俺、女の子になりました。
開いたドアの隙間からこっちをみている希愛……だと思いたい人物は、顔だけ出したままこっちを見ている。あの人物が希愛だと思う理由なんだが……まぁここ俺の家ですし。それだけは記憶から自信を持って言える。他に人がいるほうがかえっておかしい。
ちなみにじいちゃんとばあちゃんは、昨日から町内会の旅行のため不在だ。いまのこの姿を見られなかったのはある意味救いであったろう。
しかし今考えるべきは、どうしてこうなったんだ。ということよりもどうすればこの状況を切り抜けられる? ということだ。
今の俺はあの人物から見れば不審者? なわけだし……。俺からしても、消去法で考えたとはいえあの人物が希愛だという保証は今どこにもない。
ひょっとしたら迷い人なのかもしれない。その可能性も決してゼロではない。
さて。今はあの人物が希愛であると仮定しよう。どうすればこの疑いを晴らすことができる? ということから考えることにしようか。
俺であること、黒宮蓮であることを証明するべきだろうか。少なくともではあるが、それしかないと思う。だったら何でこうなったんだっていう説明も必要だろうか?
そもそもこうなってしまったこと自体身に覚えのないことだし、原因を思い出せって言われたってどうしようもねえし。推測することとしたって誰かさんの能力しか……
そうか……。能力って考えるなら、俺だったら一発で証明できるしそのまま解決というわけか。ならそれでいこうか。
しかしそうでなかった場合。能力を使っても何も起こらないであろう。そうなったら今度こそ口頭による証明が必要になってくるだろう。しかしそうなっては説明下手の俺にとっちゃどうしようもないだろう。
そうはならないようにと祈り、覚悟を決めてこっちを見る人物に声をかけた。
「あのー……怖がらなくてもいいので……こっち来てください。その……疑いを晴らすって意味でも……」
「……」
今の容姿から見ても違和感のないような喋り方で、こちらに来てほしいということを言った。
覗き込んでいるその人物も、少し悩みつつも黙認してくれたようで、ゆっくりとこっちに近づいてきてくれた。
その人物が俺の腕が届く範囲のところまで近づいたのを確認してから、意を決して能力を使ったと同時に――――
「「!?」」
洗面所内が白煙まみれに。咳き込んでしまい、とっさに目を閉じていたが、どうやらその煙はすぐに晴れていったのはなんとなくわかった。目を開いてみて俺の前にいたのは――
「……予測が当たっていてよかった」
「……お兄ちゃんだ」
妹の希愛がいた。そして彼女のセリフから俺の姿も元に戻ったんだな。という安心感もあった。念のために鏡を確認したらいつも見る自分がちゃんといた。
「はぁー……。どうなることかと思ったわ」
「というかさっきのなんだったの?お兄ちゃんもう完全に女性だったよ……。聞き慣れない叫び声聞いて、慌てて跳ね起きて降りてみたらあれだったんだもん。そりゃ誰だってあんな反応したくなるよ。眼を疑いたくなるもん。何がどうしてあぁなったの?」
「俺も聞きてぇわそんなもん。朝起きて鏡見たらこうなってたんだ。誰が好き好んで女装なんてすると思うよ。かくいう希愛だって、さっきまではいつもと違う外見してたんだぞー」
「え?!」
顔をペタペタ触って確認しようとする希愛。言っとくが、もう戻ってるから確かめようがないと思うぞ。
「いや。今調べても意味ないから。ま、ともあれこれで……」
そう気を緩めたのが、また始まりであった。
「「?!」」
再び洗面所内を白煙が包む。いやな予感しかしねぇ。
その予感は悲しいことに的中していた。煙が晴れてみれば、一分前の状況に逆戻りであった。俺の姿は女性のものになっているし、希愛もようやく全身見えるようになって改めて見てみると、外見が多少なりとも変わっていた。
「あ……」
「……」
今日この日。この俺、黒宮蓮とその妹は、何故だか性別が逆転していました。そしてすぐ解決したかと思えば、そうはいかないようです。
その場に膝をついて、ただただ嘆くしかなかった。だってそうじゃん!?すべて解決して万々歳かと思えばこの始末。
「万能なんて言わないが……どうすりゃいいんだよおい?!」
「お兄ちゃんの能力が敗北した瞬間……」
そう言いながら立ち位置を入れ替わるようにして、今度は希愛が鏡の前に立っていた。しばらく無言で鏡とにらめっこしてたけど、内心驚いているのは俺と同じであろう。
「いや、きっと何か理由がある……はず」
考えてみるが、これといったものが思いつかない。頭を抱えていると、希愛が一つの推論を提示してきた。
「おそらくだけど…能力使っている人がずっと発動し続けているとか? それだったらお兄ちゃんが能力使ってる間だけ元に戻っている……とか?」
「何というか……電波とか信号みたいなものが出っぱなしになってるってとこか?」
「そう…じゃない?」
そうか。そう考えるとすればさっきのことにも何となく見当がつく。俺の能力がバリアの役割を果たしているってことになるのか。
「にしても今日が休日でよかったわ……。こんななりで外に出られるか」
「でもほっといたらずっとこのままかもしれないよ?」
「ぐっ……」
今日外に出て色々騒ぎになるのも面倒なものだが、一生女のままというほうがもっと面倒なことではないか。気は進まないが仕方ない。ずっとこのままというのも嫌なものだ。
何としてでも犯人、つまりはその能力の保有者をとっちめ……捕まえて元に戻してもらわねば。
「なら選択肢は無しか。動くしかなさそうだな」
「私も行く。このままは嫌だし」
「そうだな。用意を済ませたらすぐに動こうか。俺は朝飯の用意してくるから」
「へいへーい」
希愛は右手を伸ばすと、念動力使って歯ブラシを自分のほうに引き寄せる。いつものこととはいえ、それくらい横着せずにやりなさいよと、兄としては思うのだ。
あれから一時間弱程で一通りの用意も済ませた。
服を選ぶのはお互い困惑した。下はデニムとかジーンズでまだどうにかなるもんだし、上のシャツなんかも大きさに関しては問題ない。デザインに関しても無地のものとか、あまりに奇抜なものでないなら異性が着たとしても変には見えないであろう。
まぁファッションには疎い、元男の勝手な自論ではあるが。
下着に関しては……これ以上はここでは言わないでおこう。互いのプライド云々の問題でもあるから。
かくして兄妹、もとい姉弟の犯人探しが始まった。……と言いたいところだが、悪いが一個だけ寄り道させてくれ。
「おじいちゃんとおばあちゃんが今の私たち見たらどんな反応するだろ?」
「あまり想像はしたくないな。ひょっとしたら倒れそうな気がするし」
「ありそう」
見られたくはない。




