真実は陰のみぞ知る
渡辺美鈴を保護したという報告を受け、一同騒然としていた。五班に同行した後、別の部屋で任意による事情聴取をしていたのだが、事件に関する本人の記憶があいまいというかなかったようで。バイトの帰りに何者かに腕を掴まれ、そのあと今に至るまでの記憶がないと言っていた。これ以上聞き出しても仕方ないと考え、先程用意されたタクシーで本人の自宅に帰された。
各班の報告を終えて整理もしつつ皆で話し合い、意見をまとめている。
渡辺美鈴のこれまでの動向や写真の男、成田篤憲についてが今回の大きな焦点となった。
「それにしても、あの情報を果たして信用してもいいものなのだろうか」
「確かにな。そうは言っても賭けてみるしかないというのも皮肉なものだがな」
「言えてる言えてる」
「お前が言うな。人に当てずっぽうなお使い頼みやがって」
「い、いやいや。成果はあったんだしいいじゃねぇか」
「そりゃただの結果論だ」
「いい方向に進んだとはいえ、うちのものがご迷惑をおかけしました」
「そんな、森嶋さんが謝らなくてもいいですよ」
崎田さんたちが手に入れたという写真について、俺たちが高橋遥希から聞いた成田篤憲であると確信した。話を聞いた際に彼から提供してもらった写真とそっくり似ていたので間違いはないであろう。
もう一つの地図のような何かについては地図として捉え、点の打たれている場所の特定を進めているところだ。
ただこれが問題で、本当に有力なものになるかという保証がない。崎田さんにそれを見せられた時は驚いた。子供の描いたような宝の地図というのは流石に大げさだが、あまりに抽象的というか、ざっくりしすぎているというか。
仮にそうだったとして、その場所を特定できるのかというのと、その点の場所に行って何か得られるのかとすると、なんとも言えない。
しかしそんな不安もすぐに解消されることとなった。
報告会が始まってから一時間ほど経った頃。部屋の外、廊下のほうから足音が聞こえてきた。徐々に大きくなっているところを聞くに、こちらに向かっているようだ。そしてその足音がドアの前で止まると、勢いよくドアが開けられた。
「小松主任! 緊急報告です!」
「どうした?」
「捜索班より、当事件で行方不明となっていた絢瀬愛乃、松浦菜々香、山科京子、そして雪村凜香の四人を保護したとの連絡が入りました!」
「本当か!」
そのあとの説明によれば、崎田さんたちが手に入れたという地図らしきものを解析し、ここ周辺の地図と照らし合わせてみたところ、候補と思われるアパートを特定して捜索班を向かわせたところ、行方不明となっていた四人がいたとのことだ。今四人の身柄は警察のもとにあるとのことだ。
「今回の調査で、事件解決に向け大きく進展した。偶然の重なったというような感じもするが、被害者を全員保護できたことは大いに喜ばしいことだ。今後の方針をこの男、成田篤憲の調査に切り替えていくこととする」
これまで事態が膠着していたということもあって、皆の士気が一層高まった。
「しっかりと休んで、週明けからの調査にも尽力してほしい」
報告会を終えて解散となった後、崎田が邦岡を呼び止める。
「邦岡さん」
「崎田か。どうした?」
「先程の件についてです。邦岡さんはどう思いますか」
「今回はあの情報もあってよい方向には進んだが、素性がわからない以上何とも言えないな」
「写真のほうは、黒宮君の得た情報とも一致していたので。信用してもいいんじゃないか……なんていうのは短絡的ですよね」
「私たちを試すといっていたのも気になる。私たちがこの事件を調べている。ということを分かっているあの話しようも気になる」
「ニュースでも時々言われてますし、執行班が関わっているというくらいは知っているんじゃないんですか?」
「そうにしても、明らかに異常だろ。だったら渡辺美鈴を我々のところに差し向けてくると思うか?あんな戦闘をしてまで私たちを試すと思うか?ただの目撃人じゃあないだろう」
「まぁ。そうですね」
今になって冷静に振り返ってみると、何故ここまでするかという疑問はある。渡辺美鈴と一緒にいたということは犯人の協力者であるというのか。それとも私たちにあんな情報を提供して、渡辺美鈴を差し出したというのならというなら私たちの協力者なのか。
どちらにしても放っておけない人物だというのは間違いない。
「あの人について調べてみますか?」
「そこまで手が回るものか……。実質後は犯人捜しだからできなくもないが。だが上はあまり、そこまで興味が無いようでな」
「だったら私たちだけででも調べてみますか?」
「一応主任には相談してみよう。無断で進めるわけにもいかないからな」
「そうですね」
「何やってんすか紫苑寺さん。またお祈りタイムっすか」
「邪魔すんな桐生。今結構いいとこまで来てんだ」
報告会を終えた後、山水高校執行班の八人は場所を変えて打ち合わせをしていた。でもって紫苑寺は左手をインスタントカメラの上に置き、額に右手の人差し指と中指を合わせるようにして当てている。
「なんだ。瞬間移動でも覚えたか?」
「集中を乱さんでくれ中本。もう八割くらい来ているところなんだ。」
「大体外れる」
「そうっすね」
「ですね」
彼の後輩である竜胆と古沼、荻原からも心無い一言を浴びせられる。
「あぁーもう!? 頼むから余計なこと言わないでくれ!」
そう叫んだところで、彼の左手のおかれたインスタントカメラのシャッター音が鳴り、一枚の写真が出てきた。今度はピンクの髪の女性の写真が出てきた。
「……紫苑寺さん。今度は下心でも混ぜて念写したんすか」
「やっぱり外れる……」
堪えきれず、本心を隠すことなくくすくすと嘲笑う桐生と竜胆。
「い、いやいや! 至って俺は真面目だ。それにまだわからんだろう!? そ、そーだ桐生! またあいつらにこれ送ってくれねぇか頼むよ!」
「一応送りますけど、黒宮の奴が今度も応じてくれるかどうか……」
「かたじけない」
「先輩の威厳、ボロボロっすね」
その夜。一人の男は苛立ちながら夜の住宅街を歩き、人気のない公園に辿り着く。ベンチに座っているとそこに一人の女性が取り掛かったのが見えたので、それを呼び止めてこちらに来るように促す。
「なんだいあんたか」
「おい! どういうことだ!」
男は女性に近づくやいなや、彼女の胸倉をつかんで自分のほうに引き寄せる。
「何のことだ。私は何も知らねぇよ」
「しらばっくれんじゃねぇ! どうしてくれる!」
自分の服を掴んでいる男の右腕を振りほどいて二歩後ろに下がる。
「確かに最初あんたに声かけたのは私だが、別にあんたに協力するなんざ一言も言ってねぇかんな?」
「うるせぇ! 黙ってろ!」
「はいはい私はお役御免ってか。ならこれっきりだ」
そう言って男の胸元あたりに手を当てるとグイッと突き飛ばした。男は五メートルくらいは飛ばされ、よろめき体勢を崩して尻から倒れこむ。
女性はそのまま歩いて行って、男からさらに離れたところで振り返って一言。
「最後に一つだけ忠告してやる。試供品で渡したそいつだが、せいぜいあと二回くらいが限度だろう。追加はねぇから大事に使いな」
「お、おい待て!」
男の言葉には耳を貸すこともなく、女性はその場を立ち去った。
「……」
舌打ちしながら男は左腕につけられた腕輪、それにつけられた小さな結晶のほうに目を向ける。八割くらいが透明になっており、残りはピンク色に光っている。
「まぁいい。もう次のターゲットは決まってんだからよぉ。これまでの女なんざどうだっていい」
「で、でもさ。さっきは間接的にとはいえ当たったんだしさ」
「そういう事じゃなくてですね」
「確率……上がらない」
「ぐぬぬ……」
下手な鉄砲数撃ちゃ当たる理論ではダメです。




