天才ゲーマー・ハル
天王寺さん、えらく真っ向から言ったな。まぁそうするしかないような気もするのだがな。ただあの様子だと取り合ってもらえるのかわからんのだが。
「班長ったら相変わらずの真っ向勝負ねぇ……」
「相変わらずって……」
考えていることは同じであったようだ。まぁそんなことはどうでもいいの。それより今はあの少年との交渉が優先だ。何とかならないものかと思っていると黙っていた少年はまた口を開いた。
「一つ条件」
「条件?」
「あんたら、俺がハルだと知ったうえで来ている」
「あぁ。そう思ってもらっていい」
「ならゲームで勝負。君らが勝てとまでは言わない。満足させられるなら考える」
「勝負……だと?」
「ここはそういう場。いやなら降りる?」
相手は伝説のゲーマーだぞ。今ここにいる連中で誰がやれるというんだ。しかもあのしゃべりよう。強者の余裕ってやつか。明らかにこちらをほくそ笑んでやがるぞ。こうなっては相手の土俵。俺たちでは返されたこの挑戦状を受けられる奴はいないのではないか。ここまで来て足止め食らうのか。そう思った時、一人前に歩み出るものが。
「よかろう。このリリーシェが相手をしようではないか!」
「北島さん?!」
「君がやるのかい。わかった」
「いやいや待て待て!? 相手がだれかわきまえてます!? 天才ゲーマーだぞ! 俺たちの勝てる相手じゃあねぇんだぞ!」
「ふっふっふ。それくらい十分心得ているよ」
「だったら……」
言いかけていたところで北島さんがすっと、俺の顔の前に右手を突き出す。
「確かに勝てるかなんてわかったもんではない。だからと言って我々執行班が引き下がってどうするというの? せっかくのチャンスをみすみす捨てるというのか?」
「そ、それは…」
「それに彼とは一度対戦してみたいと思っていたの。今がその機会ってやつじゃない」
「……」
言ってることは格好良いことな気もするんだが、後半は私情が混じってません?
と、ともかく。北島さんが相手をすると名乗り出た。後は彼女に任せようか。
「待たせたわね。改めて、このリリーシェが勝負を申し込むわ!!」
「いいよ。好きなゲームを選ばせてやる」
北島さんは音ゲーのほうに向かっていった。でもって彼女が選んだゲームは――
「で。ありゃいったいなんなんだ」
「ノーツクライシスね。大手ゲーム会社のタイニーによる、先月に稼働したばかりの最先端リズムゲーム」
「詳しいんだな。袴田」
「詳しいってか、班長があまりに情報に鈍いのよ。熟知しろ。だなんて言わないけど名前くらいは知っててもいいんじゃないの?」
「社会情勢ならともかくこういうことまではいいんじゃないのか?」
「そんなこと言ってるから鈍いって言われるのよ。相変わらずねぇ。本能で動いてんじゃないんだから。どうして戦うことになる時だけ頭が回るのかしら」
「ん゛っ」
図星なのか天王寺さんは反論できずにいた。
「ところで蓮君はこういうのやったりはするのかしら」
「まぁ。以前住んでたとこの友人らとこういうのやったりはしてましたが……。俺は別段うまいってもんじゃないですよ」
「そう。まぁ知ってるってことね」
「そういう袴田さんはどうなんすか」
「ちょろーっとだけどやったことはあるわね。友達に連れられてね」
用意を進める二人であるが、天王寺がハルに対してこんな一言を。
「おいあんた。一応確認しておくが、能力の使用は無しだからな」
「ゲームは真剣勝負の場。俺がそんなことすると思ってんの?あんたら」
「一応そう言っただけだ」
「天王寺さん。あんまり突っかかるもんじゃないですよ」
「そうね。此度の勝負に小細工は一切不要!それでいいじゃないの、ハル」
「……リリーシェって言ったっけ。君よくわかってんね」
「ゲームを嗜むものとして当然のことではないか。チートもツールアシストも不正も小細工も無し。お互いに正々堂々の勝負を所望しているということではないか」
「これまで相手した人で姑息なやつもいたけど、君のようなのは初めて。後は君の実力次第」
「興ざめさせぬ程度には」
「いいのか黒宮。お前が行けば秘密裏に能力使用してるっていう不正を暴けるかもしれないんじゃないのか?」
「遠慮しときます。あの場に首突っ込みたくないです」
いちおうはあの少年を信用している。
「そんなこと言ってる場合か!」
「やめなさいよ班長」
「本人があぁ言ってるならそういうことでいいじゃないすか。本来の実力で勝ってこその、伝説のゲーマーってやつじゃないんすか」
「お前。実際面倒くさがってるだけじゃないのか?」
「……別に。余計な争いをしないのが俺の主義なんで」
半分正解。余計な口出ししたくないというのもあるが、あまり人を疑うということをしたくないというのもある。それ故だ。
ルールは一曲勝負。シンプルな方法でだ。
この対決を見ようとゲーム筐体の周りにはわらわらと観客が十数人ほど集まってくる。それでもマナーをわきまえているのか、曲が始まると静寂そのものであった。
息もつかせぬような、ミスのないプレイ。結果お互いにパーフェクト。観戦していた観客からは拍手が上がった。そして……僅差でハルの勝利に終わった。
「いいもん見せてくれるじゃねぇか!」
「負けちまったが、すげぇじゃねぇかお嬢さん!」
「ハルとあんな勝負できる奴初めて見たぜ!」
「このリリーシェの負けか。ハルと相まみえたことを光栄に思うわ」
「そりゃどうも。力になれるかは知らないけど、事情聴取くらいは応じる」
「っていいのか? 俺達は負けたってのに」
俺はハルにそう聞いた。
「俺は満足させられたらって最初に言った。勝てたらとは言ってない。そしてこの勝負、久しぶりに張合いがあって楽しめた。だから応じた」
「その心意気に感謝するわ。天才ゲーマーハル」
「こちらも。君のようなゲーマーと対戦できたことに感謝する」
その後、天王寺さんと袴田さんには本来の調査に戻ってもらい、俺と北島さんがハルと話をすることになった。場所を変え、近くのカフェに入る。
「兼城学院執行班の黒宮蓮です。そしてこちらは……」
「改めて。リリーシェである。以後お見知りおきを」
「もとい、同じ執行班の北島李梨華さんだ」
「リリーシェでいいじゃないの?!」
「さっきは大目に見て目ぇつぶったが、今はちゃんと本名名乗れ」
「うぐぅ」
流石に今は状況が違う。ちゃんと名乗ってもらわなくては困る。
「一応名前をうかがっても?」
「ハル。……またの名、高橋遥希」
相手の名前が聞けたところで本題に入ることとした。
「まず最初に。これから話される内容の一切についてはみだりに公にしないことを約束します」
「そういうのはいい。要件は?」
「俺たちは今ある事件の犯人と疑わしき人物について調査しています。この写真の人物なのですが、何かご存知でしたら教えていただけると幸いです」
俺はカバンの中から一枚の写真を取り出し、高橋に見せた。
「……」
「知らないならそう言ってもらえればいい。そう思ったのはあくまでこちらの推測にすぎませんから。それか、言いたくないというなら無理に言ってくれなくてもいい。我々は君の考えを尊重する」
「堅苦しいのはいい。それに嫌とかではない。話せることは話す。そういう約束」
「わかった。なら聞かせてもらってもいいか?」
一呼吸してから高橋はこう答えた。
「この人……俺の元父親」
「やっぱり疑わしいんだが」
「あんまり煮詰まるのもよくないわよぉ。しつこいのもどうかと思うわ」
「どこまで言えば気が済むんだ」
「さぁ……」
終わってしまったものはそれっきり。




