誘うものは妖しく笑う
遡ること数時間前。
『どうですか。何か手がかりは見つかりましたか』
「なんとも言えませんね……」
『わかりました。そろそろ昼時です。適度に休んで午後からに備えてください』
「ちょうどそうしています。そちらもお気をつけて。失礼します」
中本は電話を切ると、やっばりか。というような苦い表情をしていた。
「森嶋のほうも大きな動きはないのか」
「みたいですね。まぁ焦らずに行きましょう」
邦岡さんの率いる五班と、山水高校執行班の副班長である中本さんの率いる二班は、つい先ほど合流したため、午前の活動報告も兼ねて昼食をとっていた。しかし双方新たな収穫はあったのだが、有益といえるものでもなく、皆深いため息をこぼしていた。
「午後からの調査もある。今はしっかり休んでおこう」
「ですねぇ。あっ。すみませーん。このパフェ一つ追加で。」
「僕も同じ奴お願いします」
「かしこまりました」
崎田と草薙が通りかかった店員を呼び止め、デザートの注文を入れる。
「あのなぁ」
「甘いものは別腹ってやつです。もちろんこの分のお代は自分で出しますから」
「そうですそうです」
「まぁいいか。今くらいは」
「Zzz……」
中本は少々呆れつつもそれを黙認するのであった。
その後は各々ドリンクと一部デザートを片手に今後の活動についての相談。一人テーブルに顔を突っ伏せて寝ている人がいるのだが、起こすのが面倒なのか放置されている。
「それでそっちはどうするつもりだ」
「こちらはまず、山科京子の関係者へのアポがあるんでそちらからだ。その後はもう一度現場付近の調査だ。おそらくあんたらと同じような流れになるだろう」
「そうだな。こちらは絢瀬愛乃の友人と会う約束がある。そちらと流れはだいたい同じになるな」
「そうか。にしてもお互いに大きな進展がないとなると苦労ものだな」
「そうだな。かと言って何か起きないものかと考えても仕方のないことだからな。祈ってみたところでかわらんだろう」
「だな。ともかく午後の活動に気合を入れるしかないな」
「あぁ。見たところ皆落ち着いたようだな。そろそろ動くことにしよう」
「あぁ。いい報告ができることを願おうか。・・・」
中本は立ち上がって隣で寝たままの少女のほうを向く。
「竜胆」
「Zzz……」
呼びかけが聞こえていないのか、はたまた無視しているのか竜胆は寝続けていた。
「お前起きろ?! 休憩は終わりだ!」
「あと五分……いや三十分……」
中本さんが無言で頭に手刀を振り下ろした。
「ぐびゃう?!」
「午後のお仕事開始だ。さっさといくぞ。その前に財布出せ」
「経費落ちないのー?」
「んなわけないだろ。さっさとせんか」
「あはははは……」
「それでは、こちらからは以上になります。ご協力感謝します」
「いえ。いち早くいい報告が聞けるのを待っています」
「全力を尽くします」
対談を終えた私達は、午前調べていた場所に向かう道中で先程の話について整理していた。
今回取材に応じてくれた人物は西條亜衣奈。五班の担当である絢瀬愛乃の友人で、行方不明となった当日、彼女と一緒に現場近くにいたそうだ。街を色々と回り、彼女と別れたのは午後五時半頃。それまでは二人が離れることはなかったそうだ。
無論、絢瀬愛乃が事件に巻き込まれたのはそのあとになる。というがそのあたりはわからない。言うまでもないがそのあとについてみた人がいないからだ。
「ひとまず、午前中調べていた場所に戻ろうか。何か得られるかはわからないが、他に策がないというのは情けない限りなんだがな」
「ってどうしたんだ崎田。ぼーっとして」
「あっ。すみません。なんというか……誰かに呼ばれているような感じがするんです」
「疲れているんじゃないのか?」
「そういうわけではないんですが……」
なんだろう。邦岡さんの言うように幻聴でも聴いているのだろうか。でも疲れているわけではない。もしかしたら本当に誰かが私に呼びかけているのだろうか。そう考えていると、草薙君が突然前のほうを指さして叫んだ。
「く、邦岡さんあれを! あそこに立っている人もしかして……」
「なぜ彼女がここに!」
「いったいどうしたの……ってあれって!」
草薙君が指さした人物。それは渡辺美鈴であった。あの写真と服装や装飾品も一致している。私たちが調べているこの失踪事件で最初に被害にあった人物が何故ここにいる? 犯人のところから逃げてきたのだろうか。しかしさっきからこちらを向いて立ち尽くしているばかりであった。
以前邦岡さんに、こういう時下手に手を出すべきものではない。と言われたことがあったのを思い出した。相手の考え、行動が読めないという状況。しかも今回扱っているのは失踪事件。誘拐とも見れる事件であり、彼女が犯人の指図で動いているという可能性もある。
「どうします? 保護するべきなのはわかってるんですが」
「もちろんそのつもりだが、なんだか様子が変だ」
「といいますと?」
「あの様子だと逃げてきたというようには見えない」
「だったら……」
あれやこれやと話していると、こちらを見ていた渡辺美鈴は反対のほうを振り向いてあるいていこうとしていた。
「って。あの人どっか行っちゃいますよ!」
「追うぞ」
ふらりふらりと歩いていく渡辺美鈴を私たちは慎重に追っていく。五分くらい尾行していったところで私たちが辿り着いたのは、どこかの工場の跡と思しきやや大きめの建造物。
彼女はその中に入っていくと、ふらふらと奥のほうに向かっていく。
「どうします?」
「深追いがよくないのは理解しています」
渡辺美鈴が入っていった建物の入り口の陰で私たち三人は中の様子をうかがっていた。入っていくのが見えたので、間違いなく彼女はこの中だ。しかしうかつに飛び込んで返り討ちになんて合おうものならたまったものではない。
「他の班に連絡して応援を呼びますか」
「そうしようか。私が様子をうかがうから崎田と草薙で連絡入れてくれ」
「「了解です」」
応援を求めて連絡を入れたのだが、私も草薙君も渋い顔をしていた。
四班と六班、李梨華ちゃんと黒宮君の班に電話を入れてみたが取り込み中故手が離せないということだ。なんでも合同でとある調査をしているといっていたのだが、そうと分かるや慌てて電話を切ってしまったので、詳細をちゃんと聞いてなかった。
後は森嶋さんの班にも連絡を入れたのだけれど、こちらは場所が遠い。もともと調査の大まかな場所が私たちとは反対の方向にあるのだ。無理もない。
草薙君は二班と三班。中本さんと紫苑寺さんの班に連絡を入れたのだがこちらも都合がつかず、すぐにはこちらに向かえないとのことだった。
それを聞いた邦岡さんが、今主任にこのことを報告している。
「わかりました。失礼します」
邦岡は電話を切ると私たちの方を向いた。
「どうですか?」
「判断は一任するとのことだ。どうする?」
「行きましょう。ここまで来て引き返したくはないです」
「僕も同じ意見です」
「わかった。いくぞ」
一歩一歩、周りを確認しながらゆっくりと足を踏み入れる。建物のほぼ中央まで入っていったところで一度止まり、背中合わせになって警戒する。入ってからという物静かなもので不気味な雰囲気を漂わせている。
「そこまでピリピリしなくてもいいじゃあないか」
入り口から見て奥のほうからこつんこつんと足音が響いてきた。そしてその方向から一人の女性が現れた。
「用があるのはこの人かい?」
そういって彼女の後ろを歩いてきたのは、私たちをここまで案内した渡辺美鈴だった。
「彼女に何をした」
「さぁねぇ。言っておくけど危害は加えていないことは保証するわ」
「信用するとでも?」
「それはあんたらの自由さ。まぁともかく、彼女に少し頼んで君らをここに引き込んだってわけさ」
「なら私たちに何の用?」
「そうだねぇ。聞けばあんた達、あの事件の調査をしているそうじゃあない。それで、ちょいとあんたらを試そうと思ってさ」
「なんだと?」
「三人いっぺんでいいよ。さ。かかってらっしゃい」
「行きましょう。相手の口車に乗せられている感はいがめませんが、こうなればあと戻りはできません」
崎田は能力で作った刀を構えて邦岡に進言した。
「止むを得ん。陣形を乱すなよ」
「「了解」」
「どうしたんだ崎田さん。え?悪いが今手が離せなくて……って切れちゃったし」
「どうかしたの?」
「崎田さんから電話来たんすけど、手が離せないって言った瞬間切れちゃいました」
「あらあらぁー」
ゲーセンにてお取り込み中。




