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平穏に暮らしたい俺は、いつしか騒動に巻き込まれる。  作者: 夘月
CHAPTER4 怪しき瞳とココロの鏡
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本音で語ること

 黒宮は何も言わずに崎田のほうに近づいていく。それに気づいた彼女は標的を草薙と森嶋から、黒宮のほうに切り替える。少し見合って構えなおした後、彼女は黒宮のほうに向かって突進していく。

「おい馬鹿! 避けるそぶりくらい……」


 桐生が黒宮に向かって叫ぶが、黒宮にその言葉は届いていないようであった。歩みを止めることをやめない。

 崎田が黒宮に向かって突っ込み、いまにも攻撃が当たろうかというところであった。彼女の右手にまとっていた炎は消え、すれ違うようにして黒宮の後方に着地した崎田は、そのまま体制を崩して地面に倒れた。


「ふぅ」


 横になっている崎田の表情が変わっていることを確認して、黒宮は安堵の息を吐いた。


「今冷静になって考えてみたけど、これで全部解決ってわけか。最初にそう言ってくれよ……」

「どういうことですか?」

「森嶋さん。あいつの能力はいかなる能力でさえも無効化してしまうんですよ。言うなればチート能力すよ。大抵のこと、これで何とかなってしまうんですから」

「成程。それは素晴らしい能力をお持ちで」

「羨ましい限りだぜ」


 この場にいた執行班の五人は、今度は崎田と成田。双方気を失っていることを確認してから警察に通報し、各校の主任にこの事態を報告した。警察と主任が来るのを待っている間、草薙は山水の面々に質問をしていた。


「ところで森嶋さん。さっき聞こうとしていたことなんですが、こうなること知っているような感じでしたけど、なんでなんです?」

「え? そうなんすか?」

「えぇ。こちらで作戦を立てていまして。コソコソと進めていてすみません」

「ところでどこからその作戦を?」

「成田が崎田さんを連れて行こうと兼城学院を出て行ったところからです」



 森嶋さん達山水高校の面々が実行していた作戦はこんな感じだ。

 昨日の時点で向こうはある情報を手に入れていた。成田篤憲が所有している車の情報だ。そして今日の調査で彼の所有する車を泰牙が偶然発見。それに発信機をつけてその車の行く先を突き止めることが目的であった。その先が成田の自宅、ないしは隠れ家が近くにあるということになる。 


 泰牙がその車を発見したというその場所が兼城学院の近くで、その時に崎田さんが成田に連れていかれるところを彼は目撃していたのだ。あそこですぐに助け出してもいいのではないかと俺は言ったが、あいつはあの時成田が催眠を使ってきたということを知っている。もし崎田さんを操ってけしかけられると厄介になると判断してのことだそうだ。


「色々と複雑なことしてたんだな」

「こっちにもいろいろと事情ってもんがあったんだ」


 そこで泰牙が能力使ってあいつの運転する車に潜り込んでいたということだそうだ。着いたところで、その場所を報告し、可能な場合は奇襲をかけるということだそうだった。一個だけ移動速度が速かった反応って泰牙のことだったのか。あの時はそっちのことに興味なかったから、それが誰の反応かまでは見ていなかった。


 場所を特定する。ここまでは山水の計画の通りであったが、あの場にすぐに、悠と森嶋さんが来たというのは想定外だったようで。場所がわかってから、少しばかり時間が経ってからくるだろうというのが泰牙の予想だったようだ。偶然その近くにいた。というのもそうだが、成田の運転する車がここに到着する少し前に俺が二人に、この場所の情報を伝えていたからだ。それもあって二人はすぐにこの場に来たということだ。


「息潜めているところに銃声聞こえたからびっくりしましたよ」

「僕も桐生君がいるとは思わなくてね……」


 その後はいろいろありつつも、この場に駆けつけた悠と森嶋さんは連携して崎田さんを食い止め、忍んでいた泰牙は奇襲をかけて成田を無力化した。彼が気絶したことで催眠も切れるんじゃないかと思っていたようだが、何故か暴走してしまったのは予想外だったようだ。


「黒宮さんが来なかったらどうなってたか。おそらく皆無事では済んでいなかったでしょう」

「崎田さんって、そんなに強いんすか?」

「それもあるんだけど、相性の問題でもあるんだよね……」

「ところで邦岡さん。あなたたちはどうやってここを突き止めたんですか?」

「何といえばいいものか。ある人物から情報をもらった」


 邦岡さんは渋い顔をしつつも悠のほうを向いて言葉をつづけた。


「草薙。以前出会ったあの女性からだ」

「え゛。そうなんすか?」

「あぁ」


 その後現場に到着した小松主任に報告を済ませ、成田篤憲は駆け付けた警察によって連行され、事件は終わりを告げた。



 学院に戻ってくると、調査に出ていた他三人も含め全員集合した。気絶していた崎田さんも戻ってきたころには目覚めていた。


「終わったのか」

「そうですね。これですべて解決です」

「大丈夫か、崎田」

「はい。なんだかまだ少しくらくらするんですが、大丈夫です」


「聞いたわよぉー蓮君。またすごいことしたってねー」

「そういうもんでもないですよ」

「でも一つだけ腑に落ちないことがあるのよねぇ~」

「な、何ですか?」

「能力使ってパパッと済ませてしまったことよー。便利なのはいいけど頼りすぎもよくないわよー」

「そ、そうですか。気を付けます」


 これまで能力の詳細については伏せてたんだが、執行班に入った以上はずっと隠しているというわけにもいかない。今までもそうなんだが、便利ゆえに頼り切っている感はいがめない。袴田さんの言うとおりだ。

 それで終わりかと思ったのだが、そうではなかった。テンションを少し上げて袴田さんはこう言った。

「それもあるけどぉ~。そこは紅葉ちゃんに向かって何も言わずに近づいて行って、愛を語ることで洗脳にとらわれた紅葉ちゃんを救う。なんていうドラマティックなやり方とかできなかったの?」

「はい?」


 え? どういうことですの?


「袴田。そんなこと余裕でできるような状況じゃあなかったんだぞ。あと色々と影響されすぎだろう」





 バイクで家まで送っていく間、彼女はずっと無言だった。色々あったんだしよっぽど疲れているんだろうなっていうのは見ればわかる。数分で彼女の家の門の前に到着した。


「着いたぞ」

「うん……」


 ゆっくりと降りて、俺にヘルメットを渡す。そのまま家の中に入るかと思ったが、数秒ばかりか俺のほうを見てからもじもじとして、「ごめんなさい」と、ただその一言を俺に言った。


「迷惑かけちゃって。あの時の記憶もうっすらとだけど残っているの。思い出そうとすると、なんだかつらくなってきて……」

「崎田さんのせいじゃない。悪いのは崎田さんを連れ去って操っていたあいつのほうだ」

「それでも……」


 俺は震える崎田さんの肩に手を置いた。


「過ぎた事だ。俺は気にしちゃいない。皆だってそうだ」

「ねぇ。どうしてここまでしてくれるの?」


 その言葉はとても悲しげに聞こえた。不安にさせたくはなかった。いつも明るい彼女だからこそ、そんな風になって欲しくはなかった。

 ありのまま思ったことを、俺は崎田さんに話した。


「心配だって、ただ単純にそう思ったからだ。今回の崎田さんのように、そんな人がいると放っておけないのが俺の悪いところだからな」


 俺の言葉を聞いて、崎田さんはポカーンとして口を開いてたが、その口を閉じるとフフッと笑っていた。


「何言ってるのもうー。そんなの悪いことなんかじゃあないでしょ! むしろいいこと!」

「いやいや。自分が見えなくなるんだ。いざ終わってみれば何してるんだろうって。そう考えてしまうんだ。あん時だってそうだった」

「あの時……私と初めて会った時のこと?」


 軽く頷いてから話を続ける。


「あぁ。ホントはああいうことに首突っ込みたくないって考えていても、何でか勝手に体が動くんだ。だから嫌になったんだ」

「ふぅーん……」

「で、でも助けなきゃいけないって思ったのは本当だ! 本当だからな!?」


 崎田さんはまた笑った。今度はさっき以上ににっこりとしていた。


「やっぱり。私の見立てが間違ってなくてよかったなーって。いやだいやだなんて最初は言ってたけど、それが本当の君なんだな……って」

「そ、そうか? 別にんなことは。というか、女子の前で何言ってんだろうな俺は……」

「それでいいの。そういう不器用なの。君らしくて」

「そんな風に思われてたのかよ俺は……」


「真琴ちゃんが言ってたんだけどね。なんだか変わったってさ」

「言われてみるとそんな気もするな。執行班に入ってから。普段の日常もそうだけどさ、自分自身も変わったような気がするんだ」

「黒宮君……自身の?」

「改めて自分と向き合ってさ、何かの為に何かをしようとする。そのことについて色々考えるようになったんだ。あの時崎田さんと出会ってなかったら、そんなこと考えもしなかったと思うんだ」


 何故だろう。今こうして二人でいるからこそ言えるのだろうか。


「そう意味じゃ感謝してる。その……ありがとな」

「ううん。こっちが言いたいくらい……」


 そう言いかけたところで五十センチほどしか離れていなかった崎田さんがさらに近づいてきた。もう十五センチとないであろう。互いの顔がくっつきそうなくらいに。


 俺の首の後ろに、彼女の左腕が伸びる。くいっと俺の顔が引き寄せられる。


 そして――


「ありがとう。……蓮君」



 ほんの一瞬、いや二秒ほどだったか。俺の唇に温かく柔らかい感触が伝わった。驚いて声を上げようにも、出来なかった。


「じゃあね。また明日」


 そのまま崎田さんは元気よく俺に手を振って、門の奥へと消えていった。


「……」


 その突然のことに、俺は言葉も出なかった。頭の中がふわふわとしたまま、俺は操られるようにバイクのエンジンをかけてまたがり、自分の家に向かって走らせていった。

「森嶋か。……そうかわかった」

「どうしたんすか?」

「無事に終わったようだ」

「よかったっすね。何はともあれ皆無事で」

「Zzz……」

「もう突っ込まねぇぞ」


 任務完了。

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