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平穏に暮らしたい俺は、いつしか騒動に巻き込まれる。  作者: 夘月
CHAPTER4 怪しき瞳とココロの鏡
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決意を固める時

「そうか。とにかく、お前たちが無事だっただけでも幸いだ」


 聞き込みが終わった後のことについて報告を終えた後、応接室には不穏な空気が流れた。それもそうだ。行方不明だった人たちが無事に解放されてさぁこれから犯人を捕まえようって時に、新たな被害者が生まれようかという事態に。それも崎田さんだってもんだからなおさらだ。

 とっさの判断でさらわれずには済んだが、それでも狙われたという事実は変わらない。犯人が執念深いとなればまた狙われる可能性もあるだろう。これでは我々兼城学院の執行班は、うかつな行動はできない。もしまた崎田さんの身に何かあれば執行班の責任問題にもなる。

 あの場に居合わせた泰牙を通じて、山水の執行班の方にもこの報告は届いている頃だろう。明日、通信による会談が執り行われることが急遽決定した。今後の方針について修正が必要となった。


 報告を終えて解散となった後、俺は崎田さんを家まで送っていくことにした。彼女は何とか雰囲気を良くしようと明るく振舞ってくれるのだが、それを見るたびにつらくなってくる。そんな彼女を見ると、早く何とかしなければいけないと焦ってしまいそうになる。もちろん崎田さんは俺以上につらいはずだ。彼女はそれを隠そうとしているのだ。でもそれが痛いくらいにわかってしまう。




 夜。家に帰ってからもずっと悩んでいた。夕飯もなんだか味がしないような感じがするし、風呂に入っていてもなかなか気持ちが落ち着かない。これからどうするべきなのか。風呂から上がった後、ベットに横になって考え込んでいた。

 もちろんいち早く成田篤憲を捕まえるべきだというのは承知している。しかしだ。ことを焦ってはまた何が起こるかわからない。それが怖くて動けない。

 普段から後先のことをあまり考えずに行動する。それが俺の小さいころからの悪い癖だ。たいていの理由は人助けなんだが。

 俺だってもう十七の高校生だ。今そんな事をしてはただならぬ迷惑をかけてしまう。何が起こるかわからない以上は慎重に行動しなければならない。そもそもそんな見切り発車で動いてもどうしようもない。それくらいは理解している。


あれこれ頭で考えていると、ますますぐちゃぐちゃになってゆくもんだから、どうしようもなくなってくる。

落ち着こう。まずは整理するんだ。そう言い聞かせてやるべき事を大雑把でいいからと思い浮かべる。

成田篤憲を見つけ捕まえること。崎田さんを守ってやること。それから……。


 崎田さんのことももちろんだが、俺にはもう一つ頭から離れないことがあった。成田篤憲が二つの能力を使ってきたということだ。少なくともそういう人を俺は見たことも聞いたこともない。整理している途中でふと浮かんできたのであった。そして能力と言われてさらに一つ。


 俺は机の引き出しから一枚の小さな紙を取り出し、そこに書かれている番号に電話をかけた。


『はい。大桑です』

「夜遅くに失礼します。黒宮です」

『おぉ君か。調子はどうだい。なんでも執行班で活躍してるってそうじゃないか』

「いえいえ。そんなことは」

『わざわざ電話してきたってことは、何か相談事かい?』


 あの時渡された名刺の裏に、何かあれば相談に乗ろう。という一文とともに携帯の番号が書かれていた。と言うよりも、渡された時にそう言われたのだ。能力のことで考え込んでいた時に、ふと研究者である大桑さんのことを思い出したので聞いてみようと思った次第だ。


「相談というか、ひとつ能力に関して聞きたいことがありまして」

『そうか。それでどういったことだい?』

「一人の人間が、複数の能力を持つことってあるんですか?」


大桑さんはしばらく沈黙してから、俺の質問に答えてくれた。


『いや。そういった報告はこれまで聞いたことがない。基本的に、能力は一人一つだ』

「そうですか……』


『能力の派生によってはいろいろなことができる場合もあるが、因みにどんな能力だったんだ』


 その時の状況を思い出しながら大桑さんに事情を説明する。崎田さんを連れ去ろうとした成田篤憲の手口、そしてその後のこと。


「一つ目はガラスの中に潜り込む能力でした。俺の推測になりますがガラスというよりも、大きく言えば鏡みたいに何か映せるようなものに入り込めるっていうべきでしょうか」

『なかなか面白い能力だ。それで二つ目は?』

「もう一つはシンプルに言って催眠です」

『そうか。となると派生とは言えない。明らかに異なった能力だ』

「ですよね」

『ともかくそういうことだ。もし本当にそうだとしたら私たち研究者としても興味深いことだが、今は事件の解決が優先となる以上、それどころでもないな』



ひとつ溜息をこぼした。



『その溜息の付きようだと、何やら他に相談があるような感じだが』

「聞こえてました?」

『ハッキリとね。安堵というよりは不安という感じがしたかな。他にも何かあれば話を聞こう』


 俺は今回電話をするにあたっての心持について説明した。どうするのが最善か分からず、壁にぶち当たっている今の心境を。


『そうか。その人は君にとって、とても大事な人というわけか』

「そうですね。大事な仲間です。だからすごく不安になるんです」

『聞いたところその被害者は君と同い年くらいの少女ってことになるが……』

「そ、それが何か?」

『さしづめその人は君の思い人だろうか?』

「そ、そそそそういうももももんでも……」


そう言われてしまうとアワアワとしてしまい混乱する。


『はっはっは。すまない。だがその人が大事な人であるってのは変わらんだろう? 焦る必要はない。君が寄り添ってやるといいさ。頼れる人がいるってだけでも随分と違う』

「そういうもんですか」


『君の言うように焦ってしまうのもわかるよ。先のことがわからないっていうのは何より不安なことだからね。だからこそ、今一度落ち着くんだ。冷静になってしっかりと自分と向き合ってみるんだ』

「そうしてはいるんですが、深く考えるってのはどうも苦手なもので」

『今の状況で、落ち着けって言われても難しい話だろう。だが、そういった困難を乗り越えて行ければ、今後の進展においても、君にとってもプラスになるだろう』


俺は黙って大桑さんの話を聞いていた。


『時間が無いとはいえ急ぐ必要なんてない。じっくりと立ち止まって考えなさい』

「分かりました。ありがとうございます」

「いえいえ。それじゃあ今後とも気を付けて』


電話を終えて、スマホを耳元に置く。あの時もそうだったが、一人で抱え込むよりもこうして相談するってことが、とてもスッキリとするなぁと改めて思った。

そう言えば誰かに相談なんてした事、昔はあっただろうか。自分で全て抱え込んで、両親にも学校の先生にも、そして幼馴染にもした事ないような気がする。そう思うと変わったのだろうかと感じる。


横になって考えて、ひとつ決心した。俺のまずやるべき事は……。

「どうしたんだ草薙」

「何というか。蓮が僕ら以上に崎田さんのことを気にかけているような気がしてね」

「やはり運命共同体……」

「やっぱりそういうもの?」

「その辺にしてやれ。二人共」


 不安なのはみんな同じ。

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