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特別執行班

 入学式の日の翌日。朝食をとってから、希愛と一緒に家を出る。その時に丁度真琴も出てきたので三人で学院に向かう。まぁ三人で登校しようって決めたことだから当然と言えば当然だ。


 こうして三人で同じ学校に行くのなんて小学校の時以来になるのだろうか。


 というようなことを暢気に考えられる雰囲気でもなかった。昨日のあの後もそうだが、一晩経ってからも相変わらず希愛はジトッとした目で俺を見てくる。



「どうしたの希愛ちゃん? なんか不機嫌そう」


 様子のおかしい希愛を見て、真琴が声をかける。


「……お兄ちゃんに辱められた」

「……」



 それを聞いてか、希愛に加えて真琴までもが俺のことをジトッとした目で見てくる。



「女の着替えを覗くとは、蓮もとうとう一線を超えようとするお年頃ですかなー?」

「なぜそこまで詳細を知っている!?」

「えっ!? まさかの的中!?」

「うっ、こいつ。カマかけやがった。てか待て待て、そんな下心は断じてない!」

「でもお兄ちゃん。暫く眺めるように固まってたし、普通は素直に目逸らすなりして出ていくものだよねー?」



 妹の口調が段々と尖ったものになってくる。



「と、突然のことで思考と行動が止まっただけだ」

「言い訳の分だけ男が下がるぞー、蓮」

「……」



 昨日ひっぱたかれた右頬をさする。見た目はもう普段と変わりはないが、まだ少しひりひりする気がする。



「事故とは言え俺が悪かったです。申し訳ありませんでした」

「まぁ、ぶっきらぼうだけどもういいや」

「お兄ちゃんはもともとそういうのだから」

「もともとってなんだ」


「言葉通り、蓮って昔っから説明下手なんだもん」

「そういうことを今言われるのは……」



 穏やかなのかよくわからない朝となった。




 新学期二日目。この日は国数英の実力テスト。一教科百分ほどの試験で、三時頃には学院での一日が終わった。荷物をまとめていると、左隣に座る男子生徒に声をかけられた。



「お疲れ。この学校にも慣れたか?」

「あぁ、おかげさまで」



 俺の隣に座るクラスメイトで、転校して初めての男友達である扇将星だ。


「あぁー新学期二日目からテストって、なんでだろうなー?嫌になるぜー」


 将星が愚痴こぼしながら、机に身体を突っ伏すように嘆いている。


「定期試験よりはまだ気楽に受けれるんだがな」

「それもそうか」



 そう彼が返した後、こんなことを聞かれた。


「そういやお前さ。なんでも昨日崎田さんに呼ばれたって話だそうじゃないか」

「そ、それがどうした」

「お前彼女となんか面識でもあんのか」

「い、いやいやないってないって」

「まぁそうか。お前が転入生とはいえなぁ……」

「というか、崎田さんってそんなに話題になるような人物なのか?」



 俺がそういった次の瞬間、将星は机を両手でバンと叩いてから俺にじりじりと顔を近づけてこう言った。


「彼女は学院内でも知らぬものはいないと言われるほどの有名人だぞ。そんな彼女に呼び出されるなんてよぉ……くぅー! うらやまけしからん!」

「なんかニュアンス違わねぇか? てか顔近い」


「今はんなもんどうだっていい。お前昨日、崎田さんとどういう話してたんだ?」

「どうって……」



「昨日は助けてくれてありがとう黒宮君!」って言われました。


 なんて正直に答えようもんなら俺は今すぐにでも全校生徒の敵になる可能性が浮上しそうだ。

 正直にそう言うと後が面倒になるであろうことは俺でも容易に想像がつく。かといって、うってつけの言い訳なんか思い浮かばない。



「別にそんな深い理由はないっての」

「そんなわきゃないだろ」


「とにかく深い意味はない。ちょいと簡単な話をしてただけだ。はいはいこの話は終わりだ。俺このあと大事な用があんだよ」

「なんだよ釣れねぇなぁー。……仕方ない。今回はこれきりにしてやる」


「あぁ、そうしてくれ」

「へいへい。じゃあまた明日」



 将星がリュックを背負って教室を出る直前、俺のほうを振り返ってこう言った。



「いつか意地でもお前の口から吐かせるから覚悟してろよ」



 将星が教室を出た後、渋い顔をしながらカバンに荷物をまとめて、俺は屋上に向かった。




「ちゃんと来てくれたんだ」



 昨日言われたとおりに屋上に向かうと、先に来ていた崎田さんが待っていた。


「そんなに信用ないか?」

「うぅん。そんなことはない」


「さて、返答の前に確認しておきたいことがある」

「何? 今更もう一日くれー。だなんて言わないでね」


「そんなことはない。執行班についてだ」

「?」



 一呼吸おいてから話を続けた。



「この組織の意義。地域の為に、誰かを守る為に活動する組織だっていう認識で問題はないか?」



 執行班について、俺の認識が正しいのかどうかを確認する。


「まぁ、そういう認識で大丈夫……かな」

「ならよかった」


 一呼吸おいて、決意を固めてから言葉を続けた。



「あれから短い時間だったが自分と向き合って考えた。過去のこととか今のこととか色々葛藤もあって心がもやもやした。でも……」


 自分でも気づかぬうちに、よくわからん自分語り(?)が始まっていた。


「あ、あの……黒宮君? そんな気難しくならなくていいんだよ?」

「あ、あぁ。すまない」



 緊張していたからなのか、自分でも何言ってんだこいつと思いたくなってくる。少しは落ち着けよ、俺。


「と、とにかく。俺でよければ協力させてほしい。それが俺の意思だ」



 それを聞いて崎田さんはにっこりと笑ってこう返した。


「いい返答をありがとう。といっても、昨日君に言われたようにまだ私の独断だから、入るって決まったわけじゃないんだけどね」

「それは……わかってる」


 まぁそうだよな。彼女にそこまでの権限はないだろう。



「まずは話をつけてこないと。さ、ついてきて」



 彼女に右腕を引っ張られ、俺達は屋上を後にした。



 崎田さんに連れられてきたのは、学院本校舎二階のとある一室。




「特別会議室……って何です?」

「簡単に言えば、ここが執行班の拠点」


 崎田さんがドアを開ける。室内には五人の生徒がいた。

 入ってすぐ、一番奥にいた男子生徒がこちらに歩み寄って声をかけてくる。



「執行班にようこそ、黒宮蓮君。此処の班長をしている三年の天王寺だ」

「ど、どうも。初めまして……」


 視線を向けないようにはしているが、室内の残り四人が俺のことを吟味するように見ているのが何となくだがわかる。やはり俺のことが気になるのだろう。


「事情については崎田からある程度は聞いているだろう。君のことは我々も注目している。がしかし、まだ正式に受け入れるわけにもいかない」

「それは承知しています」

「この組織は、学院内でもえりすぐりの生徒によって構成されている。だからこそ君がそれにふさわしい人物かどうか、我々が客観的にしっかりと確認する必要がある」

「わかりました。それで……どうすればいいでしょうか?」


「そこで一つ。君の実力を直接確かめたい。話はそのあとだ」



「そうだな。ここはひとつ、俺が直接腕試しをしようか」

「ホントに大丈夫なのか俺?」

「大丈夫だってー、安心しなよー」

「……」


おそらく多分きっと問題ない。

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