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喫茶店フォルテ

 無意識のうちに辿り着いた喫茶店のドアを開ける。


「いらっしゃいませー。ってあれ?」


 店長が、客が俺であったことに気づいたのかこちらに近づいてくる。



「蓮君じゃないか。こんな時間にどうした?」

「こんな時間に来たっていいじゃないですか。サボりってわけじゃないんですから。今日は入学式だけだったんで、早く終わったんです」


「それにしちゃあ、お前一人か。真琴と希愛ちゃんはどうしたんだ」

「一人でいちゃ悪いすか」

「誰もそんなこと言っちゃいないよ。さて、せっかくのお客様。しかもお得意様だ。っと、このまま立ち話もなんだ。好きなとこ座んな」



 とりあえずカウンターの席に座る。お昼もまだだったので、適当にサンドイッチとコーヒーを頼んだ。


 彼女は干場奈月。この小さな喫茶店、フォルテの店長をしている。

 俺が小さい頃からこの喫茶店によく通っていたものだったからとても親しい間柄でもある。

 一応希愛と真琴へのパフェの奢りの約束もあり、先週此処を訪れた際に俺と希愛が戻ってきたことも彼女には伝えてある。



「どうだい、久々の故郷にはもう慣れたか?」

「まぁ、ぼちぼちと」



 カツサンドをほおばりつつ、干場さんと会話をする。


「そうかい。まぁゆっくりして行きな」

「どうも」



 コーヒーを飲みながら、どうして此処に行きついたのだろうかと考えていた。今俺の心のもやもやを、家族友人以外の誰かに打ち明けたかったのだろうか。向こうにいたときはそういう人がいなかったから、今こうしてここにいるのだろうか。


 幸い今俺の他にお客はいなさそうだ。こういう機会はなかなかなさそうだし、俺は思い切って相談を持ち掛けることにした。


「干場さん。一つ相談があるんですが、いいですか」

「ん? なんだい。さては恋の悩みか?」

「そんなんじゃないです」

「初心なお年頃なんだから、顔を赤らめることはないのだぞ」

「そんなことはないですし、真面目な相談です」

「わかったわかった。暇だし話を聞こう」


 変な方向に進まぬうちに、話を進めようと思う。


「干場さんは、執行班って知っていますか?」

「え? まぁ詳しいことはわからんが、ここいら辺りの高校じゃ、そういう組織があるってのは知り合いから聞いたことはある」

「そうですか。てか他のとこでもこういう組織あるんすか」

「らしいよ。というかお前、さてはまた変なことをしたのか」

「そんなことはないですが、何かしらあったのはまぁ…、間違ってはないです」

「やっぱり。ほれほれ、隠さずにお姉さんに言ってみなさい」





「成程。入学早々、お前は執行班にスカウトされた。しかし自分には向いていないから断ろうとしたが、それができなかったと」

「まぁ、簡単に言えばそんなところです」



 干場さんに悩みを相談するにあたった経緯を説明する。ひとまず昨日今日あったことを簡潔にまとめて干場さんに伝えた。

 時間が経って改めて整理してみると、不思議なことに意外と落ち着けた。




「断るならきっちりと断りな。といってもそうすることを許さなかったって感じだな」

「はい」



 ほぼ図星であった。女の感ってやつなのだろうか。



「ちっさい頃のお前はそんな難しいこと考えずに動いてたんだがな。やんちゃで無邪気でまっすぐで馬鹿正直で。ってもガキと思春期男子の考えることはまるで違うか」

「何でガキの頃の話を持ち出すんですか」


「いいじゃないか。それよか、お前こんなにねちっこい性格だったか? なんか回りくどいというかさ」

「そ、そうですか。べ、べつにそんなことは」



 事をごまかすようにコーヒーを一口。そんな様子を見かねたのか、干場さんがこんな話を持ち出してきた。



「真琴がな、お前が引っ越してからというもの、よくお前のこと心配して私に相談してくるんだ」



 干場さんの突然の言葉に驚いて、口に含んでいたコーヒーが一気に喉を通る。カップを口から離し、咳払いをしてから返事をする。



「真琴がですか?」

「あぁ。なんかあいつに会うたびに、連絡とるたびに無理してるような感じがするって。そういや先週も店に来たんだったな。お前と希愛ちゃんが帰った後、なんか隠してる気がするって、私に言ってたな」

「……お見通しですか」


「幼馴染ってそういうもんよ。長い付き合いになると、そういう変化には敏感なんだよ」

「……」



 観念したのか、参ったというべきか、言葉が出なかった。



「私にも何となくだがわかるよ。その悩みにも裏というか理由があるのだろう?」

「……参りました。すべて打ち明けることにします」

「参りましたって、別に勝負してるわけじゃないんだから。最初から回りくどい説明するもんじゃないよ。それじゃ相談にならないだろ」



 呆れた顔しながらも、干場さんは俺の話に耳を傾けてくれた。




「昔の俺のこと、よく知ってますよね。人を助けるためにしょっちゅう無茶していたこと」

「そうだったな。ケガするのも構わずに動いてたな、お前は」

「人助けのためだとか言って、冷静に考えれば余計な喧嘩だとか、無謀なことよくやって怒られました」

「そうだったな。今思えば懐かしいもんだねー」



 腕を組んで、懐かしむように干場さんはそう言った。



「それで、三年位前からですかね。争い事とか揉め事とか、そういう面倒事を嫌うようになって避けるようになったんです。関わらないようにって」

「思春期迎えて少し大人になったか? まぁそういうのは誰だって嫌だろうよ」

「それでそういうことを避ける為に、自分の考えを押し殺して生きていたんです。出しゃばらないようにと。でも人助けをするのだけはやめられなかったんです。単なることならいいんですが、揉め事になったり、時には争いになったりもするんです。事が終わった後、なんでこんなことになってしまうんだ。なんで身勝手に動いてしまったんだって。そんなこと考えてしまうんです」


 それが嫌だった。純粋に。


「ふーん。いざこざに巻き込まれることはともかくとして、お前は人を助けることをどう思っているんだ? まずはそこが知りたい」

「それは……放ってはおけないって思います。見て見ぬふりはしちゃいけないって」


 俺のその言葉を聞いた干場さんは今度は口元をにんまりとさせてこう答えた。



「ならそれでいいじゃないか」

「え?」

「困っている人がいるから手を差し伸べる。何かを、誰かを守るため。その理念がお前を動かしてるんだろ? 年取って考えることが複雑になっても、その心持は染み付いて変わっていない。いい事じゃないか」

「それは……」

「人助けするのが間違ったことだと、私は思っちゃいないよ。むしろ誇らしいことじゃないか」

「そうですか? でも……」



 それで納得していいものなのか。そう悩むが、そうはさせんと干場さんが口を挟む。



「あーはいはい、余計なことをしたとかそういう後のこと考えるのはやめな。とにかく、誰かを助けたいってのがお前の本心なんだ。悪いことじゃあない。だったらその本心隠さずにそう生きればいいじゃないか」

「俺の本心、ですか」

「あぁそうだ。そうでなきゃお前はそんなことしようとは思わないはずだ。そうでないなら言い方が悪くなるが、資本主義者とか?」

「?!」


 見返りを求めて動いてるってか?!そんなことは無いよ!考えたことなんかないよー。


「話がそれそうになったが、執行班ってのはその地域の為に活動する組織なんだろ? だったらお前には適任じゃないか」

「そ、そうですか」

「そうだそうだ、自分に自信を持て」



 どんどんと、カウンター越しに右肩を叩かれた。



「しっかりやれよー。困ったときはいつでも相談にのってやるからな」

「……ありがとうございます」




 カップに残った少し冷めたコーヒーを飲み切って、会計をしようと財布を取り出したとき干場さんにそれを止められた。




「今日のお代はいいよ。新しい決意を決めた記念だ。私が持ってやるよ」

「いえいえそんな……」

「大人のご厚意は大人しく受け取っとくもんだ、少年」



 干場さんはそう言って、カウンターに置かれた伝票を取り上げてしまった。


「ならお言葉に甘えます」



 諦め、ふっと一息ついてから礼を言った。



「またのお越しをー」



 店を出てから、なんだか肩の荷が無くなったような感じがした。





 家に帰って、自分の部屋のベットにあおむけになる。人に悩みを打ち明けるのって気持ちのいいことなんだなぁ。って感じられる。


 色々あって濃密な一日であった。ひとまず時間もちょうどいい頃になっており、夕飯の前に風呂でも入ってさっぱりしようかと思い、着替えを持って一階に降りる。

 鼻歌歌いながら脱衣所のドアを開けたと同時、俺の思考が停止する。



「あ」

「え?」



 何も考えずに開けたドアの先にいたのは、これから風呂に入ろうとして服を脱ごうとしていた希愛であった。彼女が今身に着けているのは上下の下着のみ。



「「……!?」」



 俺もそうだが、希愛もまた今の状況を飲み込めずに悶絶していた。


「お、お……」



「お兄ちゃんのばかーー!!」



 希愛に叫ばれると同時に、おもいっきり頬をひっぱたかれた。

「婆さんや、希愛が何やら叫んでおったが何事やのう?」

「さぁ…でも、相変わらず元気なようで」

「そうだのう」


知らぬがゆえの呑気。

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