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平穏に暮らしたい俺は、いつしか騒動に巻き込まれる。  作者: 夘月
CHAPTER4 怪しき瞳とココロの鏡
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最後の賭けと勝負

 すっと臨戦態勢をとって構える俺であったが、その俺の前に邦岡さんの右腕が入る。


「やめておけ。あいつはただものじゃない」

「それはどういう?」

「さっき言ったその女性。彼女がそうだ」

「ま、マジっすか」


 泰牙の言っていたことは本当のようだ。間違いなくこの女性は事件に大きな関わりを持っている。

 窓枠に座っていた女性はひょいっとそこから飛び降りて応接室に入ってくると、自分の部屋でくつろぐかの如く、ソファーにどっぷりと腰かける。


「久しぶりだねぇ蒼髪の嬢ちゃん。それとそっちの少年はお仲間ってところか」

「そう思ってくれていい」


 無用な手出しはするなと言わんばかりに邦岡さんは俺の前に右手を出したまま女性と会話している。


「それで何の用だ。正直なところこっちには時間がない」

「そうかっかするんじゃあない。この前みたいに実力テストしに来たわけでも、冷やかしに来たんじゃあないんだからさ。すぐに終わるさ。ただその前に……」


 そう言って女性は立ち上がると、俺のほうに近づいてくる。


「な、なんすか」

「ふぅ~む。どれどれ」


 じっくりと吟味するように俺のことを眺めている。近づいたり遠ざかったり、ぐるぐると俺の周りをまわってはまたじっくりと。身体を触られこそはしなかったが、かれこれ三十秒くらいは見られたと思う。


「成程ねぇ。あんた名前は?」

「え。く、黒宮蓮。ですが」

「黒宮蓮ねぇ。覚えておくよ。あんたもなんだか見どころがありそうな奴みたいだからな」

「そりゃあどうも……」


 褒められるのは悪いことではないんだが、今そういうことを言われてもねぇ。


「おい。結局あんたは何しに来たんだ」

「はいはい。脱線しちまって悪かったよ。これを渡しに来たんだ」


 女性は邦岡さんに封筒を投げる。邦岡さんはそれを右手の人差し指と中指で挟むようにしてキャッチする。


「私からの最後の渡し船だ。有意義に使いな」

「おい、私から一つ質問をさせろ」


 邦岡さんが、やること済ませて立ち去ろうとした女性を呼び止める。

「なんだい。双方忙しいみたいだからさ、手短に済ませようじゃない」

「言われなくても聞きたいことは一つだけだ。お前は私たちにとってのなんだ?味方か?それとも敵か?」


 コツコツとブーツの足音を立てて数歩歩き、窓の前に差し掛かったところで振り返って答えた。

「そうだねぇ。敵ってわけじゃあないが、かといって味方ってわけでもない。私はあくまで第三者。私の意志で好きに動いているだけさ。これからに関して言えば……あんたら次第だねぇ。それじゃあご健闘を」


 それだけ言い残して、女性は、最初に腰かけていた窓から颯爽と飛び降りていった。



「あっ……」


 突然のことに理解が追いつかず混乱してきそうになったが、崎田さんを探さねばならない。その事を思い出し、まず俺は邦岡さんの方を向いた。


「邦岡さんどういうことです。あの人何者なんですか。味方なんじゃあないんですか」

「正直そうとは言い切れん。私らにもよく分からん」

「どうしてです。情報くれて渡辺美鈴をこちらに渡してくれた人なんすよね」

「崎田も同じような事言ってたが、そう短絡的に考えてはいけないんだよ」


 やれやれと思いつつも、邦岡さんは説明を始めた。


「彼女は初めて会った時、私達の実力を試すといって、三人を相手にしている。崎田と草薙とも連携したが有効打を与えられなかった。それだけ実力のある厄介な奴だ」

「マジすか」

「それもそうなんだが、一番気になっているのは行方不明となっていた五人の居場所を知り、なおかつ渡辺美鈴をあのような形で手渡してきたことだ」

「あのようなって、手合わせした後に渡してきたってことですか」

「それだけでも異常なことは想像つくだろう」


「まぁ協力者って言うには度を越しているというか、なんというか。ややこしいですし、後で考えましょう。今はゆっくり考える時間がないですし。ところでその封筒の中身、何入っているんすか?」

「これか」


 ぺりぺりと封筒を破って中身を取り出す。一枚の白い紙切れのようだ。


「住所が書かれている。それだけだ」

「見せてください。検索かけてみますね」


 その紙を見せてもらい、スマホの地図アプリに、書かれていたその住所を打ち込む。


「アパートだ。

「その近くに誰か班員はいるか」

「調べてみます」


 今度は奥の机に置かれているノートパソコンを開いて執行班のオペレーター用のアプリを起動する。任務時に班員が装着している通信機によって位置情報を取得。状況に応じて班員に指示を出すというところだ。資料をまとめているときも、これによって迅速に他の班員に指示を出せるように待機している。

 先程の紙に書かれた住所を打ち込むと、その場所に赤いポイントがおかれる。そこから程近い所には二つの反応があった。それに――――


「なんか一個だけ移動速度速くないですか?」

「バスかなんかで移動してるんだろう。あまり気にすることではない」

「そういうもんすか」

「そういうもんだ」


 青い点が通信機の位置情報。つまり班員の居場所ってことになるが、どれもゆっくり動いているのに対して一個だけその動きが速いのだ。しかも学院からそこそこ近いっていうのがまた気になる。


「ところで、近くには誰がいる」

「この反応は……悠と森嶋さんか」

「なら連絡を入れてくれ。その二人を優先にして、残りのメンバーにも次いで連絡を入れろ」

「というかいいんすか? たったこれだけの情報を鵜呑みにして」

「悔しいことだが、今の私たちには情報を選べるほどの余裕がない」

「悲しいことだなぁ……」


 またもやわずかな可能性に賭けなければいけないのか。というどうしようもなさにまたため息が出る。これを今までの調査の間にいったい何度したことか。

 しかしそうこうして頭を抱える訳にも、深々と何か思考する余裕がないのもまた今の状況だ。すぐさま回線を開き、悠と森嶋さんにこの由を伝えた。


「で、どうするんですか?」


 通信を入れ終えた俺は、邦岡さんに尋ねた。


「私たちも行くぞ。指示は山水の方に一任させる。主任には私の方から連絡は入れた」

「了解です」

「しかし向かうとは言ったが、距離があるな」

「足ならあります。ついてきてください」


 用意を整え、応接室から飛び出した。あるものを取りに行く為に。




「方向が違うかと思ったが、そういうことか」


 家まで戻った俺は、ガレージからバイクを引っ張り出した。これであの場所まで向かう。


「一応確認するが、ちゃんと免許持ってるんだろうな?」

「持ってなかったらこんなことしませんよ。何なら免許確認します?」

「いや。大丈夫だ」


 返答を聞いた後に、邦岡さんに青いヘルメットを渡す。


「大きさは妹の希愛のものに合わせてますけど、たぶん大丈夫なはずです」

「あぁ。問題なさそうだ」

「ならよかったです」


 邦岡さんが問題なくヘルメットをかぶれたのを確認してからエンジンをかけ、いざ行こうとしたところで隣の門から誰か出てくる。


「何してんの蓮? もしかして邦岡先輩と駆け落ち?」

「真琴か。悪いが今はゆっくりと話してる余裕はない」


 彼女の返答を聞くこともなく、そのまま俺はバイクを走らせた。




 幼馴染に友人が、崎田さんが大変な目にあっているなんて今は言えない。すまない。 

 頼むから、これで全てが終わってくれ。そして無事でいてくれ。



「あ?! いやおい待ってくれ」

「何事?」

「返答する前に切れちまったし。あの邦岡さんもとうとう吹っ切れちまったか」

「そう……。Zzz……」

「興味ねぇ顔して寝るんじゃねぇ竜胆」


 これから勝負だってのに。

 

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