不名誉な通り名
「元父親って……どういうことだ?」
「二年前に離婚した。それで父親が変わった」
「成程離婚か。差し支えなければそのあたりに関して詳しく話を聞かせてもらっていいか?」
「分かった。それに未練とか差しがましいこととかはない」
「そうか。なら頼む」
高橋遥希は黙ってこくりと頷いてから話を始めた。
俺と北島さんが、天才ゲーマーハルこと高橋遥希から聞いた写真の男について。
名前は成田篤憲。彼の知っている限り地元にある大手ツアー会社の支社で働いてた。そのまま勤務しているのか、転職しているのかについてに関しては不明。
離婚理由は夫である当人の浮気。現に母親も、数年ほど前から浮気を疑っていたそうだ。帰ってくるのがやけに遅くなっていたというのと、やたらと本人が使わないような香水の香りがするっていうようなことを言っていたという話だ。それで調べてみたら予想的中どころかそれ以上にひどい結果であった。なんと三股していたというのであった。
それもあって母親は離婚を決意。言い争いになるどころか、署名だけしてさっさと家を出て行ったという。
「成程。女たらしというわけか」
「その言い方はどうかと思うが」
「そう思われるのも無理ない。愛層なかった」
今度は彼から聞いた普段の成田篤憲について。というよりは彼の家庭における話であった。成田もそうだが彼の母親も銀行で働いており、いわゆる共働きの家庭であった。それ故家族で過ごす時間は少なかったという。離婚して新しい家庭となってからも、それは変わらずであったそうだ。
もとよりそれ以前の問題でもあったという。両親が家にいる数少ない時間であっても彼は両親と話すことはほとんどなかったという。別に両親のことが嫌いだというわけでもないというが、そういう環境で育ったからか、どう接するべきなのかわからなくなってしまったという。
「そうかわかった。次になんだが……」
「ねぇ。こっちも一つ聞いてもいい?」
「なんだ?」
次の質問に移ろうかというところで高橋に遮られ、こんな質問を投げかけられた。
「君たちは、家族ってどう思う」
「というと?」
「ふとした疑問。他がどうかってのが何となく気になる。それだけ。」
「家族か。私は極々普通の家庭ね。両親と、三人の弟たちがいるわ。」
「俺は……」
つらいこともあったので説明してもいいものなのかと悩んだが、意を決して話すことに。
「……半年くらい前に両親を亡くしているんだ。事件に巻き込まれてな。今は祖父母と妹と暮らしている。つっても妹は養子みたいなもんで、血はつながってないんだがな。」
「そうだったの?!」
「あぁ。つってもあんたが気にするもんじゃねぇ。昨日の出来事ってわけでもないんだし」
「でも一人じゃないのね」
「そうか。それでもあんたたちは俺と違う」
「違うってのは?」
「俺が天才ゲーマーって呼ばれるようになったのは、そういう環境だったから。さっきも説明した。父さんもそうだったけど、母さんとも一緒にいる時間は短かった。今になれば仕事が忙しいっていうのはわかってるけど、とても寂しかった。そんな僕にとってゲームをしている時間っていうのは唯一の自分らしい時っていうのか」
「……」
両親共働きで一人でいる時間が多いってなる以上、そうなるもんなんだろうかと思う。俺は両親を亡くしたとはいえ、生前家族と過ごす時間は、決して多いとは言えないが少ないわけでもなかった。
「気が付いたら一人になっていた。家の中だけじゃない。周りからも取り残されていた。誰かと付き合う方法がわからなくなっていた。」
「……」
「そんな自分がなんだか寂しかった。でも今の俺にとってゲームっていうのは生き様みたいなもの。捨ててしまったら俺には何も残らない。それがまた怖くてやめられなかった」
「これが天才ゲーマーハルの実態。周りの奴は慕ってるのか尊敬してるのかわかんないけどそう呼んでる。でもこんな通り名なんて俺には何の価値も名誉もない。益々自分が孤独になっていく気がしてならない」
「あんた……」
「って何話してるんだろうな。気持ち悪いよな。すまない」
話したいことを話し終えた、というよりは我に返ったからというべきだろうか。
「そんなことはない。誰かに悩みを打ち明けるっていうのは悪いことでもなんでもねぇよ」
「そうね。降り積もった虚無も、いつしか深淵のおおいなる常闇へと変貌していくこととなる。抱え込む必要はない。このリリーシェが受け止めてやろうぞ」
「塵も積もれば山となる。だかんな。そんなこと言うのはお前だけだ」
「良いではないか。どう言おうが」
「そんな問題じゃねぇよ」
「しかしだハル。いや、高橋遥希」
「何?」
北島さんは立ち上がると、彼のほうに右手を差し出した。
「私はあなたの家族にはなれないが、友になることはできる。最初の一歩が重要ではないか。」
「友達?」
「それに遥希はゲームが好きなんだろう。そうでなきゃ伝説のゲーマーなんて呼ばれるような存在にはなれないわ。孤高だなんて言うけど、わたしはそういうのって憧れだと思うのよ」
「憧れ……」
「私も一人のゲーマーとしてあなたは超えたいと思う存在なのよ。そして、同じものを愛する者として分かり合いたいとも思うわ」
「……」
「だからこそ。私はあなたの友になりたいわ。そして――」
開いていた手を指さす形に変えると、こう宣言した。
「いつかまた、このリリーシェが勝負を挑むわ!」
ニヤリと笑ってから、高橋は立ち上がった。
「いつでもどうぞ。勝つのは俺だけど」
「なら勝利をつかむまで挑み続けるまでのこと」
高橋は北島さんの差し出した手を握った。
「ところでハル。ノーツクライシスについていろいろと話したいことがあってね」
「あれか。この前のアップデートで追加された……」
「……」
その後は意気投合。新しい友情が芽生えたのは大いに結構なんだが、今は仕事中だ。ゲーム談義で三十分も費やさないでください。
「おーい。北島さーん。そろそろ時間もないからそろそろお暇するぞー」
「もう!? まだ話したいことが幾多とあるというのに……」
「仕事中だってのを忘れんじゃねぇ」
「はぁ。仕方がないわね」
「まぁともかく。情報提供に感謝する」
「そちらも。感謝する」
高橋遥希と別れた後、俺は泰牙に電話をかけた。
『おぉ蓮。どうだった』
「……間接的にだが大当たりだ」
『マジか!』
「……」
『よかったっすね紫苑寺さん! 今回は感がさえたって感じっすね!』って言ってるのが電話越しにだが聞こえた。頼むから人に運任せなお使いを頼むのはやめとくれ。
「後で全員合流することになるだろ。その時に報告する。」
『あいよー。報告楽しみにしてるぜー』
電話を切った後。俺は大きなため息をついた。有力な情報が得られたという安堵もあるが、賭けをさせられたということを考えるとあいつに呆れて仕方ないから。
午後の活動を終え、一同は上が用意したビルの一室に集まり、報告会を行うこととなった。その場で俺と北島さんは高橋遥希から聞いた写真の男、成田篤憲について報告した。
これでも大きな進展となった。しかしこれだけではなく崎田さんのいる二班から、更なる報告が二つもあった。事件について核心を知るかもしれないという女性と接触したというものであった。そしてもうひとつが……
「最近はあのキャラのスキルが強力」
「確かに。上方修正入って見違えたわね」
「……」
わからないからついていけません。というかなぁ。仕事に戻ってください。




