒宮蓮の性別が逆転したそれなのだ。その時はナンパと思い込んで突っかかったが、結局そうではなかったというというか、その時の彼が勘違いしたというか…。
蓮がプライド捨てた叫びでその場は収まったそうだ。
「そんなことあったの。まぁこんな見た目だったら声かける人だっていなくはないような気がする」
「そういうもんなの?」
あの場が収まった後、さっきの男が仲間を引っ提げて追っかけてきた。
その騒動は崎田が一人で収めたが、そのあと誰が撃ったかも結局わからなかった攻撃を、お互い自分が何とかしようと前に出た結果、防いだのはいいが、それもあって身バレすることになったという。
「「……」」
煙が晴れてきて、倒れて向かい合っていたお互いの顔がはっきりと見えるようになった時。そのまま固まっていた。さっきまでいた人と別の人だったというのもあるが、何よりも人物が人物だ。
「ど、どうも……」
「……」
「こ、ここだとなんですし、場所変えません?」
「……そう……しましょう」
ひとまず道端ではなく、落ち着けるところに移動することに。その間はお互い何を話していいものか分からず、ずっと無言であった。
近くの公園に入り、隅のほうで座り込んで話をしていた。
「蓮君も同じ被害者だったんだ……」
「そういう……ことで……」
「で、でも。元に戻ったみたいだし、これで万事解決……ってことでいいよね!?」
「……すみません。そういうわけにもいかないんです」
少し苦しそうな表情していた蓮は息を吐いたと同時。白煙が二人の身体を包んだ。
「こういうことで」
「蓮君の能力でもダメなの?」
さっきの姿に戻ってしまう。
「ダメというよりは、一時的に防いでるって言ったほうがいいのかな」
「そなの……。だったらそうならないように……」
「無茶言わないでくれ。能力使い続けるのも結構体力使うんだ。勝手な考えだが、他の能力者に比べるとあんまり持続させられないような気がするんだよ。それに今また能力使おうとすると、なんか…倒れそうな気がする……」
「そうなの……」
「ということでこれから当分というか、この問題が解決するまでは、不本意ながらこの状態でいさせてくれ」
「ていうような感じで……」
「そんなところだ」
「はぁ……。だったらなんであんなテンションダダ下がりになってたわけよ?」
さっきまであぁなっていた理由が分からない希愛は、二人にそれを聞いた。
「あのなぁ……。違和感のないようにというか、それに見合った演技というか振舞いをしていたんだぞ。そんなとこ知り合いにばれて平常心でいられるような奴がどこにいるよ」
「うん……。ギャップっていうのもあるけど、何よりその相手が蓮君だったっていうのがなおさらね……」
気づけば、少しはまともにはなっていた二人のテンションが重苦しいものに戻っていた。
「お兄ちゃんがどういうことしてたっていうのはなんとなーく想像つくけど、紅葉先輩ってどんな感じだったの?」
「悪いがその辺に関しては黙秘で。紅葉のプライドの問題でもあるから」
「いや。別に希愛ちゃん相手だったらいいけど」
「そうだよな。無理な話……へ?」
あれ。今なんて言ったんだ?
「えっと……紅葉?」
「今はもう落ち着いたし、希愛ちゃん相手だった話すのも気にならないかなー……っと」
「マジかよ」
その後、紅葉はどういった振舞いをしていたのかについて希愛に話をしていた。気持ちもだいぶ落ち着いたのか、意気揚々と話す紅葉の横で、蓮は顔を赤くして先程のようにうずくまっていた。
「そこでこう言った。『大丈夫ですか、お嬢さん』ってね」
「ほぉー。なんかかっこいいかも」
「なんでそんなに楽しげなんだよ……」
いったん吹っ切れてしまうと、かえって気にならなくなる。




